第62神 聖カタルフ学園『お化け屋敷〜カラクリ屋の秘密』中編
下は奈落の外──ならぬ柔らかい布の上だった。
ぼふんっと落ちる。
一体何階建てを使ったんだここは…。
どうでもいいことを思いつつ、生きてることに安心した。
「…ウィッグも取れないとか蜜柑すごい…」
がばっと火雷と風伯が起き上がり、俺の顔を触る。
「大丈夫!?蓮!」
「俺たちは手を離しても死なないんだからまずは自分の身を守ればか!」
「つい…」
ここはなんだと見渡すと、どこかの部屋。
部屋の隅に本棚と勉強机。壁際に立てかけられた全身鏡に、一つの扉。
ここだけまるで洋風だった。自分が落ちたのはベッドの上だったらしい。どんだけ柔らかいんだこのベッド…。
「…あ、机の上に何かあるよ」
「えーなになに…『この武家屋敷にあるベールは願いを叶えてくれるベールだ。私は彼女を蘇らせようと思っている』…」
「運命を変えようとしてるのね…」
「人間は愚かだな」
「設定!そういう設定だから!真剣に捉えないで2人とも!」
わかってるんだけどねぇ…と2人は何やらため息をつく。
神様からしたら運命の書き換えはルール違反らしい。
であれば、ハチスってだいぶ危険なことしてるのでは…?と人知れず思う。
風伯が小さな手で本を触る。
「本棚も漁るか」
「こういう時は大抵本棚の後ろになんかあるよなぁー、カラクリっていうくらいだし」
立ち上がり、鏡の前を通る。そういえば髪崩れてないかな、と鏡で自分の顔を覗く。
一瞬、黒髪の男が映る。腰に刀を携えて、和服を着た男が、こちらを見る。青い、目。
「え」
だって今のは、夢で見た男だ。
なんで、今?
ああ、シオンさんが言っていたか、干渉してくる者もいるって。
「どうした?」
風伯の声にハッとすると鏡の中には男はいなかった。
…俺は、選択したんだから、前世は関係ないだろ。
言い聞かせるように鏡を一つ睨む。
風伯が興味深そうに本棚を見る。
「蓮、俺を抱き上げろ」
抱き上げられることに抵抗のないうちの神様を抱き上げて、本棚の前までいく。上から下をなぞって見ていていた風伯が一つの本を見つける。
赤や緑、黒や白のカラフルなら表紙が何冊もある中、唯一、一冊だけ黄色の本があった。
「つまりこういうあからさまな本を触ると動く仕組みか」
「だから、それメタ読み…」
かちゃんと音が鳴る。本棚が横にスライドし、唖然とする。
「いやーすごいな風伯」
風伯を下ろしてその先を見ると、血だらけの室内。
「お化け屋敷感出てきた」
「謎解き感がさっきまで強かったもんね」
バンっと扉が閉まる。思わず肩がまた揺れる。
この室内は和室で、破れた障子、落ちた刀、血だらけの本、なぜか落ちてある腕や足の一部。
障子の向こうから感じるたくさんの視線。
全てを察した。
バンバンバンと部屋全体を叩き響き渡る音と共に腕を掴まれる。
「ひぇっ」
『ヨォこそ アナタがナンビャクニンめのハナになる?』
『アナタが!」
ガシッとさらに足を掴まれる。
「ひえぇえ!!」
『ナンびゃくにン!』
あっははあははあひひひあはあは
笑い声がとても気持ち悪い。
「ねえ人間!?この人たち本当に人間!?」
「人間の気配だよ、大丈夫安心して蓮」
「なんっにも安心できない!怖いってえ!」
ふんっ!と足と腕を引っ張る。
舐めないでほしい。腕力だけ、俺は自信があるのだ。
「わぁ!力強いね!」
「君、役者向いてるよ!」
急に中の人出てきた…。
文化祭らしいっちゃ、らしいし安心するけども…。
「どうも…」
「あ、つい話ちゃった」
「いいんじゃない?そっち行くといいよー」
しかも案内までされてしまった…。
「ありがとうございます…」
歩きながら、本を見る。
「本の内容は?」
「うーん」
『屋敷で相続問題が発生した。心底どうでもいいな。
ふと外を見るとそれはそれは綺麗な女が外を歩いていた。
なんて、綺麗な娘だろうか。
黒い髪に赤い目。…美しい…。
相続争いなんて興味もない、カラクリだけを作っていたい私にはもう娘のことしか考えられなかった』
『カラクリを作る手を止めてはあの娘に心が躍る。
好きだ、ああ。あの黒い髪、赤い目。
綺麗だった。
明日、告白しよう』
『弟がうるさい。相続なんて興味もないんだ、何がお前が長男なんだぞ、だ。
どうだっていい。
俺は興味ないと返した。
弟はなかなか諦めてくれない。ああ、うるさいなぁ』
『争いの最中。
私はそれでも諦めきれずに彼女──ハナに告白した。
私と駆け落ちしてくれないかと。
私は嬉しくて嬉しくて、家の中の争いなんて元々どうでも良かったが、もっと!
興味がなくなった!
ハナ、美しいハナ。
赤が舞う、赤が舞う。こんなに綺麗なことがあるだろうか。
ああ、ハナ。綺麗な赤色だ。
見てくれ、ハナ綺麗な赤だろう?ほら、刀に垂れる雫もとても綺麗だ。
ああ人々の声が響くなぁ。
ハナ?どうしてそんなに赤く染まっているんだ。
綺麗な赤じゃない、汚い赤色だ。
ハナ、私の声は聞こえないのかい?
ハナ、ハナ、ハナ!!!!!』
「こっからは読めん」
「ふーん?人にも色々いるねえ」
火雷は楽しそうにランプを掲げて笑う。
思いの外、文化祭を楽しんでいる神様たちに嬉しい気持ちが半分と、今はお化け屋敷の中なので怖い気持ちが半分。
まだまだお化け屋敷は中盤っぽいのでここから先が少し長いんだろうな…と暗闇の中ため息をついた。




