第63神 聖カタルフ学園『お化け屋敷〜カラクリ屋の秘密』後編
「ランプをぶつけるタイミングが無いねえ」
ぷらぷらとランプを揺らす火雷にげっそりとしてしまう。
「無くていいよそんな物理攻撃…」
軽く歩きながら話す。ため息をつく。
結構疲れたぞ、この空間。
ここまでの間に、追いかけられる。カラクリに引っかかる。
謎を一つ解く。を繰り返して、だいぶ終盤まで来ている。
がこんと足で何かを押す音。誰の足だろうな、俺だな。
ヒュンッと飛んでくる槍を咄嗟に避ける。
「……守護者やり始めてから動体神経前よりも良くなったんじゃない俺」
冷や汗をかきながら苦笑いを浮かべる。
壁に当たった槍がしゅわっと弾けるように消える。
「先は尖ってなかったな、軽く触れるだけで消えるやつか」
「神居の技術〜…そして俺の不幸〜」
思わず嘆く。多分カラクリ全部引いた。
「今俺カラクリ何個引っかかった?」
「見てる感じだと27個くらいかな」
「槍が飛んでくるやつ三回、上から落ちてくるやつ五回、壁にもたれたら別の部屋に飛ばされるやつ七回、落とし穴二回、追いかけられるの五回……」
「あと落ちた先が槍か竹のやつも五回だな」
「うっ、うっ…死ぬかと思った」
「まあ、普通は引っ掛からんだろみたいなところを綺麗に引いてるからなお前」
「お姉さんたちから「今の引っかかるの!?」って言ってる声が聞こえてたよ」
風伯と火雷からフォローじゃない言葉をいただく。
「…それで、ここは?」
「休憩ポイントだな」
見渡すと一つの机、ベッド、蝋燭が置かれた部屋。
しかし一様にして血だらけではあるが。
「謎の整理をしようか」
火雷が紙を広げる。
「まずは、この十字架とベールは願いを叶えてくれる存在ってこと」
「この武家屋敷はヒガンという男のカラクリ屋敷で間違いないな」
「うん、で、ヒガンはハナを生き返らせたいからいろんな人間を連れ込んでるわけだ」
「だから何百人目のハナって言葉だったんだなぁ」
納得しながら頷く。
「実はハナは村からやってきた一人娘だった。それはそれは綺麗な娘で、私は心が躍った。ってヒガンの日記に書いてあったね」
「書いてあった。そのあと、武家屋敷では争いが起こったんだっけ?」
「そう、相続争いね。村娘どころじゃ無くなっちゃったんだよね」
「でもヒガンは諦めきれずに彼女に告白したんだっけな」
本棚の中にあったヒガンの日記にはこう書かれていた。
『争いの最中。
私はそれでも諦めきれずに彼女──ハナに告白した。
私と駆け落ちしてくれないかと。
私は嬉しくて嬉しくて、家の中の争いなんて元々どうでも良かったが、もっと!
興味がなくなった!
ハナ、美しいハナ。
赤が舞う、赤が舞う。こんなに綺麗なことがあるだろうか。
ああ、ハナ。綺麗な赤色だ。
見てくれ、ハナ綺麗な赤だろう?ほら、刀に垂れる雫もとても綺麗だ。
ああ人々の声が響くなぁ。
ハナ?どうしてそんなに赤く染まっているんだ。
綺麗な赤じゃない、汚い赤色だ。
ハナ、私の声は聞こえないのかい?
ハナ、ハナ、ハナ!!!!!
