第61神 聖カタルフ学園『お化け屋敷〜カラクリ屋の秘密』前編
宣伝がてらぶらつけと言われたのもあり看板片手に歩いていると、お化け屋敷と書かれた看板が立てかけられているのを見つける。
神居・聖カタルフ学園とも書かれていることから、神居にある高校なのが伺える。
「へえ、お化け屋敷…」
「俺たちじゃ驚けないな」
「…いやまぁそうなんだけどね」
リアルお化け屋敷をこの前七不思議で体験したのもあって、あまり驚けないというのはよくわかる。
「やや、その声は神無蓮くんじゃなーい?」
ひょっこりと出てきたのはたぬき耳と尻尾…がはみ出てる白い布を被った人。たぬき耳から察するに、恐らく春雨さんだ。
「久しぶりです!」
「やっほー!蓮くん!毎年西城学園が春夏秋冬祭りの舞台を提供してくれてほんと助かってるよ〜ありがとう!」
ニッコニコで笑った声で近寄ってきた春雨さんにこちらも笑顔を浮かべると春雨さんが目を開く。
「え、思ったより美少女顔…びっくりした」
「気づかなかったんですね」
「この服視界が見にくくて…声だけで判断してたから…」
尻尾がゆらりと揺れて、布が捲れ上がる。
「どうしたのその格好は」
「西城学園は逆転喫茶なんですよ」
「クオリティたっかぁ〜蓮くん前から女装似合いそう〜とは思ってたけどまさかだったねえ」
「思ってたんですか…?」
俺の質問に答えることなく春雨さんは風伯と火雷を見つける。
「あー!お二人とも、人の身で出てきてるんです?」
「しかも風伯様「今は伯狼だ」…伯狼くんかわいいですねえ!」
切り替えの速さが春雨さんのいいところだ。というのは島崎さんの弁だ。
「私は雷華だよ。蓮がつけてくれたの」
「ええ〜ネーミングセンス良〜〜」
褒められて嬉しくないわけがない。照れてしまうな…。
「えへへ」
「あ、今のその顔で笑われるとくるものがあるからまずい。別の扉開いちゃう」
「扉…?」
「首傾げるのもダメだよ蓮くん!あざといって言われたことない!?」
「ないですけど」
「そうだ、ちょうど良かった。宣伝がてら、この中に入ってお化け屋敷体験しない?」
「えー、この中で宣伝なんてできないじゃないですか」
「うちの学園は女子校だから!その生徒が居るんだから、男装女子とか興味しかないし、宣伝できるできる!」
春雨さんが白い布をひらりとめくる。
布の中から両手を出してぱんぱかぱーんと口で効果音を出しながら笑う。
「ほら、ようこそ!お化け屋敷〜カラクリ屋の秘密〜へ!」
「なんですかその気になるタイトル」
「お客様、3名入りまぁーす!」
トンと背中を押される。
「はいよー!いらっしゃいませぇー!」
ラーメン屋のノリなんだよその掛け声は。という内心のツッコミを入れつつ、入る。
「ようこそ、ここはカラクリ屋敷、ヒガンの館でございます」
突然横から声がしてビクッと肩を揺らして右を見ると1人の女性が座っていた。
「受付はこちらです。3名様ですね?」
「あ、はい」
「かなりショッキングな内容になっていますので、お子様連れの方はご注意ください」
風伯と火雷をチラリと見た後俺を見る。
目を見開かれ「お、んな…?おとこ?」と首を傾げられた。
「ごめんなさい、紛らわしいと思うんですけど男です…今逆転喫茶をやってて…」
雰囲気をぶち壊して申し訳ないが性別を聞かれたついでに宣伝をする。
受付の方は戸惑ったように、曖昧に頷いたあと、コホンと咳払いを一つ。
「えー、このランプをお持ちください」
赤い炎のランプを渡される。
「これは?」
「これは、悪いものがやってきた時にぶつけてください」
「まさかの物理!?」
驚きながらも火雷に渡す。
ランプの扱いは彼女の方がお手のものだ。
「舞台の説明を一つさせてくださいませ」
