表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守護の記録  作者: ツギハギ
西城学園七不思議編 後半
PR
46/147

第38神 七不思議1番目『保健室のガイコツ先生』─触れる感情─

 隣で眠る、眠花さんの姿を確認して、ホッとする。

 生きてる、彼女はちゃんと…。


 コトリとココアをおいたガイコツが俺の前に座る。

 赤く腫らした目のまま、ココアに口をつけた。


 どう見ても、ガイコツ…おそらく七不思議『一番目の保健室のガイコツ先生』であることは間違いなさそうだけど。


 …ほぅと息を吐く。人知れず張っていた気がゆるりと抜けていく気配を感じた。

 ガイコツ先生の本来ない声帯から低い声が聞こえてくる。


 "気分は落ち着いたかい?"

「…ありがとうございます、なんでこんなに、涙が出ちゃったんでしょう…へへ」


 恥ずかしくなって頭を掻くと、ガイコツ先生が微笑む。


 "その理由を知りたいかい"


 声は優しく、全てを包み込んでくれるような声で問われた、


 "君のその感情は、なにか、欠けた記憶が影響してるとワタシは考えているよ"


 …確かに、昔から何かを忘れている気はしている。最近も、オモイダセ。と夢の中で警告を鳴らされた。

「…そう、ですね…。

 とても大切で忘れてはならないと思っていたものを、無くしてる気はあります…」


 "ふぅむ"



 指の骨が骸骨の顎を触る。


 "思い出せる方法がある。とすれば君は思い出したいかい?"


「え…」


 "ただし、とんでもない負荷がかかることになるけどね"


「…」


 思い出すことが、できる…?ごくりと人知れず唾を飲み込む。


 …いや、でも思い出す必要はない。

 なんかすごい重要そうだけど今目の前にいる人たちを救うことの方が大切だ。

 あんまり、思い出してもなぁ…。あんな番人の時のように痛みが伴うのも嫌だ。


 …なにより、知ることが怖いと、思ってしまった。

 俺はまだそこまで踏み切れない。今目の前のことしか、考えられない…。

 だから断ろう。


 そう思った。

 本当に、そう思ったはずだった。


 しかし、思っている感情とは別に口が勝手に開く。


「────思い出したい、です。」





 え…?


 ち、違う…。



 違う


 違う!


 なんで、口が勝手に。

 口元まで手を持って行こうとして、動けないことに気づく。


 …身体が、動かない。顔がガイコツ先生から離れない。



 ガイコツ先生は声で微笑んだ。


 こっちは驚いてるのに、音はしないのに、“笑った”と分かるのが気持ち悪い。




 ゾッとした。




 目の前の生き物は確かに、人ではなく七不思議という値の知れないモノなのだと。


 "では思い出すとしようか"


 "人ではない僕たちは君達のことをよく知っている"


「…俺、たち…?」


 "守護者がどうやって生まれるか知っているかい"


「…て、天命によって、選ばれるん、ですよね?」


 違う、聞きたいわけじゃない。

 興味もないのに。



 "そう。では守護者は死んだらどうなるか知っているかい?"



 簡単に頷いたガイコツ先生は微笑んだ気配を見せ、目を、伏せた気がした。

 ────雨水の守護者が亡くなった時、島崎さんは言っていた。

『産夢という輪廻に還る』と。



 "君たちは輪廻に戻りもう一度人としてこの世に生まれる。"


 …それは、番人の時に問われた、答えだ。

 転生を繰り返している、と。俺たちは何度も守護者をやっているのだと。


 "でもそれは、守護者だけじゃない"



「…待って、ください」


 口が動く、身体が動く。


 声が出た。

 今度は、自分の意志で。


「どういうことですか…」


 ドクンと胸が鳴る。


 興奮か、それとも恐怖か、わからない。


 そんな感情を自分が持ち合わせているとも思っていなかった。

 なのに、緊張からか、持っているマグカップの取っ手を握る手が強くなる。


 ──まるで、言葉も感情も弄られているようで、真実を口に出しているかのように言葉が出る。



「……それじゃあ、まるで…全員が…」





 "そうだとも。守護者に関わる者もまた、同じ魂の流れにいるんだ"




 言われた言葉に頭が追いつかない。持っているマグカップをギュッと握る。



 "神居の特異性でもあるね"



「神居の特異性…」


 興味がなかったはずなのに、次第に脳が考えるようになる。


 番人と戦った時の記憶のやつか?

