第42神 優しい願いは、世界を壊した日
…人から、願いを叶えてほしいと請われて、運命を崩すことはできないからと、拒否をした神様。
最期は人の願いから生まれたものによって、死んでしまった悲しい神様。
アルバートさんは黒板に文字を書いていく。
『壊れた物語』『マガツヒ』と。
「──君たち守護者は壊れた物語を直すためにいる」
「神という上位存在が作ったモノを、他の下位存在が壊せるわけない。でも放っておいたらこの世界は終わる」
「そこで、神と人を介する存在────守護者を作った」
チョークの粉が落ちる。アルバートさんは変わらず、色んな色を使って文字を書いていく。
赤文字で書かれた『守護者』の文字。
「…あ、鷺沼さんが最初に教えてくれたやつ…」
「おっ。なら俺から言えるのは一つだ。
神でも壊すこと自体はできる。
けれど、触れた時点で感染する危険がある。
────でも。感染しない人間を介せば?」
「人間を、介せば……」
考えるために伏せていた目を開け、アルバートさんを見た。
「……カケラを壊すことができる」
アルバートさんは頷き、正解だというように笑った。
「それをやるために作られたのが守護者制度さ」
「…ハチス伝説って結局なんなんですか?」
「守護者制度を作る話──というよりは、コレ可哀想な村人が神に願った話なんだ」
「マガツヒが生まれる前の話さ。村人を皆殺しにされた、悲しんだ小さな少年がいた。神に、村人を生き返らせてほしいと、運命を捻じ曲げるように願った」
「えぇ…とんでもないこと願う奴がいるんだなぁ」
「いたんだよ、ちゃんとね」
「そこで神が手を貸した。最悪の形でね」
風伯も火雷も、他の神様達は静かにアルバートさんの話を聞いている。
その話が御伽噺ではなく、事実であることを肯定しているかのように。
「──優しい願いだった」
「だからこそ、最悪だったんだよ」
「だれも、間違ってないのに…」
『そうだねえ…』
「ハチスも、とんでもない願いだけど、大切な人たちを生き返らせたかっただけなんだもんね」
『それがこの世界だと禁忌に触れてしまったんだがな…』
風伯の言葉に、言いしれぬモヤモヤが残る。
それはそうかもしれないけど…。
でも、ハチスの気持ちもわかるから、だからこそ悲しくて優しい願いなんだろうな…と人知れず思う。
黒板に向き直り、書きながらアルバートさんは言葉を続けた。
「物語の中では、運命の女神は敵役だ。敵を倒して、そうしてハチスは、神と手を取り合って、この世界の秩序を守ることにした。
めでたしめでたしってのがハチス伝説という話だ」
『運命の女神』にバッテン。『ハチス』から矢印を書いて『討伐』、『めでたし』と書かれた。
「…めでたし?」
疑問に思う俺にアルバートさんが笑う。
「そう、そこだよ。コレ結局めでたしじゃないんだ。なぜかと言えば?蓮、わかるよね?」
「え、ぇええー…!?わからーん!!」
「う、うぅーーん…」
悩む俺にアルバートさんは笑いながら、チョークを走らせ、『ハチス伝説』、『めでたし』にバッテンを一つ書いた。
あれ…。
「マガツヒが広まる前ってことは、女神は死んでないですよね…なんでハチス願い叶ってんだ?だって、さっきの話だと秩序を守る…生き返らせたらダメですよね…」
「………もしかして…運命が捻じ曲がっている…?」
アルバートはフッと笑う。その笑みは間違ってはない、ということなのだと思う。
『運命』の横に矢印、『捻じ曲げる』の文字。
そうして、『運命の女神』にバッテンをつけた。
「────運命が壊れ、今もなお、運命の女神は産まれない。」
「…運命は捩れたまま…?」
アルバートさんは少しだけ息を吸い、変わらぬ表情で続けた。
『ハチス伝説』から長い矢印を下に書き、『運命の女神』と繋げる。矢印のところに『守護者制度』と書かれた。
「どうだい?ここまで聞いてみて」
アルバートさんはそこで一区切り終えたというように、ふぅ。と息を吐いた。
「守護者制度については分かったかい?」
「アルバートさんがなんで知ってんだ…っていうツッコミは一旦置いとくことにします…」
「近くで見てきたからねえ」
遠くを見つめるように目を細めるアルバートさんに、目の前の人は人じゃないんだ…と実感する。
「…」
「さて、君はこれだけ覚えていればいい。
マガツヒに感染した運命の女神は死んだ。
今もなお、神は生まれていない。
その死んだ理由こそが、ハチス。
マガツヒを治めるために、守護者制度をハチスは作った」
「これだけ丁寧に説明してやったんだから、覚えたよね?」
「……はい」
「ならいいや、まぁ、半分忘れても問題ないよ」
…歴史はわかった。
俺たちじゃないとマガツヒが壊せないことも。
ハチスが設立者で、運命の女神が最初の犠牲者だってことも…。
左手を握り、自分の契印を見る。
契約前に説明されたマガツヒの正体とその生まれ方…。
「…結構長い歴史がありそうですね」
「まあおおよそ6000年くらいはあるんじゃないかい?」
『ハチスが生まれた頃はそんなものかもね』
「ろくせ…!?ながー!」
「神様の歴史の中じゃ短い方だろう」
『アルバートは7500歳だからな』
「風伯、なんで今俺の年齢暴露したんだい?」
チョークを置き、ため息をついたアルバートさんは俺をみる。
「まぁいいか…。
さーて、七不思議についても整理しておくかい?」
「あ、一応!しておきたいです!」
「一つ、七不思議は元は人間、もしくはなんらかの空想上の生き物だった。たとえば妖精さんがそうだね」
「あとはアレですね。彼らの記憶に関するものは七不思議同士で持ってる、倒せば俺たちは手に入れることができる」
七不思議のルールの方がわかりやすいのでめちゃくちゃ口が動いてしまう。
アルバートさんはそれを知ってるのか、フッと楽しそうに話す。
「少年を倒せば屋上の女子高生に関するもの、とかだね」
「それから、彼らはマガツヒに感染してる」
「そして──外は今鏡しかいない」
「ん?」
「イネが願いを叶えなくなったのは、感染した鏡が吸い込んだからだ」
「…!」
アルバートさんを見ると、フッと笑う。
「…残りの七不思議は二つ。イネと鏡…。俺たちは鏡を壊して、イネを解放すれば…」
「外に出れる」
『……で今手元には女子高生の簪と、番人が落とした本、桃梛が持ってる鈴か?』
「うげっ、俺がこっそり番人から取った本見てたのかい風伯」
『まあな』
「こっそり取る必要はなくないですか…?」
「よし、一旦終わりにしようか」
けれど息つく間もなく、アルバートさんが静かに廊下を見る。
その動きに合わせて廊下を見ると、視界の端に小さな鏡のかけらが落ちてあることに気づく。
「本命のお出ましみたいだからね」
それは、終わりを告げるチャイムのようだった。
短編を入れたら気づけば50話。
いつも皆様読んでいただきありがとうございます。
まだまだ続くので長い目で彼らの選択を見ていっていただければ嬉しいです!




