第64神 東城男子高等学校『宝玉果物』
──宝玉果物。
東城区にある、通称宝石果物。
「東城は農業と工業が盛んなわけ」
「はあ…」
宝玉果物を買いに来たら、ピンクの男の人に「へい、そこの彼女!宝玉果物はいかが?」と差し出された。
これが…ナンパ…!俺そんなナンパされるようなビジュアルなの??
「ちなみにこれが、ラブストーン、通称愛の宝石…という名の宝石りんご。これを上げたら恋が叶う…て事で僕からプレゼント!」
「いや、あの…ごめんなさい…」
丁重にお断りのために頭を下げるとピンクの髪の男の人はそれはもうショックな顔をする。
身長が百八十センチある人間に告白すんのは流石に凄すぎるだろ。見境なさすぎる。
「だよねえ!僕みたいなちんちくりんに君みたいな綺麗な子が靡くわけないんだ!!」
「いや、そうじゃなくて…俺、男です」
「そうだよね、うんうん、だいじょ…男ぉ!!????」
「この流れもう何度見た事か…」
風伯が腰に手を当てて、ふんっ、と鼻を鳴らす。
ようやくそこで風伯と火雷の存在に気付いたピンクの男の人は「神様あ!?」と声を上げた。
「あれ、なんでわかったんですか…?」
俺の質問に答える事なく、自分の混乱を整理したいのか、頭を片手で押さえながら息を吐く。
「ふぅーー………え?ごめん一回待って、君名前は?」
「神無蓮です」
「れーーーーん!!!お前かーーーい!!!!!!!!」
大声で叫ばれる。
なんなんだ今日は…もう嫌になるぞ俺。
「そうか…お前…そうかぁ…」
「あの、大丈夫ですか?」
「やめて、別の扉開くから」
「おんなじ事さっき春雨さんに言われたな」
お化け屋敷の入り口でそれやめて。と言われたのを思い出す。
「あぁ、そう、春雨にもあったんだ…うん、俺の名前は下崎空人。守護者やってます。今日の告白は聞かなかったことにしてください」
「あ、はい…あの、宝玉果物だけ買っていいですか?」
「ああ、もうどんどん買ってって!」
ヤケクソ気味に叫ぶ下崎さんの後ろで、うるせえーぞ空人〜とおそらく、同級生からのヤジが飛ぶ。
「およ、可愛い子じゃん。下崎にしては珍しいナンパしないの?」
緑の髪の人がひょっこり出てくる。
下崎の横に並んでニヤリと笑う。
「ごめんなさい、俺男なんです」
「はぁ!?男?!あー、メイド服…ってことは西城学園の方は逆転喫茶か…」
「飛爻〜俺、自分の目をもっと磨くことにするわ」
「なに、ナンパしたの?この子に。クソわろじゃん」
「うるせえ」
項垂れてテントの中でガックリと落ち込んでいる下崎さんを無視して飛爻さんが人のいい笑みで店番をする。
「宝玉果物何食べる?」
店頭には、りんご、いちご、ぶどう、バナナ──宝石のように輝く果物が並んでいた。
「私!苺がいいなぁ!」
火雷はどうやら真剣に悩んでいたようで、俺たちの会話のことはすっかり聞いていない様子で、苺を指さす。
「え〜可愛い執事ちゃんだこと!いちごね〜おまけで二つあげちゃう」
はい、と火雷に一つ手渡し、もう一つは袋に入れた。
「俺はぶどうにしようかな、伯狼は?」
「さっきの話聞いてりんごでとは言えないだろ。俺もぶどうでいい」
それもそうだ。
「じゃあぶどう二つで」
「はいよー、ありがとうね〜。これね、うちの東城区は宝石の国って言われてんの」
袋に詰めながら、飛爻さんが教えてくれる。
「特に、赤星市には、街の至る所に宝石の原石や宝石が成熟していて、果物や野菜の宝石があるんだよねえ」
「ドワーフのおじさんとかが炭鉱もやってるからさ、ついでにこの果物たちも育ててるわけ」
「へえ…だから、農業と工業が盛んなんですね」
「そういうこと!はい、毎度〜」
詰めた果物を渡される。
「これ、店頭販売じゃないけど美味しいから入れとくね〜。宝玉果物、東城で特に有名な果物!桃ね!」
ぱちん、とウインクをされる。なんとも人懐っこい人だ。
「あ、ありがとうございます」
「そうだ、横に白刄の飴が売られてるから買ってあげてよ。今なんか黒刃とバトってるからさ」
「え??」
横の屋台を見ると、黒刃 わたあめと大きく描かれたテントとその横に白刄の飴と書かれたテントの下で、呼び込みをしあう両者の学校があった。
まあ、確かに飴ではあるけどそこバトるんだ…。
「いらっしゃいませ〜、白刄限定の飴はいかがですか〜?」
きゃぴきゃぴと女の子たちが飴の入った袋を手にして道ゆく人たちに味見と評して渡している一方で、黒刃の男の人たちが「ようこそ!わたあめでどんな動物でも作っちゃいますよぉ!白刄とは違ってぇ!」と謎の争いを繰り広げていた。
「いちいちこっちをあんたらの土俵に巻き込むのやめてくれません?」
「はんっ!ここで会ったが百年目!同じような名前で共学なんて許さねえ!」
「すごい、私怨じゃねえか!」
思わずツッコミを入れてしまう。
火雷はまだ美味しそうにイチゴを食べているし、俺もぶどうを貰ったばかりなのでまだ食べれてない。
「蓮、蓮!この果物すごい食感がシャクシャクする!」
「えー、そうなんだぁ」
「昔は無かったが、品種改良でもしたのか?なかなか美味しいな」
昔は無かったんだぁ…。
どれ。と一口齧る。ジュワッと水分が口に広がるのにも関わらず、水滴が落ちない不思議な感覚。
加えて、火雷のいうようにとてもしゃくしゃく、飴を噛んでいる時のような…でもそこまで固くない、そんな食感だった。
「えー!すごぉい、おいし〜」
ぶどうは一粒一粒がしっかり詰まっていて、齧った後を見ると外側の皮と内側の身で宝石の色が違う。水分は落ちない、でも食べると広がる味と水。
「すげえ〜」
これはハマる。美味しくてハマるわ。しゃくしゃくと食べながら争いを眺める。
わーわーと男同士の争いの後ろで女の子たちがこちらを見る。
「メイド服ってことは西城学園の子だね?どうぞ、飴はいかが?」
「あ、島崎さんが前くれたやつだ」
「わっ、それ私食べてみたかったの!蓮買って買って」
「いいよー、俺もまた食べたかったし」
「ありがとうございます〜!」
お姉さんにお金を手渡す。
持ってきた買い物袋の中が各高校のおやつや食べ物でいっぱいになりそうだった。




