第52神 噂の改竄
「失礼しまっす!!」
やっぱわかりやすいのはガイコツ先生かなと思い保健室の扉を開けた。
バンっと扉を開ければ机でコーヒーを片手に本を読むマリアンヌ先生がいた。
「…あら、神無さんと、篠倉さんと柊さん?また珍しい組み合わせですねぇ」
うふふとのんびり微笑むマリアンヌ先生に脱力する。
「あー…」
彼女達に、なんて話せばいいのやら。悩んでいると風伯が『おい、終』と誰かに声をかけてきた。
誰に話かけてるんだ?しかも俺たち以外の名前。
「ん?待って終…?」
それって…と答えにたどり着く前にどこからともなく返事が返ってくる。
『なんだ、その声は風伯か?』
「え、だれ!?」
「あら、大丈夫なんです?」
マリアンヌ先生が、意外そうな声を上げた。
そんな彼女の足元からずるりとただの影だった形が変わり出てくる。
『今は乙女もおらぬ。構わぬだろう』
紫の髪に、少し破れている紙で目元だけを覆った和服の男が現れる。
『初めまして、俺の名前は終。大地の守護神──呪いを司る神だ』
フッと微笑む、金色の丸い耳飾りがゆれた。
「や、っぱり島崎さんの…」
「幻治郎さんが言ってた人!」
「人…ではないけどね」
俺の言葉に朝梨が納得するが、すぐに桃梛からの訂正が入る。
終──と自分を呼ぶ神様は『それで何用だ?』と聞いてきた。
「あの、ガイコツ先生の所在について聞きたくて…」
マリアンヌ先生と終さんが顔を見合わせた。
「今は不在ですよ。
彼らは今、鏡の中でパーティしてるとお聞きしてます」
「ぱーてぃ…」
唖然と呟く俺に、横にいた朝梨が驚く。
「ええ!?」
「パーティ!?」
続けて桃梛が驚きの声をあげ、朝梨もまたツッコミを入れる。
「じゃあ普通に神無の人たちが見えなくなっただけ!?」
俺もまた頭を抱える。さっきのシリアスな空気なんだったんだよ!まじで!
「それで噂が無くなったって?んなわけあるかーい!」
桃梛もまた思わず叫ぶ。
「でも誰かは願いを叶えてほしいってイネさんに祈るでしょー!」
俺たちの様子を興味深そうに見ていたマリアンヌさんが微笑んだ。
「ああ、その件ですか」
『その件は俺が、噂を改竄した』
「えっ」
『【七不思議はただのお伽噺で、もともとそんなものはなかった。
願いが叶ったと思ったやつらは皆気のせいである】とな』
あとはそれを広めただけだな。とギザギザの歯を覗かせてニヤリと終さんが笑った。
……つまり、噂を書き換えれば、現実の認識も変わるってことか。
同時に疑問が湧く。
「なんでそんなことを…?というか、噂を改ざん…?」
『もちろん、七不思議が表に出ぬように、だ』
「…それができるなら今まではできたんじゃ」
『噂を改竄は普通はできない。今回も、マガツヒに感染後、破壊された後だったからできたんだ』
…そんなことが罷り通っていいのか?
「…じゃあ、俺たちも改竄できるってことですよね」
『ああ、但し。人間が信じないとダメだ』
「信仰心…ってことですね」
『左様。元々都市伝説や七不思議という存在、我々神は人が言葉を語り伝染させることで生まれたもの。同じことをすれば形は変えられる』
「問題点があるとすれば、元々の話をまるっと変えることはできないんですよ」
マリアンヌさんが困ったように笑う。
「んー、マガツヒは物語そのものの反転。
改竄は、元の話から少しずらすってことですか?」
『えらいぞ朝梨!そういうことだ。だから誰でもできるわけじゃない。俺が別に改竄する能力を持ってるわけでもないしな』
『そして、改竄するためには解釈を上書きしないとならない』
「上書き?ですか?」
『“完全否定”ではなく“説明のすり替え”を行うんだ。人は自分が納得できるレベルの話なら簡単に信じ込む。猫を見た、それが複数人だとしたらいるのかも知れない…と思い込むだろう?
それと同じことをしたんだ』
桃梛が納得したように頷いた。
「ああ、なるほど。そういう人達に、実はアレ白いスーパーの袋が飛んでただけなんですよ。って言われたら、あーよくあるかぁってなりますね」
「…桃梛、お前疲れてんだよ多分」
「桃梛ちゃん普通はないよ」
「え!あ、あるよ!?ありますよ!ね!?」
『なんにせよ、人が“そうかもしれない”と思える範囲でしか上書きはできん』
焦る桃梛に俺と朝梨はちょっと可哀想な目で見てしまう。
マリアンヌさんがくすくすと笑う。
「ふふ、改竄した理由に関してですが、表に出ることでマガツヒに感染しやすくなってるんです」
「だから、今は七不思議の子達は物語出来たての時と同じくらい感染に対しての免疫が薄くなってます。
マガツヒに感染したものは反転した影響か、物語としての力────この場合霊力になりますかね…これに根こそぎ奪われるんですよ」
終さんの言葉に補足するように説明してくれるマリアンヌさんに、なるほど…となる。
「それで、残ってる1割で今楽しくパーティ中というわけです」
風伯が声だけ全員の頭に響く。
『噂の改竄については、実は俺も心当たりがある』
「え!?どこで!?」
『というよりこの国の性質だな。この国の空想上と呼ばれる俺たちはどうやって生まれてる?産夢が作ってるといえばそうだな。だが大前提があるはずだ』
桃梛がハッとした顔で風伯に向かって言う。
「"誰かが流した噂や、都市伝説"」
『そう、俺たちはお前達、人間が想像し、創り、語ることで生まれる。』
「つまり神が噂を流そうが人が流そうが、形になるってことか…」
『アレは言ってしまえばただの"噂"が広がった結果だ。』
続けて桃梛は納得するように頷き、顎に手を添え、終を見上げる。
「それなら、終さんのやり方にも納得が行きます…だってあなたは本当にただ"ウワサ"を流しただけにすぎません」
『そうだ。俺はただ流しただけだ』
ふふ、よかろう?と楽し気に笑うこの神に、誰が何かを言えようか。
「…それにしてもパーティか…あんなに俺たちを苦しめたのに、楽しそうでなによりだなぁ…」
半笑いで俺が言うと火雷が笑う声。
『ふふ、でもよかったね。何事もなくて』
「ほんとにな」
「じゃあ願いを叶える鳥居はただの鳥居なんだ」
「実際叶える力はもう無いみたいだね、今回の話を聞く限り」
『気のせいで終わってるから無いだろうなぁ』
終が顎に手を添えてふふッと笑う。朝梨がしみじみと笑う。
「なんなら土地神様みたいな扱いになりそう〜」
『その時はまた、噂で物語が変わるだけだ。七不思議から、イネの存在が神になり変わる。ただそれだけだ』
『俺たち神や空想上の生き物と呼ばれるものたちはそうやって存在する』
『物語が核で、語られることこそが我らが存在できる理由だ』
風伯と終の言葉に、彼らは物語に依存して生まれてる存在なのだと気づく。
そりゃぁそうだ。
神っていうのは、誰かが思って、語って、形になった存在だ。
なら、物語に左右されるのも当然なのかもしれない。
──で、あれば…俺たちも、その“物語”の中にいるってことなのだろうか。




