第51神 文化祭準備
文化祭。ということはやることが高校生にはあるわけで。
「よぉーし、お前ら!何やりたい?!」
茶髪の男──西園寺 宝が楽しそうに黒板からこちらを向いて笑う。
なんて笑みの眩しい男なんだ…こいつは西園寺宝、西城地区…いや、根の国一のスイーツ店『saionj』の息子。
実は日本や海外にも輸出を企んでいるらしい。根の国で成り立ってはいるが、他の世界にも通用するのかどうかを試したいのだそうだ。
宝のお父さんはやる気だなぁ…。
いつか、根の国──隠り世と他の世界を繋げるパイプができればそれも可能なんだろう。
「はいはーい、メイド喫茶やりたい!」
「…蜜柑」
やけに俗的な考え方を持つ黒髪の女の子、西城蜜柑。以前大変なことになっていた一馬の彼女にして、この神無一体の、市長?のような人の孫。
「じゃあ逆転喫茶にしよう」
「そういう問題じゃないだろ」
「どの高校も同じようなのやってくるだろうしなぁ」
そう、これはこのクラスだけの話ではない。神無と神居全土に渡る高校の文化祭なのだ。
「そう考えると春夏秋冬祭りが一年に一度しかないのも納得だ…」
うんうんと頷いていると隣にいた朝梨が満面の笑みを浮かべる。
「しかも3日にかけてね!」
「…そういえば今回の商品は?」
商品──これは、春夏秋冬祭りには最後に俺たちが舞うが、その舞う前にせっかく超能力持ちの高校生が集まるんだし、軽いバトルロワイヤルしようぜと言い始めた各校の先生たちによる、どの高校が1番強いかのバトルロワイヤルがある。
一位の高校には商品がある。
「…願いを叶えてくれる原初の龍の手だそうだ」
その瞬間、朝梨と桃梛がほんの一瞬だけ、笑うのをやめた。
「原初!!」
神無では本当に聞かない単語で、俺、朝梨、桃梛以外がドッと笑っている。
「ファンタジーだねぇそんなのあるわけないのに」
「でもあったらいいよなー」
「本当に叶うのかなー!」
冗談半分、本当にあるといいなという気持ち半分でみんなが話している。
あるんだよなぁ…ファンタジーの世界。とは言えず、同じように笑うことにとどめた。
——その“願い”が、どんな代償を持つのかも知らずに。
結局西城学園側が出す屋台はマジで逆メイド喫茶となった。
つまり男がメイド服を着て、女が執事服を着るということになった。
裁縫が大好きな蜜柑が「私に任せて!」とウキウキで言われたが西城学園の生徒全員分はきついだろという話になり、それぞれの学年で服を作る、料理を作る、ポスターや小道具を作るで別れた。
無事一年生は服を作ることになり、苦戦する羽目になったのである。
「…蜜柑、ほんっとそういうとこ…」
「蜜柑ちゃんに任せるとそうなるんだよ」
桃梛がもらってきたよ、と持ってきたメイド服を手にしてまずは、あぁ…もうだめだ。と今後の文化祭に想いを馳せた。
試しに一着作ってみたと言っていたメイド服はもうふりっふりのレースたっぷりのメイド服。ミニスカ。
「せめてロングがいい!!」
「そういう問題なんだ」
文化祭の日にこれを着ることが少し怖い気持ちになりながらせっかく作ってくれたメイド服を大切に抱きしめつつ叫んだのだった。
『不幸体質だな』
「こんな不幸は違うじゃん…」
────
──
─
…それにしても、原初の龍…か。
俺は守護者になって、世界が広く見えるようになった。守護者にならなかったら知らなかっただろう世界だ。
昼休みに、屋上で飯を食いながら神居の方を見る。
…霧に隠れてて見えんけど。
扉が開く音が消えたので、振り向くと同じ守護者である、篠倉桃梛と柊朝梨がお弁当を片手にやってくる。
流れるように俺の左右を陣取った二人は柵にもたれかかりながら、真剣な顔で朝梨が俺に問う。
「ねえ、原初の龍ってどう思う?」
「いやー、なんだろなぁ」
2人がお弁当を持っているのを見て、慌ててきてくれたのはわかった。
祭りの浮ついた空気の裏で、俺たちだけがまだ七不思議の残り香を引きずっていた。
俺が座ると、2人もお弁当を抱えて座った。
桃梛がお箸でご飯を一口サイズで取りながら話を続けた。
「…この前、イネさん達の七不思議の件があったじゃん?あのあと西城ではどうなったか蓮くん知ってる?」
「…いや。傷痛すぎてなんの話も耳に入ってこなかったなぁ」
「…まあ蓮くんが1番傷深かったもんねぇ、今は痛くない?」
「ぜーんぜん!竜胆さんすげえよマジ」
よかった、と桃梛は笑いながら話を戻す。
「…イネさん達の話ね、御伽噺で終わってるよ」
「…ん??御伽噺?」
つまり、どういうことだ…?
「…叶えてくれなくなったって言ってるやついたよ、この前」
「うん、その噂が無くなった」
「?つまり、蜜柑たち──西城学園の認識として、七不思議は御伽話で、本当に叶えてくれたりする存在ではなくなった、ってこと?」
「そう」
朝梨が眉を顰める。
「待って、おかしいよ。だってマガツヒはただ物語が反転するだけなんだよね?」
そうだ、そのはずだ。
しかもこの前、番人と少年は謎かけをして遊んでいたという報告も聞いてる。
「──てことは、『七不思議が存在していたという物語』が反転したってことにならない?」
『それもある、がもう一つ疑問点があるはずだ』
朝梨と桃梛が真剣に悩む横で風伯の声が響いてきた。
「うわ、風伯様の声が私たちにも聞こえる…!」
驚く朝梨に、火雷の笑う声。
『ふふ、ちょっと介入させてもらっちゃった』
『本来、神無の人間は幽霊といった心霊は基本的に見えない。見えてたら今頃パンデミックだ』
「…確かに」
『今までイネ達を見ることができていた。この時点でおかしいんだ』
「…秩序の歪みが生じてる…?」
桃梛がポツリと呟く言葉に風伯が返す。
『そうなるな』
『…気になるなら見てみる?神無の人間達の噂よりも自分たちの目で見に行ったほうがいいかもよ』
火雷の言葉に全員思わずパッと見合わせた。
確かに、そうだ!
保健室にいるかもしれない!俺たちなら視えるんだから直接見たほうがわかりやすい!
見に行かない選択肢が存在していたことに自分でも驚く。
見に行こう!
桃梛と朝梨は俺にはよ、飯を食えと促してくる。待って二人ともいつ食べ終えたの?まだ昼休憩始まったばっかじゃね?
「そんなにお腹すかないもの」
「二人が話してる時に食べてた〜」
「えぇ…??」
昼休憩が始まったばかりとはいえ、早く確認をしたいらしい二人から、パンを片手に走るという提案をされる。
「まあそっちのがいいか」
パンを片手にまずは保健室へ向かう。




