第39神 七不思議1番目『保健室のガイコツ先生』─真と偽の境界─
「二つ目の質問です…。
この世界が終わったら、あなたたちはどうなりますか?」
"意外な質問だ…そうだね、私たちは消えるよ"
「消えるんですか?」
"ああ、もちろん。反転した世界といえどマガツヒ化したことに変わりはない。今までマガツヒに感染した物語は皆、消えていただろう?"
確かに、そうだ。
…少年も、仮契約をした時に浄化した女子高生だって、みんな最後は消えた。
"だから我々が消えることは当然さ"
それはとても悲しい話だ。目を伏せて視線を逸らす。
けれどこれは任務で、俺たちがどんなに争っても変わらない。
アルバートさんが割って入る。
「最後の質問だ」
"君が?またか、アル坊"
「その呼び方やめてくれよ。…答えてくれ。
残っている七不思議の性質は?」
"イネと鏡。イネは七不思議が閉じることを祈ってる。
鏡は、魂の集合体だ。人を吸い込むよ"
「thank you!蓮、このゲームはもう直ぐ終わりだ。攻略と敵が見えたよ」
「ええ?今ので??」
蓮、ともう一度アルバートさんに呼ばれる。こちらを見るアルバートさんは笑う。
「七不思議は、それぞれがマガツヒに侵されているんだと俺は思っていたんだ」
「……広大の説明も、そうだったんじゃないかい?」
──俺たち守護課に依頼が来た、他の課によると、七不思議それぞれが“マガツヒに侵食された状態”の可能性が高いとのことだ。
…鷺沼さんから送られてきたRIRINを思い出す。
と同時に、何故アルバートさんが、鷺沼さんを知っていて、この七不思議の内容を知ってるのか、疑問が湧いた。
……けど、
今はそれを聞いている場合じゃない。
アルバートさんは言葉を続けた。
「蓮は、違和感を覚えなかったかい?」
「…色んなことで、頭がいっぱいで……」
「それもそうか。
──マガツヒに七不思議たちが侵されているんだろう?」
「…そう、聞いてます」
「だとしたら、最初に鏡に吸い込まれるのはおかしいんじゃないかい?って俺は思ったわけだ」
「彼の本質は、今ガイコツ先生が語ったように、『吸い込むこと』だ」
「…確かに…でもガイコツ先生の言葉が違う可能性も…」
「俺が見た感じだと彼が変わっているのは性質と前提となる物語だね、ようは能力自体が反転しているのであって、知識は変わってない」
「…ううん、アルバートさんを信じて良いのか…」
『一旦話を聞いてみることも時には大事だぞ蓮』
「風伯はどっちの味方なんだよぉ〜…」
「とにかく……マガツヒに侵された今、それは反転してるはずだ」
ハッ…として思い出す。
確かに最初、鏡の前に立っていた時、本当になんの変哲もなかった。
もちろんアルバートさんは邪悪に見えていたというが…。
でもそれとなんの関係が…。考えているとアルバートさんが笑う。
「七不思議たちそのものも、中に吸い込まれている…と考えてみるといい」
「……七不思議そのもの…?」
「つまり、外にあった“七不思議”は、確かに、本当の七不思議に出てくる鏡だ。
でも、今回の話で言うと、本体じゃない」
「……!じゃあ、俺が普通の鏡に見えたのは、本物の七不思議だったからで、
アルバートさんが邪悪に見えたのは…!」
「…あれが、物語の“入口”に過ぎなかったとしたら?」
息が詰まる。
「──『保健室のガイコツ先生』や『車椅子の少年』という一つ一つの怪異が侵されてるんじゃない」
アルバートさんが、ゆっくりと言い切る。
「『七不思議』という物語そのものが、一つの器だ」
「……まって、ください…。なら、」
俺が答えにたどり着いたことをアルバートさんは気づいたように。うん。と一つ頷かれる。
「今までの七不思議って、“個別にマガツヒに侵されてる怪異”じゃなかったってことですか…?」
ガイコツ先生は黙ったまま足を組んでこちらを見ている。
答えるつもりはないが、この沈黙こそが答えであるというように。
「外と中で鏡が二重になっていたんだろうね。
中の鏡──マガツヒに侵されてる方を、俺は邪悪に見えた。
君たちは外の鏡──つまり、マガツヒに侵されてない方が見えてた。ってことだ」
一拍置いて、アルバートさんが笑う。
「『七不思議』という物語に感染してるから、核はそれぞれにある。
ただ…あの鏡が、入口であり中枢になってる」
「……!」
「全部まとめて飲み込んでるんだからね」
アルバートさんが楽しそうに笑っている。
法則性が見えたからだろう。そして、最初から決まっていた目的が、あらためて確信的になった。
「──なら、なんにせよ鏡を壊すしかない、ですね」
「そういうこと!」
俺とアルバートさんの会話が落ち着いたところでガイコツ先生からフッと微笑む声。
"さっき黄泉から保健室に、君たちを呼んだのは私だ"
"君たちと話したくてね"
"──どうか、彼らを救ってはくれないか"
ガイコツ先生の言葉に頷く。
「救います」
ヒューと口笛を鳴らしたアルバートさんを見る。
「言い切るじゃないか、蓮」
パキパキと音が鳴っていく。ガイコツ先生のカケラにヒビが入る。
「消えるのかい?」
"…それは質問かな?"
