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守護の記録  作者: ツギハギ
春夏秋冬祭り──開幕中──
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第72神 どうして

春夏秋冬(ひととせ)祭り、2日目!

 皆様、昨日の文化祭は楽しんでいただけましたかー!?

 まだまだ文化祭は明日も続きますので、ぜひ最後まで楽しんでくださいねー!』


『さて本日の目玉イベント――

 バトルロワイヤル実況を担当させていただきます!』


白刄(はくば)高等学校二年、鵜ノ川(うのがわ)(ふう)

 そして同じく二年、島崎大地!

 白刄(はくば)名物ラジオコンビがお送りしまーす!』


 放送室とは違う、ドーム上部に設けられた実況席。

 そこから二人は、観客で埋まりつつある会場を見下ろしていた。


 ドームには高校生だけでなく、子ども、大人までが集まっている。


 そして――


 島崎の目には、観客席に浮かぶ妖精や、柱に腰掛ける妖怪の姿まで見えていた。


「……去年も多かったけど、今年もすごいな」


「ねー」


 マイクに向かって声を張り上げた。


『それではバトルロワイヤルのルール説明をします!

 去年まではポイント制でしたが――』


『教師の皆様が数えるのが面倒という理由で、

 今年からは“大将の腕章を奪ったら勝ち”ルールになりました!』


春夏秋冬(ひととせ)祭り自体が教師の思いつきですので、

 ルール変更はどうかご容赦ください!』



『各高校代表の皆様、準備はよろしいですか〜?』


 神無(かんな)側と神居(かむい)側でそれぞれ分かれて、何人かが座っている。



「あ、鳴海さんと伊予先輩だ」

「ふふ、本当だ〜」

「あっちには信善寺(しんぜんじ)にいる梟谷(きょうたに)さんだ!今年は勝てるかなぁ」


『商品はこちら!原初の龍です!』


 箱の中を見せるように持ち上げる。

 中央にあるモニターに箱が映る。



『本当にあるのかー?なんて思う神無(かんな)の皆様、ご安心ください!神居(かむい)の不思議アイテムの一つなので本当に願いは叶います!!』


「…原初の、龍」

「あ、大地は聞いてなかったっけ?そうだよー今回の商品は原初の龍の手だよ」



 見たことがある、なんでだ。聞いたことがある。

 ドラゴンタクシーとは違う、龍の話。

 頭が痛む。


「大地?大丈夫?」

「…っ、うん、ごめん大丈夫」


 抱えていた頭から、手を話しながら龍の手を見る。


『みなさん準備できましたか?

 それでは〜、バトルロワイヤル、開始〜!』



 開戦の合図とともに、各高校の生徒たちが、扉から出てきた。

 俺はこれから何かが起こる小さな予感を感じながら実況役として徹することにした。他のことは先輩たちに任せることにしよう。


 だがその時、俺はまだ知らない。


 このドームの中に、

 人間ではない何かが…。

 この文化祭を、この世界を壊す何かが紛れ込んでいることを。







【イーッヒッヒッヒッ!これで!アルバート様に届けられる!】


 人間がみんな見れないのをいいことに、ドームの中を悪魔は走りながら、実況席を目指す。


【アルバート様、アルバート様!我々の魔王様!貴方様がいるのに神が君臨しているなんてこの世界はおかしいのです!】


 バトロワ中の人間たちを見上げる。

 超能力のぶつかり合いの中悪魔はするすると間を抜けていく。


 観客席を抜け、目的地まで走れば、妖精や妖怪に止められる。


『貴様、何の悪魔だ』

『バトロワ中よ〜』

【悪い悪い、いい席がないか探し中なんだ】

『上の方とかなら見れるんじゃない?』

『羽があるのだから飛べば良いではないか』

【みんなの邪魔になるだろ?静かに歩いてるのさ】


 そうやって言えば、妖怪や妖精は納得して道を開けてくれる。

 悪魔の言葉なんざ1番信じちゃいけないだろうに!馬鹿な奴らだ!!

