第41神 ハチス伝説
むかしむかしのお話です。
ある小さな村で、1人の男の子が生まれました。
男の子の名前は『ハチス』。
彼は村の中で最も雷の神様に愛されていた子でした。
この村ではよく雷雨があったものです。
雷の神様は村人達のことも大層可愛がっていましたが特にハチスのことを可愛がっていました。
ある時、村の人たちがハチスとかくれんぼをしました。
ハチスは喜んで頷き、近くの押し入れに隠れました。
『しめしめ、ここならバレないぞ…』
しかし、いつまで経ってもやってきません。
痺れを切らしたハチスが外に出ると、そこには真っ赤な海が。
倒れた村人達が、人間に殺されていました。
ああ、ああ!なんてことを!!
ハチスは神に願いを言います。
ハチスは、泣きながら神様にお願いしました。
『みんなを、生き返らせてください』
雷の神様は、やさしくうなずきました。
『いいですよ』
すると、村人たちは
まるで何事もなかったかのように
起き上がりました。
ハチスは、とても喜びました。
でも──
人間のことが、少しだけ怖くなってしまいました。
村の人たちには黙って、ハチスは村を出てしまいます。
そこではいろんな人と出会いました。
悲しい人、強い人、きれいな人、優しい人。
いろんなものを見て、ハチスは旅を続けました。
そして、ある時。
ある神様が、病気になってしまいました。
『ああ、私を誰か殺してください』
そう願ったその神様の願いを、ハチスは叶えることにしました。
『私があなたを殺しましょう』
『ありがとう、名もなき英雄よ』
神様は、そう言って消えました。
ハチスは思いました。
もう、同じことが起きないようにしよう、と
だから、ルールを作りました。
人と神様が、助け合えるように。
こうして世界は、少しだけ変わりました。
めでたしめでたし。
────チョークを置いてこちらを見るアルバートさんに困惑してしまう。
「……噂を神が流したから、神は同一のものを壊せない?」
『ああ、俺たちは触れない。触ったら感染しちまうからな』
『守護者』から『空想上の生き物』へ向かう矢印の横に、『物語の解放』と書かれる。
『空想上の生き物』の下に矢印『マガツヒ』矢印の横に『感染』と書かれる。
「で、こっからが本題だ。マガツヒってのが何か、だね」
「マガツヒは空想上の生き物たちの、特質、性質、物語、とにかく生き物たちが形成されるための元となるものを反転させる。
元となるものってのは簡単に言うと物語なわけだ」
「さっき少年の時にも話したように、桃太郎という物語を反転させれば、桃太郎という存在そのものが生まれないのと同じだね」
元となるもの…物語…特質……。
「元となるものってなんだ…」
「物語を別の言い方にしてみるといい」
「…えぇ……?」
『カケラを壊すと何が見えた?』
──カケラを壊した時……見えたのは、七不思議の過去…。
あれを物語の解放というのであれば…。
「…記憶?」
「その通り。
今回、カケラを壊すたびに見えていた記憶がそうだね。
あのカケラの中に彼らの反転する前の記憶が閉じ込められてるんだ」
「だから、あの時記憶が見えてたのか…!」
線を一本引き、アルバートさんはその線の下にもう一度『ハチス伝説』と書き出す。
「さて、守護者制度について、だ。これはハチス伝説が大きく関わる」
「…この流れ、俺読めましたよ…ハチスってやつが制度を作ったんでしょ…!」
「なかなか鋭いね。じゃあ何故作ったと思う?」
「ええ!?…うーーん……」
制度を作った理由…理由…?わからん。
腕を組んで首を傾げていると玉さんが教えてくれる。
『マガツヒの最初の感染者が神やったがよ』
「えっ、そうなんですか?」
「うわ、玉ぁ〜………答えを言ったらダメじゃないか」
『ええやんか。もう悩んだって出てこんがやき』
「はぁ…まあいいや。
そうだよ、最初の感染者は神様。
その神様こそが、運命の女神だよ」
静かな時間が流れ、時計の音が聞こえる。
そうして、アルバートさんは小さく息を吸い、告げる。
「──拒否したのに、壊された神様だ」
胸の奥が、ざわついた。
うまく言葉にならない違和感だけが残る。