受付のお姉さんの言葉に頷く。
「主人の名前はヒガン。
カラクリが大好きで館のあちこちに仕掛けを作っては遊んでいたヒガンに、ある時ハナという女性と運命の出会いを果たします」
「ハナと駆け落ちをしたヒガンはカラクリ屋敷で幸せに暮らします。
しかし、ある時ハナは突如、誰かに殺されてしまいます。
あなた方にはその謎を解いて欲しいのです」
「えぇ、ヒントが少なくないですか…?」
「ヒントは、中に入りながら解けますよ」
「それから、この先戻ってくることはできません。基本的には一方通行です。もう無理だと思ったら店員を呼んでください。あと、何かが追いかけてきても走ってはいけませんよ。振り向かないで、前だけを見て謎を解いていってください。」
「立ち止まるのは…?」
「構いません。ちゃんと立ち止まれるような部屋もあります」
おお、安全設計もある。
心の準備用の部屋ともいうのだろうか。
「それから、このお化け屋敷30分くらいかかりますのでお気をつけください」
「まあ、2時間くらい戻って来んなって言われてるしいいよね?」
風伯と火雷に確認すると2人とも頷く。
キラキラした目の火雷はもう完全に遊ぶ気満々だ。
風伯は本気で興味なさそうに自分のスカートの裾を触っている。
スースーして嫌だ…の顔だ。
「それでは、いってらっしゃいませ」
ぺこりと頭を下げられる。
一歩、室内に入ると冷房がついているのかヒヤリとした空気がスカートの中に入る。
「うぉお…リアル〜」
屋敷、というだけあって日本の武家屋敷をイメージしてくれたらわかるだろうか。そんな建物の中だった。
荒れ果てた室内には刀の傷が壁にある。少し歩いていくとベールを被せられた十字架の台がポツリとあった。
「まずは、この十字架にご挨拶、だって蓮」
「えぇ、なんで十字架…?というかなんでベール被ってんの?」
中身は武家屋敷なのに、十字架の台がある不可思議さに困惑しながら挨拶をする。
「こんにちは〜」
静寂。正解の音もなく、ただ俺が十字架に向かって挨拶をするというシュールな絵が生まれただけだ。
「…ねえこれであってるの?火雷」
「あってる!行こう〜」
ランプを片手にルンルンの火雷はまるでお使い気分だ。
お使いにしてはかなり物騒な建物の中だが。
「刀の傷があるってことは交戦でもしたんかな」
「かもしれないな。ある人物って言ってたからそいつを探せばいいんだろ?」
シャンシャンシャン
鈴の音に全員が固まる。
火雷はワクワクしているので人外がらみではない、ということは演出だ。
「なに、俺どうしたらいい?」
「どこから…いや、これはまだ演出の範囲か…?」
「そういうのメタ読みっていうんだぞ」
ダンッ、と強い足音が後ろから聞こえてくる。
なに!?こわいこわいこわい!思わず2人を抱える。
「わっ」
「うぉ」
ダッと走る。
『走るなって言われてたろ』
「知るか!!」
走ってる途中で顔面に何か当たる。べちゃっとしたなにか。
「うわぁ冷たい!生臭い!」
「蓮!れーん!落ち着いて!」
「おいこら、大丈夫だ。ただのなんかの肉だ」
「なおのこと汚い!」
化粧落ちないかな…
一瞬考えるが、みかんがウキウキ顔をして何かをしていた。
「ああ、そういやなんかよくわからんコーティングされてたわ…」
『蓮くん暴れるからコーティングしとくね』とか言われた覚えがある。
足音が聞こえないことに気づいてホッとため息をつきながら、火雷と風伯を抱っこしたまま壁にもたれかかる。
ぐらりと体が傾く。
「え?」
「おぉ」
「わあ!」
もたれかかった先は真っ暗な落とし穴。
「わぁあああ」
抱っこしていた2人を抱きしめる。
自分の頭を下にして最悪頭を打つ覚悟をした。




