第56神 side:島崎家で舞の練習
島崎大地、高校2年生。
俺には両親がいない。正しくは、本当の両親がいない。
「大地、帰るの最近遅いけど大丈夫?変なことしてない?」
「してないしてない、終さんもいるし」
「終さんはなぁ信用ならん」
義母さんはそうやって、自分の叔父を思い出すようにため息をついた。
「はぁい、恵〜ただいま帰ったよー」
バードキスを送る義父さんはウキウキで義母さんに抱きつく。
「もぉ、こらリチャード!」
嬉しそうにしている2人を見てこちらも嬉しくなる。仲がいいのが1番いい。
「あ、そうだ大地。終さんは?」
「まだ帰らないってさー」
「終っていつもそうだよねぇ、俺としても一緒にお酒飲みたいからたまには早く帰ってきて欲しいんだけど…」
「伝えとくよ」
『ただいま戻ったぞ』
終さんの声を聞き立ち上がる。
義母さんが首を傾げる。
「どうしたの?」
「ううん、電話」
うちでは電話は外で話すのがルールだ。
そっか、ご飯用意しとくね。と義母さんの言葉を聞きながら窓を閉めると終さんが神様として形を成して外にいた。
窓の淵に座って終さんを見ると。おやと小さく呟いた。
『今日のご飯は風呂吹き大根か。良いなぁ』
「父さんが最近帰ってくるの遅いからお酒飲めなくて寂しいって言ってるよ」
『はっはっはっ!なんとそれは寂しい思いをさせた、今玄関から入ろう。少し待て』
ぶわりと消える。次の瞬間にはチャイムが鳴った。
「はいはーい、あ、叔父さんおかえり!」
「ああ、ただいま!酒を飲むぞリチャード!」
「おかえり終!いいねえ飲もう飲もう!」
後ろの声を聞きながら空を見上げる。
…終さんは神としての姿を隠して、彼らと疑似家族をしている。
これはあの人の出生に関わる話になるから長くなる。
俺がこの人たちにお世話になってるのも、色々あったのだ。
「大地くん」
後ろからマリアンヌさんに話しかけられる。
「あ、来てたんですね」
「ふふ。ただいま」
「お、かえりなさい…」
「まだ言い慣れないんですねぇ」
よいしょ、と横に座られ少し気まずくなる。
少しの静寂が気になり、つい声を出す。
「…ちょうど昔を思い出してました」
「日本にいた頃の話?」
「はい」
俺は日本で生まれた。
母には【黄緑の髪の子どもなんて気味が悪い!】と叫ばれた。
【私の子どもじゃない!誰よ!返して!】と。
あなたから生まれたんだから、貴方のこどもだよ、とまだ幼いながらに思った。
「…お母さんは元気かなって」
「まあ、優しい子。あなたのことを虐げたのに」
怒るように言ってくれるマリアンヌさんに、眉を下げてしまう。
そうは言っても、あれから9年経っているといえども、それでも願う。
「…7つの時に神隠しされるなんてなぁ」
「7つまでは神の子。俺の守護神だ、当然俺が貰い受けても構わぬだろう?」
早くも酒を飲んで酔い潰れた義父さんを置いて、窓辺にわざわざきた終さんに驚くこともなく笑う。
「あの時そんな感じだったの?」
「そうとも。超能力の発露により、暴走し、自分の母を殺しそうになって嘆く自分の守護者に、助けの手を差し出すのも神としての役割よ」
楽しそうに笑う、終さんを見上げて笑い返す。
そんな顔じゃなかったよ、あの時の終さん。
そんな愉快な顔してなかったよ。
────あの時は、怒ってたじゃん。
俺の姿を見て、怒ってた。
終さんはリビングに戻り、義母さんに声をかけに行く。
「恵〜、大地にこれやってもいいか?」
「変なものあげないならいいよー」
「ほれ」
ポイっと投げられた扇子を慌てて受け取る。
「何これ」
「この家に来て9年経った記念だ、俺の家はいいだろう?」
…この家に連れてこられた時、終さんは今みたいに人の姿をして人に紛れていた。
本物の姪っ子である恵さんを見て大切そうに笑って言った、【この子は俺の家族だ。そしてお前も俺の家族になる】。
唐突で、嵐のような。そんな宣言をされた。