「…面倒な生き物だね君も」
「ガイコツ先生…ありがとうございました」
頭を下げればガイコツ先生は、声を上げて笑った。
"君は…ふふ、そうか。ああ、どういたしまして"
生前を思い出すなぁ、懐かしいなぁ。とガイコツ先生が呟いた。
ヒビが入っているカケラを受け取る。
──綺麗な、白い菱形のカケラ。
埋め込まれていたり、持っていたり、様々な扱いを受けてるマガツヒの本体。
──そのカケラを投げる。
白いかけらが宙を舞う。カケラに向かって、刀を振り上げ、切った。
パキンっと音が立ち核が割れる。
ガイコツ先生の周りに青い炎と赤い炎が混ざるように現れる。
両手を広げて楽しそうな声を上げた。
"ああ、懐かしい。炎だ"
"そうだ…思い出した"
突然、頭に声が聞こえてくる。子どものような、でも先ほどまで聞いていたような、声。
──○○○先生ー!怪我したー!
──先生、僕のボール、預かっててください…。
──先生!本がすっごいあるんだ、俺はこれを見たくて…!
…あ、七不思議だ。少年の声、番人の声…。
もしかして、これは。七不思議達の生前…?
てことは、彼は────。
ガイコツ先生は静かになる。巻かれる炎はだんだんと大きなものとなる。しかし、不思議と自分達は熱くない。
煙が出るわけでもない、その炎の中楽しそうに、嬉しそうに。そして、懐かしそうに彼はつぶやいた。
"私は、あの子(七不思議)達と昔──"
それは、安堵のようにも聞こえた。
"会っていたんだなぁ"
──先生、先生!!逃げて、火事だよ!逃げてえ!
──我が、西城の神として願いを叶えよう。この学園に炎は無かった。
神の声が、遠い記憶の底で重なる。
リンッ…
鈴の音を最後に、生前の声が止まる。
ふ、と前を向くとガイコツ先生は悲しそうに呟いた。
"ああ、私は、この炎に巻かれて……"
ボォっと炎と共にガイコツ先生は消えた。
俺は唖然とする。
燃えた炎はこの空間を消すことなくガイコツ先生のみを燃やした。
静かに、儚い終わりだった。
ふと、炎に巻かれたガイコツ先生の落ちた白衣を見る。
「…七不思議たちはみんな、記憶を思い出すと、消えてる?」
「思い出す前に消した子もいるかもしれないけどね」
「うぅぅーん………頭が混乱してるからとりあえず動きたい」
君、パワータイプなんだね。とアルバートさんに言われる。あんたに言われたかないわ。
桃梛と朝梨を抱き上げているのを見て呆れる。
「…というか蓮、君運が良かったね。初めてなんじゃないかい?運が良かったこと」
「へ?何がですか?」
「彼…ガイコツ先生は洗脳系怪異って言っただろう」
「え、はい」
アルバートさんが歩きながら、笑う。
「──本来なら会話すらできないレベルの洗脳だよ」
「どういうことですか?」
冷や汗がたらりと流れる。
「彼、今回はマガツヒに反転して理性的だったから良かったけど、本来の無邪気なおじさんだったら死んでたよ」
「だって彼の能力、言語支配の洗脳に加えて、強制行動、自己否定をさせてくるんだ。
つまり、君が彼に質問を三つした時点で詰んでたよ」
「………は…?」
風伯が言葉を紡げない俺の代わりに、『ほう…』と声をあげた。
『なかなかエグいな』
「まぁね、1番即死トラップだよ彼。質問した時点で言語を支配されるんだから。
行きたいところがあるって口では出してるつもりでも、支配されたら終わりさ。
君が口を塞げなかったのが強制行動。いい例だろ?」
ばくばくと心臓が鳴る。
さっき強制的に言わされていたが、アルバートさんが止めてくれたから、言わなくても済んだ。
眠花さんが止めてくれたからガイコツ先生はそれ以上に踏み込まなかった。
…ということは、今回二人がいなかったら……?
背中に、冷たい手を当てられたみたいにゾッとする。
『…なるほど。死にたいと口に出してなくても、出すように誘導されたら』
「彼は無邪気に頷くよ。いいとも、さあこちらへ。とか言ってね、身体が勝手に動くのさ」
「特に彼はその手法をよく使う。要は死にたいって言わせて、君の望むとおりだね。ってあたかもこちらが言ったからやったように言うんだ。厄介だろう?」
その言葉を聞いた瞬間、
──「思い出したい、です。」
自分の口から勝手に出たあの言葉が頭をよぎる。
手が震える。さっき口に持って行くことのできなかった手を、口元にまで持っていき、固まってしまう。
「いやー、よかったね蓮」
はっ…としてアルバートさんを見ると月をバックに笑みを浮かべる、悪魔がいた。
「生きてて」
その言葉を、こんなにも重く受け取る日が来るとは思ってもいなかった。




