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守護の記録  作者: ツギハギ
西城学園七不思議編 後半
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第35神 七不思議6番目 『屋上にいる女子高生』─無くした記憶─

 ────黒髪の少女が玄関で校舎を見上げて立ち上がる。


 高校生たちの魂が群がっているのが見える。



『…ここはあまり長時間居ない方がいいですね』

「…うん、空間が捻じ曲がってきてる。異空間に巻き込まれちゃう」 


 強い風が吹く。ああ、いつもこの光景を下から見上げていた。


 そろそろ、決着をつけなければならない。

   今度こそ。

 私の守護神が私に言う。


『対処するなら早めに行うべきかと』

『どういたしますか?』

桃梛(ももな)


 黒く長い髪が月明かりに照らされてピンクに光る。


「────全ての元凶は鏡だけど、鏡もランダムに出てくるから、会える確率は少ない」


『音楽室の妖精さん3番と車椅子の少年5番の消失を確認しました』


(誰か私の他に守護者が…?)


「…なら先に厄介な方を浄化させにいこう」

『承知いたしました。移動しますか?』

「うん。美夜(みや)さん、屋上にお願い」


 屋上にふわりと降り立つ。

 屋上の扉から、向こう側に──女子高生の後ろ姿があった。

「…久しぶりです。6番目」

【アナ、ァなタ、ダァれ】

 ギギギと首が360に回る。


 美夜(みや)さん、と呼ばれた守護神の胸元から刀を取り出す。


「貴女を葬りにきたただの人間です」


 ズッ…と彼女の体が二つに割れ、桃梛を襲う。


 少女を見ないように目を瞑り、美夜に指示を仰ぐ。


 彼女を見ると発狂してしまうから。


 少女の姿は見えないが気配だけはなんとなくわかる。


時間内に七不思議を全部終わらせないと、また最初からになってしまう。

この子との戦いは今日で二十回目。


何度も何度も、最後には彼女に邪魔をされた。



────身体が、彼女と戦う時の感覚を覚えてる。



 二つに分かれた左右別の動きをして食べようとしてくる少女の攻撃を避けるように動く。



 彼女は私を──いや。


目があったもの、生きてるものを全て食べようとしてしまう。



 だから、見てはならないと、私はこの任務を何度も行ったからわかる。


「…美夜(みや)さん、私に力を貸して」

『任せて桃梛(ももな)


「我、桃梛(ももな)の名の下に告げる。



「愛には赦しを

   美には、終わらせる救いを──」


「貴方に心を届けましょう」


青く小さなネモフィラが足元に咲く。

食べようと口を開けてきた女子高生をネモフィラが弾いた。


【ァア、ちか、ヅケナイぁぃァア、】


ガンガンと揺さぶるようにぶつかる女子高生をそのままに刀をにぎる。


「唐草──瑠璃の救済」


 刀が熱を持つ方向に切った。

ぶわりと広がるネモフィラが女子高生に巻き付く。


【ァァァアッ!!!!】

【ワタ、ゎたシ】

 メェァァァア!!


 ぐんっ、と女子高生の方向が曲がる。


(右…いや、後ろだ)


 彼女の体に刀が刺さる。

そのまま上に向かって縦に切った。

切られた体からネモフィラが咲きほこる。


「鈴、貰うね」

「あと、貴女の中にあるマガツヒの核も」


 パキンッ……とガラスが割れる音共に花が散り、彼女が叫ぶ。



──お母さん、私ね!


──お母さん…ううんなんでもないよ。


──いやっ!返して!お母さんにもらった私のかんざし!


──…虐められたなんて、言えるわけない…。


──お母さん、なんで死んじゃったの…!!いやぁ!

──そうだ。  死のう。





【いたい…】



【いたいたいたいたいたいたいたいぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!】




【返してぇ!】


【返しテェ!】



【私のぉ、ワタシのぉおお!!!】



──お母さん…


【おか……ぁ……さ……ん】



 絶叫と共に消え去る彼女は何を思い出したのだろうか。

想いに馳せるのはやめて目を瞑ったまま息を吐く。




 無言で見つめるその目は終ぞ、桃梛(ももな)が見ることは叶わなかった。



「…ごめんね」


 謝罪の気持ちを胸に刀を鞘に仕舞う。

 静かになった屋上で、やっと呼吸が戻る。


 ……また、間に合わなかった。


『何度もこの子と戦うと疲れますねえ』

「…ふふ。うん。そうだね…」


 ここに長くいると、いつもこうだ。

 空間が歪んで、体の奥が重くなる。


「……急がないと」


 自分で身体の不調に気付きながらも、

 とにかく次の目的地──図書室まで向かうこととする。


 