 じゃあ、夢で出てきたあいつが、そうなのか?

 ふるふると首を振る。考えてもわからない。



 "君たちは、何度でも守護者になり巡り合う。これが守護者制度だ"



「……なんだよ、それ……」


 嫌だ。思い出したくない。


 痛い思いをしてまで、見たくない。


 俺はただ、小さな幸せを………。



 "……そろそろ思い出せそうかな"





「なん、」



 頭が痛む。何か、なんだ、何かがおかしい。

 何かが違う。なんだ、この違和感は。




「あ、なたは…」


 "さぁ、思い出すんだ"




 ガンガンする脳みそは揺らされているような気持ち悪さを伴う。

 誰かの声が記憶の中に流れてくる。




 ──誰が、俺の嫁を…!──

 ──お前っ…落ち着けって──



 血の匂いがした気がした。


 誰かに抑えられる、姿。




「あの時、俺は──」


「──何かを……」


 頭を抑える。

 消え去る街、その中心に立っている、男。

 目を見開く。口は勝手に開いた。



「…こわ、した」



 ガラッと扉が開く音。


「君といい、番人といい、あまりいじめないでやってくれないかい?」



 のっそりと疲れた様子のアルバートさんが扉から現れる。

 腕には気を失った朝梨と桃梛を抱えていた。



 パッと身体が一気に動き、フル回転していた頭がじんわりと戻ってくる感覚。無理やり引き出されていたような、あの感覚が無くなり、今は身体が震えている。

 思わずかき抱くように自分の体に両腕を回した。


 ──怖い…。


 ……怖いッ…


「…はっ、はっ、はっ」


 息を吸いながら肩で呼吸をする。

 何かとんでもない記憶をこじ開けられそうだった気がする。



 おや、と対して驚いた様子もない彼はそれこそカラカラと笑った。


 "私の七不思議を、正しくご存じなかったようなのでね"



「…君が1番厄介なんだぞ」

 アルバートさんがはぁ、とため息をつきながら背中を撫でてくれる。この人存外優しいところがある。

 恐る恐る顔を上げながらアルバートさんの言葉を反芻する。

「……や、っかい…?」


 凛とした声が聞こえてくる。

 ぎし、と音と共に声。


「………考えていることとは違うことを言葉にさせる、洗脳系の七不思議です」


 隣のベッドから眠花さんが静かに体を起こした。


「…全く、そうやって彼らを揶揄うのはやめなさいといつも言っているでしょう」


 オレンジの目が俺を見て、目を伏せられる。

 綺麗な人だ…と素直に思う。


「朝梨と桃梛は?」

「気を失ってるだけなんだぞ」


 ガイコツ先生を睨むように見るアルバートさんは大きくため息をついた。


「…全く、空間転移を急に仕掛けるのはやめてほしいね」


 "まあ暇だったからね"


「君ね、眠花の気持ちを考えなよ…」

「構いませんよ、アルバートさん」


 名前で呼び合うアルバートさんとの仲を見るに友好関係を築けている方なのだろうと察しがつく。


「お久しぶりです、神無さん」

「なんだい、君たち会ってるのかい?」

「ええ、まぁ最初の方に」


 眠花さんはそう言って目を伏せる。

 あの時はばたついていてちゃんと会話まではしていなかった。


「…どうして、ここに?」


「諸事情でここの七不思議にいる守護者や亡くなった方の回収に参りました」


 "もう居ないんだね"


「ええ」


 淡々とした表情で告げる彼女と同じく、ふーんと言わんばかりに言うアルバートさんに困惑してしまう。


 人の生死が関わっているのになんでこんなに平然としているんだ…。いや、彼女は葬儀屋だ。そう言った場面も何度も出くわしているのだろう。


「それでは私はこれで失礼します。回収を終えれてないので」


 ツンとした態度になんだか無性に悲しくなる。



 だって前はそんなこと………



 ……前?


