第6神 マガツヒ
「マガツヒって…俺が誤認逮捕された時に言ってたやつ…」
「あの時逮捕されてたのお前だったのか」
「島崎さんと春雨さんは元気にやってますか?」
なんて冗談を返すと、鷺沼さんは額に手を置いてため息をついた。
その感じだと変わらず間違えているように見える。
『守護神がいるのにマガツヒを倒せてないのか』
「いかんせん、あいつらの守護神はあいつらに甘いからな。マガツヒかな?って言葉に対して全部そうだって頷いちまうんだ」
『終と夏目だろ。あいつらそんなやつだったか?』
「そんなやつになったんだよ…ああ、っと、マガツヒの説明いるよな」
さてどうしたもんか、と鷺沼さんは口に手を当て何かを考える。
俺も一つ一つ全て聞きたくて仕方ない。
その服を着てるってことは島崎さんたちと同じ仕事をしていて、神居政府からここまでどうやってきたの!?とか、色々聞きたすぎる。
「マガツヒってのは、性質を反転させる病原体みたいなもんだ」
「性質を反転?」
「穏やかな性格が荒々しく。運命を司る神が運命を壊す、みたいな感じで反転する」
「…あ、じゃあ火が水に、赤が青に、ってことですか」
「そう。それがマガツヒだ。
運命を捻じ曲げる感染病。
神や妖怪…空想上の物語の生き物…神秘たちが感染する病原体だ」
「…生きてる人間に感染はしないんですね」
「今のところは。でも、その人間が例えば妖精と人とのハーフならあり得るだろうな」
「空想上の生き物の血が混ざれば…」
「自ずとそいつは病原体から見ても同じ枠になる」
「その病原体を発見できてかつ潰せるのが俺たち守り人。通称守護者だ」
「守護者…?」
「マガツヒは神が触っても感染する。神の能力でも倒せない、そんなカケラの名称を指す。
…かと言って普通の超能力を持った人間でも壊せない。
そこで出てくるのが俺たち守護者だ」
『人と神の仲介役にして、神と人が手を取る意味を持たせてきた奴らのことだ。俺たち神の間でも話題が持ちきりだよ』
「ああ、うちの守護神たちも同じことを言ってました」
鷺沼さんは困ったように笑いながら、腰に手を当てる。
「俺たち守護者は神と契約して、神の力を借りる。神が壊せない代わりに仲介として俺たち人を挟むことでマガツヒに触れられるってわけだ」
「神も感染する病原体を殺せる、俺たちも神秘たちが暴れるのを防げる。でウィンウィンな関係ってわけだ」
「いや待って情報量!多すぎる!」
俺は息をつく。
「えーとつまり、マガツヒは物語を反転させるガンみたいなやつで、特効薬が守護者…ってことですか?」
「ん、まぁ概ねそんな感じだな」
フッと笑った鷺沼さんに告げられる。
「俺は神無地区の管轄じゃないから本来ならここにはいない人なんだ。
悪いけど、俺と同じ格好したやつを見かけても俺の話はしないで欲しい」
「え、あ…わかりました」
「悪いな。それじゃまた」
鷺沼さんはそれだけ言うと、ふっと姿を消した。
風伯と火雷に背中を押されるようにして、俺も家へ戻った。
「にいちゃんおかえりー」
「ただいま」
「お兄ちゃん聞いてよ蘭がね」
「うわ、りん言うのやめてって言ったじゃんか!」
キャイキャイと話す2人を見て、夕ご飯を作る母を見て、今なんだか無性に安心した。
火雷と風伯がそんな2人の横で微笑み眺めてる。
非日常と日常の掛け合わせを俺は今見てる。
見えてなかった世界に足を踏み入れて、途端。
……神無には居ないはずの化け物たちを目にした。
怖くて逃げて逃げて。それでも追いつかれて。
トイレットペーパーをトイレに置いてティッシュを棚に戻しながら考える。
────この日常を壊したくないな、と。
視界の端に映る父の遺影。
父は家族を守って死んだ。
俺も誰かを守りたいと思って生きてきた。
俺の不幸体質では、守るどころか巻き込んでしまって何度も死にかけそうになった。
でも、今俺の頭によぎるのは不幸体質をカバーできるかもしれない、モノがある。
『守護者』という手段。
この日常を守るために、できることがあるなら俺は────
「にいちゃん?」
「ぼーっとしてどうしたの?」
『蓮、あんまり考えなくていいぞ』
『守護者にならなくたって人を守ることはできるよ』
双子の言葉と風伯と火雷の優しさがじわりと体を温める。
「────うん、なんでもない」
ご飯を食べてお風呂に入って布団に横になった。
風伯と火雷はどうやら、簡易的に作った神棚で良いってさっき作った神棚で寝ているからか部屋には居ない。
考える。
今日の怖かった異形に何もできなくてただ逃げ惑っていた俺の前に現れた鷺沼さん。
誰かを守ることに覚悟を持ってる人。
守護者にならなくても、守れる。
それは、そうかもしれないな。
…それでも、俺も誰かを守るような力が欲しいと思うのは、当たり前のことだった。




