第66神 赤雷高校と緑高高校『雑貨店』
赤雷の方面に向かうと、そこはなんとも華やかな商人たちの巣窟だった。
輝く反物、宝石が散りばめられたカバンや雑貨、肌触りの良さそうな服、初めて見るような粉。
「…おぉ」
「わぁ…!」
あちこちと見渡した火雷は感激したように身体を一度ぐっと震わして、こちらを見る火雷の顔はとても輝いている。
ぐんっと小さな身体から出るとは思えない力で引っ張られる。
「うわっ!」
「あれ、妖精の粉だよ!あれは妖怪シラジラの手鏡…!予言を教えてくれるんだよー!
あそこにあるのはひなげし印の観音飴!ひなげしっていう生き物がいて…、観音様でね…」
「わ、わかったわかった…」
「本当にすごいんだよ蓮!これは貴重な体験だよ!」
「えぇ、なに?何がすごいのこれ」
「火雷は基本的に下界に降りてこなかったんだ…要は、箱入り娘だ」
「風伯は?」
「俺か?俺はやんちゃしたなぁ」
「神様にもそんな人間の若い頃みたいな話があんのね…」
たまたま目に入ったお店で火雷からの
「これ見たことない…もしかして五十年くらい新しい物?」
その一言でその店員さんが教えてくれた。
「おっと、これが新しいものだってよくわかったね?」
「書物で見たことがあるの。神居にある物達の話」
「え、そんな本出てたっけ…」
うーん、と店員さんが首を傾げる。
風伯に向かって実際はどうだったか聞く。
「おい風伯!実際のとこは!?」
「上から見てる側の神だからな。
下界に興味津々だったから、作られていく物の名前を覚えてるだけだ」
視界の端にキラキラとした塊が飛んでいたり、リーン、リーンと鈴の音。
なんとも異質な光景の中、好奇心旺盛な火雷ママの話を聞かされる。
「あ、そぉ…」
本当に箱入りだったんだなぁ。
火雷は手に取ったペンダントを掲げる。
上にあるテントの名前が『緑高』と書かれているのを見て、思わず呟く。
「ああ。神居のところの…」
「そう、神居にある緑高区っていう場所だよ。
緑高は妖精が多くてね。
君は視える子だろ?」
「…え、なんでわかったんですか…?」
「…普通の人はひなげしの観音飴とかも視えないから」
視えないんだあれ!!じゃあ普通の人には何に視えてるんだ!?
困惑していると目の前で瓶を軽く振った店員さんが笑う。
「うちでは、妖精が作るものを売ってるんだ、俺たち人間がね」
「妖精…」
「さっきからキラキラしてる物が見えるかい?」
「えっ、あ、はい」
「それは妖精だよ。目を凝らしてご覧」
えぇ…?
ググッと目を細める。
この辺この辺、と指を指された辺りを見ていると、小さなおじさんが羽を生やして一体。
「うぉ、おじさん…!」
「妖精さん、だよ。物作りの妖精の童話は聞いたことは?」
「あんまり妖精には詳しくなくて…」
「妖精じゃなくて、神にも妖怪にも都市伝説にも詳しくなかっただろお前」
「う、うるさいな」
そんな俺たちのやりとりを見て店員さんが笑う。
「ふふ、どこの国にも物を作る妖精の童話はたくさんあるんだ。ここの妖精達はその童話から生まれて、今の国では行き場がないからここに留まってるのさ」
「行き場って、どうして?」
「今の世の中は神秘に満ちてない。俺も日本出身なんだけど、全部科学で解決できちゃうから、神秘の存在の居場所がなくなってるのが現状」
「この妖精さん達はそういう集まりなんだよ」
居場所を奪われて追い出された、そういう悲しい生き物なのだと言われてなんだか悲しくなる。
「おじさんとか言ってごめん」
リーン、リーン。
「"気にすんな坊主!"だって」
「うーん口調がイメージ通りすぎる…」
「もちろん、かわいい妖精さんもいるから安心して!そうだ、こんだけ話に付き合ってくれたし、そのペンダントをあげるよ。君のところの小さな友人さんは気に入ったようだし」
「え、いいんですか?」
「もちろん」
火雷を見て店員さんが笑う。
火雷はペンダントを受け取り満面の笑みでそれを身につけた。
またねー、と手を振られてまたゆっくり歩く。
目的の赤雷のテント近くまで行く。
「なんか今日は不幸なことがあんまり起こってないなぁ、お化け屋敷くらいだったか、俺の不幸のピーク」
「俺たちがいるから比較的中和されてるのかもな」
少し進んでいくと人混みも増えてきて窮屈になってきた。
少し休みたいな…と思いながらため息をついていると、高いけどいい声が聞こえてきた。
「へい彼女!うちの店に来ない?」
ナンパ2回目である。
「結構です」
「そう言わずに………風伯と火雷…?」
風伯と火雷を見て目の前の男の人が固まる。
風伯達の視線がとても冷たいものになりながら、その男を見上げている。
「てことは、蓮?」