 ────屋上を降り、廊下に出た瞬間。


 何かとぶつかる。





「おっと」

「きゃっ」


 アルバートはニッコリと笑う。

 目の前から来た存在に対して、表情を変えず、どこか疲れ切っている顔の桃梛(ももな)を見る。

 桃梛(ももな)はいると思っていなかった存在がいたことに驚きを隠せない。


「……アルバートさん…?!」

「やあ、桃梛(ももな)。君が西城の管掌をやってるんだねぇ」

「なんでここに…」


 蓮と朝梨(あさり)が担がれていることに気づく。


アルバートが悪魔だと知っている桃梛(ももな)はアルバートを睨んだ。


「蓮くんと朝梨(あさり)ちゃんを抱えてる理由もついでに教えてくれますよね?場合によっては…」

「すぐに抜刀するその癖、君の育て親にそっくりすぎないかい」

「…?育て親…?」

「…おっと、失言だったね。


 これの理由は彼らの服を見れば聞くまでもないんじゃないかい?」


 チラリと見た服が守護者の服であることに気づき、ため息をつく。


同業者────即ち、任務できている。




「後、そろそろ彼らを寝かしたいんだ。君と俺たちは目的が一緒のはず。ここで争っても無駄だって君も薄々気づいてるだろう?」

「…わかりました、ひとまずは鞘にしまっておきましょう」

「懸命な判断だ」



 上から下まで眺めたアルバートは小さく、ほぉと感嘆の声を上げる。



「そういや、女子高生にこれ渡してって言われたんだけど、その感じだと君…消したね?」

「…あの子は1番最初に攻略しないと、後に響くんです」

「へえ、そうだったんだ。じゃあコレもういらないね」


 車椅子の少年から預かった簪を持っている手で緩く振った。


「…!貴方が車椅子の七不思議を倒したんですか?」

「いいや、蓮だよ、倒したのはね。

朝梨(あさり)は音楽室の妖精を浄化させたらしいよ、たった今番人を俺が倒したんだ」

「…番人の攻略も難しいのに…」


 どうやって、と聞こうとした桃梛(ももな)だが何かに気づいたのか、視線が鋭くなる。


 ピリッとした空気が走る。

 何かがペタペタと歩く音。




「────なんて言ってる暇ないみたいだね…」




 黒い塊の女の子や男の子が歩いている。

歩くたびに、ガラスの擦れるような音がする。

アルバートはそれを横目に桃梛(ももな)に問う。


「"アレ"はなんだい?桃梛(ももな)

「アレはマガツヒが宿る鏡のカケラです」

「核たるものが歩いてるだなんて面白いね」

「ああいうのが今この学園を彷徨いてる時間なんです」



「……核は一つじゃないんだ、珍しいタイプだ」



 アルバートが下唇を舐める。


うーむ楽しいなぁと楽しんでいる表情を見て桃梛(ももな)は苦い顔をした。




(だから知られたくなかったのに…)




「一旦この情報を持ち帰るってのはどうだい?広大と幻治郎に話そうよ」

「……三人いれば、押し切れます」

「キミ幻治郎と広大に頼むの嫌いだよね」



 じとりと見れば、桃梛(ももな)の顔色が変わる。

パッとコチラを見て怒ったように声を荒げる。



「当たり前じゃないですか!私にとってあの二人はほんっっとうにかっこいい存在なんですよ!?頼るなんてできない!」

「わかった、わかったわかった…あいつらに信者が多い理由もわかったよ」



 やれやれとため息をつくアルバートに、桃梛(ももな)はムッとしながらこれ以上は無駄だと判断して黙る。


「…というか、大きな声を出したから、鏡がこっちに来てるんだぞ」

「チッ!」



 刀でカケラを切る。

アルバートは疲れている桃梛(ももな)を背中に背負う。


「ちょ、きゃっ…」

「疲れてるなら、捕まってなよ。あと蓮と朝梨(あさり)も抱き上げるからちょっとしっかり捕まっててね」


 アルバートに言われ大人しくなった桃梛(ももな)を横目に蓮と朝梨を脇にもち上げて走る。

朝梨(あさり)と蓮は相変わらず意識が戻る気配はない。


「あの鏡、七不思議だと夕方しか出てこないけど今いるってことは反転してるんだね」

「マガツヒそのものが性質の反転ですから…」


 走りながら適当な教室に入る。

蓮と朝梨(あさり)桃梛(ももな)をゆっくり下ろし、扉の小さな窓から外の様子を伺うアルバートに、桃梛(ももな)は警戒をまだ解けきれていない。


「キミも輪廻から戻ってきた口だろ?どこまで記憶を思い出してるんだい」

「……生まれや育ちまでは覚えてません。ただ、それを思い出すために私は守護者になった」

「守護者になれば、その記憶を辿ることができる、って誰かにでも言われた?」


「いいえ。直感です」


「…でもこれ、よく当たるんですよ」



 … 桃梛(ももな)は無くした記憶を思い出すために。

朝梨(あさり)は、夢で会った人と会うために、蓮は誰かを守るために。


各々が思惑を持って守護者になった。


「…面白いな君たちは本当に」


──だから守護者ってのは見てて飽きない。

ある鏡を眺めながら、自身の考えをアルバートは心のうちにとどめた。

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