第53神 守護者にとっての鎮魂祭
────春夏秋冬祭り。
神無と神居が合同で行う文化祭。
そしてそれは、
守護者にとって“鎮魂祭”でもある。
俺はスポーツドリンクを手に取り喉を潤す。
「…ぷはぁ、…ずっと疑問だったんですけど、主催は神無なのに何で神居も?」
「ああ、ガイドブックに、書いてあったろ」
鷺沼さんが汗を拭いながら答えてくれたのを聞いて思い出す。神居と神無は昔争いから分断し、悪いものだけを残した神無と言う島ができました。
…みたいな話だったはず。
「え?尚更なんで神居?」
関係なくない?と首を傾げると鷺沼さんは今度はパタパタと首あたりの服を扇いだ。
「神居と神無は元々同じ島だったんだ。その伝統は今も残ってる」
「っていうのが建前、本当は俺たち守護者が集まって、鎮魂祭ができるようにってのが理由だな」
鎮魂祭…春夏秋冬祭り、日本だと一年を通した季節の名前。
ここだとそれは、誕生、芽吹き、実り、枯れて、また誕生する循環の意味を持つ。
魚が空中を漂っていくのが右にも左にも、上を見ても、わかる。
ちょんっ、と魚に触れられ、ビクッと揺れる。思いの外体の動きはゆったりだ。
「お前さんらー、飯じゃ早うきんさい」
「はぁい」
ひょっこりと赤い柱から覗いた黒髪に水色の毛先、左目が隠れている小柄な女性──玉さんに呼びかけられて俺と鷺沼さんは立ち上がる。
息を吐けばその度にこぽっ…と泡が立つ音。
水中のように口から出た言葉は耳を通してこもるように響く。
そう、ここは、神居の信善寺というところにある、玉さんこと──朝梨の守護神の家である。
今日は、土曜日。学校では文化祭準備をしつつ、今日はここにいる。
そして俺たちがなぜそこにいるか。
それは島崎さんが泣きついてきた、この間のことだ。
あの七不思議が終わった後、新たな乱入者。
──幻治郎さんによって空気は変わった。
「あれ、みんな何してるの?」
「幻治郎さん!」
いたっ…。痛みに震えながら急な上司の登場に反射で全員立ってしまう。
「こらこら怪我人たちは動いちゃダメだよ、座ってて」
立ち上がった俺と桃梛と朝梨に座るように促してくる。
「春夏秋冬祭りの話しに来たんだけど…まぁちょうどいいね割といるし」
「彼らに舞を舞うことは伝えましたよ?」
鷺沼さんがきょとんと幻治郎さんを見る。幻治郎さんはうんうんと頷いた。
「でも舞う場所、今年は守護課は使えないんだ」
「え…毎年使ってた広場ダメになったんですか?」
「そうなんだよ、去年から使用禁止にしようって話は出てね」
困ったことに、と目を瞑る幻治郎はそれほど困っている顔はしていない。
なにか、考えがある顔のような気がする。
「なんで使用禁止の話が出てるんだい?」
興味はないが一応聞いてやるか、のスタンスでアルバートさんが手を上げて幻治郎さんに聞く。
「守護者の舞を楽しみに集まっちゃう職員が毎年多くいるんだよ」
アルバートさんと鷺沼さんは、あー…と声を揃えて口に出す。
「…そこでだ」
目をゆっくりと細めた幻治郎さんは朝梨と島崎さんを見る。
正しくは、朝梨と島崎さんの背後にいるであろう──形はないが。
守護神を見た。
「玉様と終様に頼みがあるんです」
「あ、二人はまだ寝てて…」
朝梨が慌ててそう返すと、幻治郎さんは顎に手を置いて、あー、と声を出す。
「…そうか、連動代償があるのか…」
連動代償────守護者が傷つくと神もまた同様の傷を負い、神は眠ること。
そうして幻治郎さんは軽く両手を叩き、安心させるように二人に微笑んだ。
「わかった、じゃあ二人から頼んで欲しい。赤歳幻治郎から正式に依頼だ。って」
「…はぁ」
「じゃ、頼んだよ。身体をゆっくり休めるようにね」
またね、と言って朝梨と島崎さんの頭を軽く撫でる。
嵐のように去って行った幻治郎さんを唖然と全員が見る。
とりあえずこの場の権利者?である鷺沼さんは朝梨と島崎さんを見る。
「そこ二人の神様の持ち家は単純に広いんだ。だから何百の守護者がいても収まるから大丈夫だと思う…って判断じゃないか。俺も正直そうやって頼もうとしたところだ」
もし、お願いできるなら頼みたい。と頭を下げた鷺沼さんには島崎さんと朝梨が大慌てになったのはいうまでもない。
────そうして玉さんの家に来て舞の練習をしてるというわけだ。
神居でも特殊な空間らしく、いわゆる竜宮城と言えばわかるだろうか。
しかし入り口はしっかりとした門構えで、中に入ると水中のような感覚。
濡れるわけではない、不思議な空間。
「で、ほんとーに広いんだもんな」
思わず天井を見上げながら呟いた。
食卓には鷺沼さん、俺、朝梨が集まっている。
他の守護者たちは居ない。
俺たちだけだ。
リビングは洋風だが、中に進むほど和になっていく。
「終さんのところも広いんですよね」
『そうやねぇ、あの子の住むところは元々かなり大所帯やったき、多いんやろね』
楽しそうにご飯を食卓に並べていく玉さんの姿になんだかほっこりする。
おばあちゃんの家に来た気持ちになるな。
ばあちゃんの家行ったことないけど。
『これも食べや、これも美味しいきね。』
「そうだよ、これ美味しいから!」
横にいる朝梨が何故か自慢げに飯を紹介してくれる。
「ありがとう、朝梨…食べるから」
鷺沼さんの目の前に並べられていく色とりどりのおかずを皿におきだす朝梨の手を止めるように手で制している。
「他の方々はそれぞれ仲のいい人同士で集まったんですね」
『まぁ、そっちのがやりやすいだろうしな』
『最終的にはみんなここに集まるから良いんじゃないかな』
確かに。最終的な形はここで確認するらしい。というのもこの前聞いた。
「一応玉さんに頼んで簡易版神域にしてもらってるから大丈夫だぞ。期間が二ヶ月しかないけどそこは気にするな」
『毎年そうなんだね』
「そうなんです、毎年簡易版神域を守護課に作ってたんですけど今年は使えないらしいので…』
『守護者も大変だな』
何やら大人が話している…。
もぐもぐと出された飯を食っていると急に鷺沼さんに話をふられる。
「で、型は覚えれそうか?」
「無理です…」
「諦めが早すぎるな…ほら、もう一回やるぞ!」
「あぁあ〜」
鷺沼さんに引きずられる俺を朝梨と玉さんがにっこりと見届けようとする。
「いや!朝梨なにそっち側にいんの!?お前こっち側だからな!」
「ウッ!ばれた!」
俺の言葉にぴたりと止まった鷺沼さんが朝梨を見てにっこりと笑う。
「朝梨、来い」
「………はい」
我が管理人に勝てるわけがなかったのだ。