「…あの、もしかしてどこかで知り合いました?」
「嘘でしょ!?前前前回くらいにあったじゃーん!君が守護者になる前!広大と一緒に政府で!」
赤とオレンジのグラデーションの髪…
「あ、え?」
「いや今のはわかる流れでしょ!えーじゃあもう一回挨拶。僕の名前は蓮水近!コンコンの近ね!よろしく〜火雷と風伯とは知り合いなんだよねぇ〜、ね!」
「知らないよ、こんな変な人」
「俺も知らないぞこんなやつ」
「嘘つかないでよ!泣くよ僕!?」
「泣くなこんなことで」
じんわりと、契印に熱をもつ。
え、なんで、急に…?パッと右手を見た俺を見て、蓮水さんが笑う。
「おや、ふふ。」
「契印でも反応した?熱くなったかな」
その言葉に警戒をするが、風伯達が全く警戒していないところを見るに、大丈夫なはずだ。
言われてみれば、確かに…風伯たちと初めて会う時に、やってきた人だった。
でも、それとは違う形で彼の姿がブレるように見える。
目を擦る。なんだこの違和感は。
蓮水さんはズボンのポケットに手を入れて笑う。
時が止まる。
周りの雑音が消え、妖精たちが固まる。
風伯と火雷でさえも動かなくなり、目の前の蓮水だけが瞬きをして笑った。
見覚えのある光景。風伯たちと会う前、黒い化け物に殺されそうになる前、全ての時が止まったことがあった。
あの時、確かに目の前に来たのは。
「僕ねえ、実は神様なんだ」
────この人だ。
蓮水さんの言葉に何故かしっくりときた。
目を覚ました時に、鷺沼さんの横で、笑っていたあの男の人は確かに蓮水と名乗っていた。
火雷と風伯と知り合いなのも、神様だから、なのか。
ブレていた視界が鮮明になる。
赤い狐の耳に四本の尻尾が重なる。
ニンマリとどこか不気味な笑みを浮かべた蓮水さんは俺を見る。
「やあやあ、視えてるようで何より。
改めて、僕の名前は蓮水。ふふ苗字をそのまま使ってるんだ良い名前だろう?」
瞬きを一つ、すると姿が元の人間の姿に戻る。
「これからもよろしく、守護者くん」
「ぅ、あ…」
頭が、割れるように痛い。
ほぼ同時に喧騒が戻ってくる。
頭痛による気持ち悪さが身体を襲う。
なんで、シオンさんはもう無いって言ってたのに。
…違う、『僕は何もしない』と言っていた。
であれば、これは。
「蓮!?」
「蓮水!何したんだ!」
「やだなぁ、人聞きの悪い。何にもしてないよ〜」
その声はどこか嬉しそうで、ああ、この人は確信的にわざと姿を見せたのだと気づいた。
頭を押さえながらゆっくり座る。
いたい、いたい、
いたい、痛い!
蓮水、聞いたことのある名だ。
なんで、どこで。
記憶の片隅に、赤とオレンジのグラデーションの髪が揺れる。
"君、人間のくせになかなか傲慢だね"
その言葉に対して、『俺』が返す。
"人間だから傲慢なんだろ、何言ってんだ神様"
ブレる記憶のままに、記憶の中の蓮水さんが笑う。
"君なかなか面白いね"
『俺』は笑った。
"神様に面白いって言われたらおしまいだな"
なんだ、なんだこの記憶は、知らない。
…俺は知らない!
────以前、七不思議が終わった後に話していた、守護者制度の中に
『輪廻を巡る』そう言っていた言葉を思い出す。
「はっ、はっ、はっ…」
呼吸が荒い、なんでこんなに、苦しい。
息が、続かない。
頭が痛い。
汗が落ちる。
「ーーーん、れん、蓮!」
「はっ、」
周りを見ると、夢で見た、風伯と火雷の顔。
会う前に見たことのある、顔だった。
そうだ、俺は確かにこいつらと出会っていた。
蓮水が焦った顔をしている。
でもどこか嬉しそうにも見える。
こいつは、俺の記憶が戻ることを待ってた神、シオンが言っていた言葉を借りれば、手段を選ばないヤツだ。ああこいつが強引なのはよくよく知ってるよ。
………いや、俺はこの人の何を知ってるんだ。
会ってからまだ3回目だぞ。
ああ、まずい。
俺から『俺』が引きずられる感覚を覚える。
奥底に眠っていた魂が引っ張られるかのような感覚。
同時に俺が奥に行く感覚。
なんで、俺を選んだのに。
俺は俺であることを、選んだのに。
人だかりがいつの間にかできていたようで、人だかりの中に、1人の女性を見つける。
「────眠花」
呟いた言葉に、火雷と風伯の目が見開く。
「え、蓮…?もしかして、記憶…」
「…いや、ごめん、まだ、混乱してて…」
「…一旦保健室に行こう。西城学園のことは僕知ってるから連れてくよ。黒田〜店番よろしく〜!」
「あいよー」
「蓮、僕の肩に腕回して、立つよ」
蓮水に背負われながら、俺たちは人だかりを抜けた。
その中に眠花さんの姿は居なかった。
次のページから断片があります。
心の準備はよろしいですか?