「神の姪っ子ってすごいや」
「恵もリチャードも知らないからな。俺が神だと。人神の俺は、人から神になった存在。呪いの増幅により人々に恐れられた存在だ」
「…言えるわけ、ないだろう」
三千年前頃────生まれた、割と新しい神様である終さんはそう言って空を見上げ手元の酒を煽る。
「そら、ガキは寝る時間だぞ大地」
「終さんから見たら確かにガキだけどね」
まだ寝ないよ、21時だし、と立ち上がる。
「ご飯食べる!」
「はいはい準備してるよ食べ盛り〜。下の子達も呼んできて」
「はーい」
俺の家はここで、これからもきっとここしかない。帰る家も行ってきますをいう家も、ここなのだ。
「そういえば今度この家で舞の練習をするらしいな」
「そうだね」
「赤歳、春雨、下崎との練習はどうだ?」
「いい感じ。…蓮もさ、元気にやってるんだって。今年の舞も楽しみにしててね、俺たちが神様に向かって舞うんだから」
ふっ、と終さんが笑う。
「なかなか、今年は楽しくなりそうだなぁ」
マリアンヌさんがくすりと笑う。
「仲良しですねえ」
「俺の息子みたいなもんだからな、こいつは」
なーんじゃそりゃ。
俺はいつまで経っても守護者ではなく、息子ですかそうですかー!
やれやれと下の子どもたちを呼びに2階に上がったのだった。
────次の日の朝、島崎家の広い庭。
昼間から五人の守護者が集まり、舞の練習をしていた。
「色くーん、ここの動きってさ〜」
春雨呱米が振り向いた。
色が倒れていた。
「…何やってんの」
「…俺さ、女の子苦手なんだよね」
色は地面に突っ伏したまま言った。
「知ってるよ」
「話しかけられんのも無理なの」
「それで?」
むくりと起き上がった色は飛び退くように近くにいた下崎空人────今日集まった5名のうち1人の男の背中に隠れる。
「俺に近づくなぁぁぁあ!!!!」
「うるっっさ、人の耳元で叫ぶのやめてくんない!?色!!」
「下崎は女が好きだからわからねえだろうがなぁあ!!女ってのは怖い生き物なんだぞ!わかるか!みろこの鳥肌!!」
「話しかけられるのもダメだったんだねぇ」
「ごめん、春雨は悪くないな、うん。
でもほんっっっとごめん」
「近寄らないでくんない?」
「ごめんと言いつつもだいぶ失礼」
「もぉー、先輩方うるさいですよ〜」
島崎大地がスイカを片手に近寄ってくる。横にいる色華が呆れた顔をしている。
こうして5人の守護者が揃う。
スイカ──夏の風物詩だが、この神居では年中関係なく美味しく育っているため、疲れた時の美味しいデザートだ。
「…うちのお兄がごめんなさい」
「えー!なんでなんで、色華ちゃんは悪くないよ〜」
頭を下げた色華に春雨が慌てて両手を振る。
すると後ろからにゅっと出てきた梓が色華の背中を叩く。
『そうだよ、色華はなーんも悪くない!悪いのは全部色だから!』
「なんで梓がそっち寄りにいるんだよおかしいだろ」
色の思わず出たツッコミに梓は笑う。
『僕基本色華の味方だから』
「俺だってそうだが!!?」
「何に張り合ってんのお兄たちは…」
島崎の隣にいる色華にしか興味がない3人に、島崎は半ギレで、もお!ともう一度怒る。
「スイカいらないんですかーー!!?」
「ごめんて、いるいるいるいる」
下崎が慌てたように取る。
「そんな怒んなよ大地〜」「そうだよ〜せっかくのイケメンが台無しだよ〜」「ほら、お前のおかげで俺の鳥肌も落ち着いたぞ大地」『大地ったらせっかちさんなんだから♡』
下崎、春雨、色、梓が、島崎の機嫌をとるように畳み掛けてくる。
島崎はため息をついた。
「もうやだこのグループ…」
「終わるまでの辛抱だよ大地…」
「無理…」
食べ終えたスイカを縁側に置く。
誰かが曲を流す準備を整えた。
「腹ごしらえもしたし」
「舞の練習すっかぁ〜」
ぐぅーと伸ばした腕は空に伸び、腹ごしらえのおかげか、これからの舞により一層力が入るなと色は人知れず思った。




