第59神 祭りの始まり
────文化祭当日。
西城学園の校門には、大きく「根の国合同文化祭」と書かれた看板が立っていた。
屋台の匂い。
校庭に並ぶテント。
朝から騒がしい生徒たち。
「うわ、人多っ!」
思わず声が出た。
今日は西城だけじゃない。
神居にある学校──信善寺や白刄、他の学校まで集まる合同文化祭だ。
クラスで準備をする間、俺は不幸体質で不幸を招くので外に居てくれと放り出されたので仕方なく外に出ればなかなか賑わっていた。
「なかなか人が多いな」
風伯の言葉に頷く。
「思ってたより子どもも大人もいるなぁ」
「蓮、蓮!あれは?あれはなに??」
火雷の弾んだ声が下から聞こえる。
「あれは、わたあめだなぁ」
「わたあめって今あんなにカラフルなの!?」
「そう、現代の技術〜」
わぁあ…!と喜ぶ火雷にほっこりしながら手を繋ぐ。
そう、火雷と風伯は今人の姿を得て、ここにいる。
「えー、蓮くん誰その子〜かわいい〜」
近寄ってきた蜜柑に、「うちの親戚」と適当に話すと「かわいい〜!」と褒められる火雷。少し照れくさそうに微笑んでいる。
「あ、ありがとうございます」
「私と手を繋がない?抱っこでもいい!」
パッと手を広げる蜜柑に、火雷がチラリとこちらを見る。
「いいよ、ほの…えーと雷華の好きしな」
「ふふ、ありがとう!蓮!」
たたっと蜜柑の前まできた火雷はこてんと首を傾げるように蜜柑を見上げる。
「じゃあ、抱っこでもいいですか?」
「ぎゃわっっっ喜んでッ!」
撃沈する蜜柑。あざとい火雷…。
あざといぞこの神様…。
風伯がキャップ帽子を被ったまま、校舎を見上げる。
「…七不思議の時も思ったが、なかなか大きいな」
「まあ、城だもんなもはや」
「たこ焼きいかがですかーー!」
「焼きそばはいかがー!」
「唐揚げもフランクフルトもあるよー」
いろんなところからの呼び込みにすごい熱気を感じる。
「…風伯もなんか食う?」
「…今の俺は風伯じゃないんだろ?」
ニヤリと笑う風伯に、おや。思いのほか今の現状を楽しんでいるな、この神様…と笑ってしまう。
「いくか、伯狼!」
「蓮にしてはネーミングセンスがいいな」
「なんだと…」
「いらっしゃいませー!海鮮丼いかがですかー!」
あの白髪にメガネの見覚えのある姿は…。
「色さん!」
「おー!お前ら!ん?風伯さ…「今は伯狼だ」はくろうさん…くん?たち…海鮮丼食う?」
「まだそんな時間じゃないですよ…朝から食うにはきつい…」
「チッやはりそうか…なら、イカ焼きは!?たこ焼きもある!刺身もあるぞ!見ろ、もう大人たちはぐでんぐでんだ!」
屋台の席の方で朝っぱらから飲んでいる大人たちが数名酒を片手に「信善寺の刺身うめー!」と笑っている。
「じゃぁイカ焼きをくれ」
「いいねぇ、伯狼くん。君にはタダであげよう」
色さんがタダでイカ焼きを渡す。
「コラ色!タダってあんたねえ」
「あっ、愛依さん近寄らないで」
「払いますよ普通に」
苦笑いで返せば、色さんは愛依さんに向かって「この人神様だよ」と言った。
愛依さんは目を見開いて、風伯を見る。
「なんで神様が…はっ、もしかして守護者!?同僚ってこと?」
「ん、そういうこと〜〜」
イェーイと両手ピース満面の笑みを浮かべる色さんは、見た目がほぼ幻治郎さんと変わらないのでかなり、こう…不思議な感じだ。
「はぁ、それなら仕方ないわね…」
風伯の視線に合わせるように座った愛依さんは微笑む。
「タダで食べても大丈夫ですよ」
「…蓮が払うらしいぞ、何事にも代償はいるだろう」
「そこまで重くとらえてもらわなくてもいいですよ」
「いやいや、払いますって…!いくらですか?」
「200円、まいど〜!」
ウッキウキで笑う色さんに、愛依さんはやれやれとため息をついて、また呼び込みに戻って行った。
「守護者のこと知ってる人なんですね」
「んー、そう。信善寺は基本的に守護者であることは隠さねえのよ」
「へえ!なんで…?」
「信善寺って神様が多くいる市だから、嫌でも守護者が目に入るわけ。だから、みーんなもう言っちゃうの。俺守護者やってるからよろしくなってね」
「…なるほど。隠す必要性がない場合もあるんですねえ」
椅子に座ってイカ焼きを食いながら、色さんと話す。
色さんも朝からずっといるらしく休憩がてら話に付き合ってくれた。
「そういえば、幻治郎さんは?」
「父さん?ああ、今要として政府を守ってるよ」
「政府を守る?」
「そう。守護者の管理人こと、鷺沼がこっちで文化祭にいるからさ、手薄になんのよね」
「ああ、なるほど」
背後では太鼓の音が鳴り、校庭の方から歓声が聞こえてきた。
「で、大人守護者の、現役を辞めた人とかも集めて手薄になってるところ守ってんの」
「はぁ〜すごい、ちゃんと大人が大人してる…」
「だろー」
イカ焼きを食べ終わり、お茶を風伯が飲む横で俺もゆっくりイカ焼きを食べる。
色さんがそれを見てなんか嬉しそうに笑っていた。
「いいね、風伯様と蓮がそうやってのんびり食べてんの」
「ええ?なんでですか…?」
「んーや、平和っていいなぁってさ」
平和っていいな。
その言葉が、妙に胸に残った。
俺が守りたいのは、きっとこういう時間なんだろう。
色さんの向こう側から薄いピンクの髪の男の人がやってくる。
「おい、色。お前休憩長すぎ」
「おお、ごめん珊瑚〜…あっ、こいつこいつ」
色さんに声をかけてきた人に肩を組み、俺たちを指さす。
「蓮だよ、今は…なんの管掌もしてないけど守護者」
「…ああ、蓮…お前が」
「こいつは中津海珊瑚。俺の相方〜」
「よろしくな、蓮」
「ああ、守護者の方…!?よ、よろしくお願いします!!」
ガタッと立ち上がり差し出された手を握り返す。
珊瑚さんはふっと笑って、肩に乗せられた色さんの手をつねる。
「痛い!何すんだ!」
「ほら、行くぞ。文化祭、お互い楽しもうな」
「…はい!」
「蓮ーー!!」
聞き覚えのある声が校庭の方から飛んできた。
「喫茶に戻ってこーい!」
窓からわざわざ俺を呼ぶ声は影森の声だ。
思わず笑ってしまう。
「ごめーん!今行くー!」
「蓮〜、早くおいでね〜」
影森の横で笑いながら手を振る火雷に、ギョッとする。
なんか執事服着てる…いつの間にそんな小さなサイズを…??