 1人困惑している俺の隣のベッドから、眠花さんは降りて扉まで向かう。

 扉の横にいたアルバートさんをひと睨み。

そんな眠花さんに肩をすくめて、アルバートさんが見下ろす。



「君の求めるものがどこにいるのか知ってるのかい」

 

「ええ。()()が教えてくれるので」

「………ふん」


 眠花が肩に乗っている綿毛のようなものを触る。


「妖怪じゃないか…乙女といい、君といいどうしてそんなに好かれるんだろうね」

「さぁ、乙女ちゃんに関しては彼女の体質でしょうけど、私は何もしてませんよ」

「…君も体質なんだよねぇ」

「とにかく仕事ですのでこれにて失礼します。ガイコツ先生」


 くるりと振り向いた眠花は変わらない目で告げる。


「彼らをあまり揶揄わないであげて下さいね。それから」


 チラリと眠る朝梨と桃梛を見て心配そうな顔で言う。


「彼女たちが目を覚ましたら、水でも飲ませてあげてくださいね。まだ、子どもなんですから」



 するりと黒い空間を作り出した彼女はその中に入る。一瞬だけ、目が合った気がして胸がとくりと高鳴る。


 "おや、眠花嬢のお達しとあらば何もできないね"


 ふわりと消える眠花さんを見送ったアルバートさんはガイコツ先生を見る。


「眠花に対する君たちの忠誠心は一体なんなんだい…」


 "そりゃぁ、この七不思議の中に紛れる人間を毎回回収してるのは彼女だからさ"


「そうなんですか??」


 困ったような俺の声にガイコツ先生は笑う。

 コーヒーを一口飲みながら、ふぅ…と息を吐いた。

 一体どこに消えていったのだろう。そのコーヒーは…。


 なんて思いながら眺めているとガイコツ先生が座っている椅子をくるりと回す。





 "さて、私は比較的理性のあるタイプの怪異でね。私の核はここにあるんだ"


 大切そうな箱に入れられた核を取り出す。

白いキラキラとした宝石──マガツヒのカケラを、俺とアルバートさんに見せる。



 "これを壊せば私はここから消えるだろう"


 机の引き出しから徐に取り出した金槌で宝石を叩く。


 "私に聞きたいことはないかい?"


「じゃあ聞こうかな」


 アルバートさんが笑い、俺を見た。

 俺が質問していいのか…とりあえず、無難に…。


「七不思議は後何体いますか?」


 "二体"


「…ふーん?」

 ガイコツ先生の言葉に頷いたアルバートさんは左上を見ながら、考えことを口に出し始めた。


「…朝梨は妖精さんと出会ったと聞いた、俺と蓮は車椅子の少年、そしてガイコツ先生、番人、桃梛が、女子高生…」



「…」


 アルバートさんが顎に手を当て、何やら考える。

 ガイコツ先生はまたコーヒーを飲み、足を組む。


 "他には?"


アルバートさんがガイコツ先生を見た。


「確認だけど、核を潰して回ればここから出られるんだよね?」


 "そうさ、核と、七不思議を満足させればね"




 "満たされなければ結局核を背負って戻ってくる。そういう仕組みを鏡がしているんだ"


 ガイコツ先生は軽くコンコンと宝石を叩く。壊れる気配のないマガツヒはそれでも輝きは変わらない。


 "最後の質問を受け付けるよ"


「さっきのは確認だよ」


 ムッとした顔をするアルバートさんにガイコツ先生は困ったように笑う。


 "全く、そういうところが子どもっぽいんだよアルバート"



「うるさいな」


 やれやれと言いたげに足を組み直し、改めてこちらに向き直りながら、もう一度カケラを叩いた。



 "いいだろう、残り二つの質問を受け付けよう"







 "さぁ、何が聞きたい?"

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