以降の文字は途切れる』
「私、謎解けたよ」
「俺も解けたな」
「ええ!?」
2人を見ると2人は笑う。
「これはね、蓮。
ヒガンの目的はベールを使ってハナを生き返らせることでしょ?」
「うん…」
「願いを叶えるには代償がいるっていうのも書いてあったよね?」
「うん」
「で、人をたくさん連れ込んだ。」
「さっきも話したじゃんその流れ…」
「そもそもの前提が違うとしたらどうだ?」
「ぅん?」
カリカリとペンで書いていった火雷は笑い、風伯は前提の「ハナを生き返らせる」の部分に丸をつける。
「ハナという女性は最初からいないとしたら?」
「え!?」
な、なんでそうなるの!?驚く俺に日記を思い出せ。と風伯に言われる。
「あいつは武家屋敷での争いとかもどうでもいいようなやつだぞ」
「関係なくない?」
「その次の文章は赤が舞う」
「──最初からヒガンは狂ってたんだよ」
火雷は微笑みながら、文字を撫でる。
「確かに女の人に一目惚れしたのは事実だと思う。でもその後の流れは少しおかしい」
「女の人が頷いたなんて一言も書いてない。ヒガンの今までの日記を見る限り、あそこまで詳細を書いておいて1番大事な返答を書かないとは思えない」
「た、たしかに」
「武家屋敷で人を争わせている時に娘に恋して無理やり連れてきたんじゃないか?」
「で、人が争ってるのを見て楽しんでる。この赤が舞うがそうだね、あからさまなのはこの刀の雫の描写かな」
「あ、こ、これってそういう!?」
「だから何度、いろんな人間を連れて代償にしてもハナは出てこないんだ。名前も知らん女にハナって名付けて、自分で殺したくせに気付けない狂人。
そのくせ、たくさんの人間を連れ込んでベールの生贄に捧げた」
「だから、犯人はヒガン自身だよ」
火雷が一言。
「でもね、蓮」
「え?」
「こういう人間は、本当にごくたまにだけどね、いるよ」
その言葉にゾッとする。つまりはこの物語は、もしかしたらフィクションでありながらノンフィクションの可能性があるということだ。
「さて、出るか。この次ぐらいで最後だろ」
風伯が立ち上がる。
もはや見慣れてしまったツインテール姿なのに仕草が男前すぎる。
「…人間こわーい…ってオチかよ…」
ガチャ。
扉を開けた先は、武家屋敷の最初の入り口。
十字架があるところに、1人の男が座っていた。
言われなくてもわかる。ヒガンだ。しかもうっすらと透けているような気がする。
…待ってくれ。聖カタルフ学園は女子校だと春雨さんが言っていた。
では、目の前にいるこの男は?女子とは思えない体格、骨格をした男が項垂れた姿をしている。
火雷と風伯が少し臨戦態勢を取ったのを見て、人ではないことを察する。
ぐわっと振り向く。その勢いが強すぎてこちらは圧倒された。
『おれ、俺オレオ俺俺』
『おれのハナ』
『ハナ』
『ハナ』
『ハナ!』
襲いかかってくるヒガンに対して拳を出そうとする前に火雷がランプを掲げる。
「おりゃぁあー!」
ゴッといい音がしてヒガンがジュワッと吹き飛ぶ。
「えっ」
「このランプ、なんか加護がついてるなぁとは思ってたんだけどまさかここまで上手くいくとはねえ」
「ええ!?」
火雷は俺に笑顔を向けて笑う。
「聖カタルフって、確か教会がメインだよね。だから、十字架なんだねえ」
「そこじゃなくない!?何今の!?」
「ああ、それ作ったの呱米と夏目らしいぞ」
「いつ聞いたのそんなの」
「さっき夏目が言ってた」
「いつ言ってたの!?」
「あ、このランプの炎夏目ちゃんの?だから浄化の炎なのかぁ」
神様とその守護者が作ったランプだから、よく消える…って?
「なんでもありかよぉ…」
「ほら、れーん!出るよー」
「なかなか面白かったな。次は他の学校の出してる出し物見にいくぞ蓮」
「神様ってぇ…神様ってぇ…!」
出口から出てきた俺たちを見た春雨呱米さんは満面の笑みで腕をブンブンと振ってくれた。
「やあおかえりー!どうだった?クオリティ高かったしょー!」
「すごかったです…」
「これ!実は元ネタがちゃんとあってねぇ…、
カタルフでは有名な──じゃじゃーん!」
「ヒガン屋敷っていうホラーネタなんだよねえ!ちゃんと屋敷もあるよ!今度遊びに来た時に紹介してあげる!」
どこからか取り出した血だらけの本、『ヒガン屋敷』と書かれたものが出てくる。
もうそれはいい笑顔で今度行こうね!と言われるが丁重にお断りする。
「いりません」
「今度は下崎…ああ、知らないか。東城男子高等学校の出し物に行っておいでよ!腹ごしらえにさ」
「…そうします」
なんかいろんなことに対して疲弊した気持ちのまま、預けておいた看板を手にして廊下をもう一度ぶらりと歩いた。
時刻はまだ昼前。昼飯にしては早すぎるが、もうなんか疲れたので甘いものが食べたい気分だった。
「東城って言ったら宝玉果物だね!早く行こう蓮!」
無邪気な神様たちを前に、俺はただ、疲れたので休みたいの一心で向かったのだった。