 しめしめとまた進む。

 無駄に広いドームは、この小さな悪魔アポロ様にはなかなか辿りつかないものだ。




 人間の足の間を抜けながら進んでいく。


『おおーっと、ここで、信善寺(しんぜんじ)の最強!梟谷(きょうたに)だー!』


 わぁああ!と信善寺側から声が上がる。


梟谷(きょうたに)さん、去年は後一歩でしたねえ』




【ふん、アルバート様より弱い人間なんぞどうでもいいな】



梟谷(きょうたに)さんの超能力はカウンターですからねえ、攻撃されたものが全部倍になるオールカウンターです』


『本来この超能力は、超能力者が攻撃できない仕組みなんですが、さすが最強。フィジカルが強いことでそこを綺麗にカバーし、攻撃してますねぇ』


 

『あちらでは、白刄(はくば)vs黒刃(こくば)!因縁の戦いです!』

『共学なことに恨みを持ってる黒刃(こくば)ですがそもそも男子校に自ら行ったのはお前らだろというツッコミは皆様心の中に閉まってくださいねー』

『あちらでは、幸村さんとはじめくんの黒刃(こくば)先輩後輩コンビvsうちの生徒会長と副会長コンビですね!

 きゃー!伊予先輩ーー!かっこいいですよー!』


 紫の長い髪を揺らして、伊予は実況席の鵜ノ川(うのがわ)に手を振る。


『きゃー!!さすが伊予先輩…白刄(はくば)の女を全て抱いた女…』

『そうなんだ…?伊予先輩すごいなぁ…』


実況と解説を行っている人間の声を聞きながら足の間をまた抜けていく。




【俺様が、この世界を…あなた様を必ずや上に…!】




 実況の声が近づいてくる。


 歓声の音も大きくなる。


 ああ、もう直ぐだ







『──それでは、開始!』



砂煙と共にぶつかる衝撃波。巻き起こる風に、実況席だけでなく会場全体が揺れた。


「はじめー!いけー!」


はじめに向かって飛ぶヤジに、はじめは軽く手を振った。


「ふん、二年生だからって舐めないでくださいよ先輩」


数メートル離れた先にいる、鳴海の手元から色鮮やかなトランプが現れる。

一枚、二枚、三枚とシャッフルされていく中、一枚だけが鳴海の手元に残った。



「それじゃあ、俺の能力見せよっかなぁ!『大富豪』」




『大富豪?』


鵜ノ川の声に大地が解説を担当するためにマイクに声を入れる。


『鳴海先輩の能力は、トランプ。

トランプのゲーム内容が能力になり、ゲームの特殊効果が使われるんですよ。そう例えば大富豪だったら────』


会場の空気が変わる。その場の制圧者が鳴海に変更されたかのような、呑まれる空気。

その中で佇む鳴海の動きを全員が警戒しながら見る。

動かないのではない、動けないのだ。


「俺が『大富豪』だから、はじめくん、それちょーだい!その代わりこれあげるよ」


はい、と手渡す鳴海のジャケットを受け取りながら、自分の持っている腕章を焦るような顔を向けつつも鳴海に手渡したはじめ。


「…は!?身体が勝手に!」


『あれ!はじめくん渡してますけど!?』


『そうなんですよ〜実は鳴海先輩の能力、『トランプ』は先ほども言ったようにそのゲームの中にある特殊ルール、および効果が能力になります。

そしてこの能力の範囲はこの場全体。つまりこの全体が今遊び場ってことですね。』

『広範囲型、ルール確定能力系!厄介ですねえ!』


ウキウキとした顔で目の前はじめと鳴海を見ながら納得する鵜ノ川。


『ほんとに厄介!わかりやすく、『大富豪』であれば、7渡し、10捨てなんて特殊ルールの通りのことが起こる。

トランプゲームだと、7渡しであれば盤面に7を出せば自身の手札から相手にいらないカードを渡せます』

『あー!なるほど!鳴海先輩自身を『大富豪』扱いにしたのか!』』


『あ、腕章が無くなっちゃったのではじめくんは戦線離脱でーす!』

「卑怯だろあんなのぉおぉお!!」


『…えーと、大富豪のルールだと一番最初に上がった人が大富豪、そして最弱から最強のカードをもらうから今回のは成り立つのか!』

『今回の場合は腕章とジャケットだからなんで成り立ってんのかはわかんないけどなぁ…で、この人のルールで厄介なのがぁ…』



 ジジッ、と機材から嫌な音が鳴る。

『あ……き…な…ん』








「えーーー?!何で急に機材が使えなくなったー!?」

「うわ!声入らない!まずいって、アナウンスアナウンス!」


 "ただいま機材トラブルにより、マイクの声が入らなくなっております。バトロワは続きますので少々お待ちください"


