第58神 魔王の盤面
──魔界。
悪魔が多く住んで、世界の混沌を担う世界。
黄泉ともまた違う、別の世界だ。
「アルバート様!魔王様!」
帰ってきて早々に部下に捕まり、ため息をつく。
幻治郎の掌の上だったというのがただでさえ気に食わないから、さっさと寝ようと思って帰ってきただけだったのに一体なんなんだ。
「なに?忙しいから簡潔にね」
「23年ほど前に魔界を裏切ったものたちの足取りがつかめました」
「…へえ、23年前か──」
──疫病神がマガツヒを広めて幻治郎が完全制圧と完全消滅を行った年だ。
あれは歴史に残るレベルの大災害だった。
何せ、神無と神居には今もなお、その時半壊した街が残っている。
23年なんて人々からしたら長いか?俺たちからしたら一瞬だが、神居の技術を持ってしても半壊した街は治らなかった。
「…懐かしいね」
「ええ、我々が神と手を取り人と手を取った年でございます」
ここ数年でまたマガツヒの感染があると聞いてる。
なかなか、しぶといものだ。
「潜入部隊より、マガツヒの噂を広めたのも…彼らの仕業で間違いないと報告書が上がってきております」
「はぁー、なるほど」
少しずつ、見えてきた。
幻治郎が『お前はこちら側』だと言った理由が。
「…確かに俺はこれを看過できないね」
マガツヒは、物語を反転させる力。
それ即ち俺たち、空想上の生き物だと言われている悪魔にも粉がかかる。
悪魔でも力のある、魔王の俺は神の産物であるマガツヒを、わざわざ人を介さないと壊せない神とは違い、壊せる。
壊せる俺とは違って壊さない悪魔達…。
故に舞台まで落ちるようにあいつは仕向けた。
魔界を守る魔王である俺が、
魔界に粉がかかるかもしれない状況を見て見ぬふりするつもりなのか?
そう、仕向けた。
お前、観客席に居たら死ぬぞ?という警告なのだろう。
「…ほんとに、してやられたな」
ここ数年呑気にゲームしたり高校生活満喫してたから世間なんてどうでもいいと思っていたのがよくなかったか。
「そうですよぉ、魔王様ゲームしすぎです、書類溜まってるんですからそろそろこちら側に目を向けてください」
「声に出てた?」
「ええ、そりゃもう呑気に〜からばっちりと」
「…はぁ、わかったよ。書類に目を通そう。」
椅子に座り、机にある大量の紙から適当に一枚だけ手に取る。流し読みをしている時に気になる文字を見つける。
おや、これは守護者の名前で見たことある名前だ。
よく見るといくつか政府の人間の名前もある。
──そういえば一度だけ幻治郎に見せてもらったことがある。
『お前、記憶力いいよな』
『は?急に何』
執務室ではない、赤歳家──つまり幻治郎の家でのんびりとコーラを飲んで幻治郎とゲームをしていた時の話だ。
『これ見ろ』
FPSで伝説を残しただけはある男に勝てるわけもなかったのでポテチを食っていたら名簿を見せられた。
『これ、守護者というか政府の名簿じゃないかい?いいのかい?俺なんかに見せても』
ペラペラと何ページもある紙を数回に分けて見せられた。
『いい。これ、覚えたか?覚えたらこの中の名前をいつかどこかで見かけた時に俺に言いに来い。絶対だぞ』
『…まるで、何かが起こるって知ってるみたいじゃないか』
『いいや、知らない。ただ、あーいうタイプの人間はなんかやらかすだろうなぁ…ってやつが何人かいる。俺にそんなこと言う度胸もないし、あと単純に』
ゲームを起動する。
幻治郎は画面から目を離さない。
俺は一時休戦として幻治郎のプレイを見ていた。
『もう少し泳がせて、大きな魚になった時に釣りたいじゃん』
『…一網打尽にしたいわけか』
『そういうこと』
『君そういう駆け引き苦手だろ』
『だからお前に任せたんだろ』
ぐ、それでわざわざ名簿なんか見せてきたのか!!
俺にやらせるために!?
『守護者とも政府ともそんなに俺は関わってないのに、駆け引きする時なんてないじゃないか』
『あるよ、絶対に来る』
『その自信はどっからきてるんだい…』
呆れてものも言えない俺に、幻治郎はwinnerの画面をそのままにする。
そうして、こちらを見て少しだけ目を細めて口元に笑みを浮かべた。
『経験則、かな』
パリッと口の中のポテチが弾ける。
『…まぁ、何千年もの記憶を持ってるなら、説得力しかないね』
『思い出した、が正しいけどね』
さて、俺もやろうかな。とコントローラーを手に取った。
──懐かしいな。
また遊びに行こうかな、幻治郎のこと苦手だけどゲームをやらせてくれるのは好きなんだよねえ。
少しだけ目を伏せて改めて書類を見る。
このために、俺に名簿を見せてきたのかい?
……やっぱり悔しいな、踊らされてるみたいですごく腹立たしい。
「隠り世の神居政府に通達しといてくれ。」
悪魔の秘書が微笑む。
戦争の始まりか?とワクワクしている顔だ。
ああ、悪魔はそういう、負の感情が好きだ。
人々が苦しむ時の負の感情。
「『マガツヒを流したモノに悪魔が関与していた、俺たち悪魔はその処理を行う。それから────君たち政府内部に裏切り者がいるよ』ってね」
「仰せのままに。魔王様」
羽を広げて飛び去る秘書を見送り、部屋に戻る。
まったく、どこまで見越して盤面を並べているんだか。
今度はあの子まで舞台に立たせるつもりかい、幻治郎は…。
今頃彼らは──守護者は文化祭が始まるんだろうね。
次のページからは、文化祭準備の思い出短編です!
文化祭、楽しみましょうね!