 実況席のトラブルの声が聞こえてくる。


 はは、呑気にしてる奴らめ。


 あれだ。


 人間の足を抜けて、何かわからない大きな機械の横を通り抜ける。


「…ん?」


 実況席の大地()と目が合う。ニヤリと笑う。


「あ、悪魔!」


【気付くのが遅かったなぁ!人間!!これは俺がもらってくぞ!】


 悪魔が手に取ったのは、原初の龍の手。

 モニターが、大地たち実況席を映す。

 バトロワ中のみんなも、神無(かんな)の観客も、突然空中に浮いた原初の龍の手に驚く。



「あれって、悪魔?」

「神居では悪魔なんてあんまり見ないから初めてだ」

「悪魔の見た目ってイメージ通りなのね」


 神秘に、あまり驚かない神居に対して、神無(かんな)の人間は、驚きや観察をしている人が多数だった。


「え!?悪魔!?悪魔って本当にいたの!?」

「いや、あれは演出じゃないか?ほら、今年は腕章になったくらいだし急な演出だってあるだろ」

「子どもにしたって、小さすぎる気もするがなぁ」

「何だあの黒い見た目の生き物」

「悪魔って言った?神居の人たち」




 ガヤガヤと座席に動揺と、困惑の波紋が揺れていく。



「ちょ、お前!返せ!」


 大地の様子が面白いのか、モニターはそのまま実況席を映していた。


【返すわけないだろ!俺様がせっかく手に入れたこの願望器を!】


 悪魔の声が何故か、しっかりと拾われる。


「都合良すぎだろ機械のくせに!」

【ああ、叶えましょう!この世界の理を願いましょう!】


【お前たちは動けないように俺の能力で今固まってもらってる!はは!ざまぁねえなぁ!】


 くそっ!だから動かないのか!と人間が喚く。



 さて、と悪魔は実況席の台に立つ。


【龍の手よ、我が声に応えたまへ】


 悪魔が宙に龍の手を投げる。


 龍の手が白い光を帯びて、声のみがドームに響いた。





 “願いは、なんだ?“





 ざわりとドームの観客たちの声にまた波紋を呼ぶ。

 何となく、何かがおかしいのではないかと察してきているものたちがいる。

 けれど、誰も動けない。




 ──それは、神秘の声だ。


 本来なら人が聞けない、原初の声。


 願いを叶えるものしか、今この場で龍に向かって話してはならない。


「あぁ…鵜ノ(うの)ぉ、まずいぞこれぇ」

「悪魔って、本当にいたんだねえ」 

「呑気に聞いてる場合じゃないんだって!どう考えてもこいつは」


 大地の声に被せるように悪魔が叫んだ。


【神が統べる世界から、悪魔が頂点に立つ世界に!】



 大地はゾッと背筋が凍った。それは、全ての理を覆すもので、運命を変えるものだ。

 神は運命に逆らうことができないが、悪魔は理の外にいる生き物。

 関係ないのだ、彼らからしたら運命を守る必要なんてない。



 ────そして、それは龍の手も同じだった。




 “良かろう、神の世界から悪魔の世界に、変えてやろう“



 “さあ、貴様の代償を差し出すがいい“


【当然俺様は持ってきたわけだ。この世界の理を変えるための代償を】


 見たことのない、透明な木の枝。

(でも、何で既視感を覚えてるんだ、俺はあるんだ…?)


 龍の手が答える。


 “産夢(さんむ)の枝か“






 神居の人間が今度はざわつく。


産夢(さんむ)?」

産夢(さんむ)って言った?」

「え、まずくない?」

「じゃあガチじゃんこれ」


「…え、産夢(さんむ)の枝?」

 鵜ノ川(うのがわ)までもが呟く。

 動けない身体のせいで、何もできない。


 “交渉は成立なり“


 その瞬間だった。


 空気が、変わる。


 ドームの上空にあった雲がゆっくりと黒く濁り始める。

 観客のざわめきが、次第に静まっていく。


 何かがおかしい。

 誰もが、そう思った。

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