第4神 守られていた
夢をみる。
曇天の空の下、乾いた雷と吹き続ける風が目の前を覆うように荒れる。
自分の周りに落ちる雷は、まるで守ってくれているようで、吹き続ける風は、慰めてくれるように服や髪の毛を揺らす。
「…最近見る夢だ」
ゆっくり、前に進むと風も雷も追従するように吹き飛んできた家屋を薙ぎ払う。
「うおっ!」
バクバクと鳴る心臓に、胸を押さえながらゆっくり息を吐き一歩、また進む。
「相変わらず雨は降ってないんだなぁ」
風と雷だけの空気が響く。
揺れる草木、山の奥の方に落ちる、白い閃光。
「あ、」
ドンッッ
音ともに自分の心臓を先ほどよりも強く、脳に響き、鼓膜を突き破るような音を鳴り響かせた雷にビリビリと感触が伝わる。
「本当に、俺を守ってくれてたのか」
片手を見て、自分の手を握る。
ふ、と顔を上げる。
目の前に平安時代のような服を着ている男が立っていた。
──たまに見る、夢の男だ。
その隣に、小さな明るい茶髪の女の子と小さな白い髪の男の子。
仲良く話している様子が見える。
「あの」
声をかけるために近づいたけど、男の身体を通り抜ける。
「…干渉できないのか、そうだよな夢だもんな」
諦めてため息をつき、着物を着た男が、こちらを振り向き、何かに驚く。
俺と目が合って気がするのに、合っていない。
焦ったように二人の子どもが手を伸ばした。
思わず、俺も手を伸ばす。
だって、あの光景は。
次に来るのは。
──命を刈り取られる時の、刀だ。
「待って…ッ!!」
「はぁっ!」
勢いに任せて手を伸ばして目が覚める。
見覚えのない天井に、明るいライト。質のいい布団。
自分の布団じゃないことに気づく。
「…ここどこだ」
驚く心臓を落ち着かせるように息を吐く。
「涙…」
流れてた後が乾いた感覚。
なんの夢を見たかまで、あまり覚えてない…。
ただ覚えてるのは、雷雨が激しい空間の中立ってたこと、それだけ。
「……あの雷、昨日見たやつに似てた」
「お、目が覚めたか」
「へ」
ワイシャツに、金髪の髪と緑の目を持った男の人がベッドサイドに近寄ってきた。
「あの、ここはどこであなたは誰なんですか?」
「まぁちょっと落ち着けって。ほら、タオル。顔でも拭いてろ。その間に説明してやるから」
真っ白なタオルを受け取る。
(あったかい…)
ほかほかと湯気を立てているタオルを顔に押し付ける。ほぅ、と自然と息が出た。
「ここは、神居政府の陰陽局だ」
「神居政府!?」
バッと顔を上げると男の人は頷く。
ベッドサイドの横にある椅子に座り改めて見てくる。
「うん。良かった声を上げる元気はあるんだな」
「神居政府って…」
前は診察室のようなところだったけど。
ふぅ、と息を吐きこちらを見てくる男の人に思わず背筋を伸ばす。
「なかなか肝がすわってるというか、なんというか…君がここにいる理由は君の神様たちが連れてきたんだ。あっ、ご家族の心配はしなくて大丈夫だからな」
「家族…?神様…?………
……
あっ…!!!!!」
そういえば俺は服を着替えようと校舎に向かった時にバケモノと出会して神様って名乗る子供たちに出くわしたんだった!
母さんたち置いて今の今まで寝てたってことか!?
「まずい、母さんに怒られる…!!」
「まあまあ、そこも踏まえて説明するから起き上がるな」
布団から出ようとするも、あっさりと男の人に布団に戻される。
「こうだーい!あの例の子は起きた?」
「蓮水、静かに入ってきてくれ頼むから」
「ごめんごめん、おっ、おはよう」
扉に入ってきた男に目を見開く。
だってこの男は、昨日居たやつだ。
「さっきぶりだね」
赤い髪に毛先がオレンジの、髪の長い男。
「…あんたたちは一体、なんなんだ…?」
俺が疑心を抱くのは当然の流れだった。
そんな俺の顔を見ても全く気にしていないのか、金髪の男と、赤髪の男はそれぞれ自己紹介をしてくれた。
「俺の名前は鷺沼広大。ここ、陰陽局に住んでる」
「で、こいつは蓮水近。俺と同い年だけど学校は違う」
「よろしく」
やけにあっさりとした答え合わせに、拍子抜けする。
「……よろしく、お願いします?」
言葉を返せば2人がいい笑顔でよろしく、と返される。
「でここにいる理由はお前の神様たちが連れてきた。
それから家族への連絡が必要ない理由は、今時が止まってるからだ」
「え、?」
時計があるのに針の音がしない、自分たちだけが体を動かしている音がする。
その不可思議な光景に恐怖を感じ、思わず布団の中で手を握る。
「……それで、時が止まってるって…」
「蓮水の能力だ。こいつは時を止めることができる」
「イェーイ」
鷺沼さんの後ろで愉快にピースを決める、蓮水さんの姿に肩の力が抜ける。
(怖い人たちじゃなさそうだけど…
あの規模の時を止めることができるなんて、人の仕業にしては…強すぎる。)
「じゃあ、なんの目的で時なんか止めてまで俺をここに?」
「言ったろ、お前の神様たちが連れてきたって」
鷺沼さんはそう言いながら扉の向こう側を見る。
同じようにして目線を向けた蓮水さんが、やれやれと言いたそうに呆れた笑顔で扉の向こう側に向かって声をかけた。
「こそこそしてないで2人ともきなよ〜」
『ぅ…ごめんね、蓮』
『情報量が多くて倒れたのは分かってたんだ』
『でも流石にお母様たちの前に連れてくのは難しくて…』
しょんぼりとした顔で入ってきた2人の子ども。
シンプルな淡い桃色の和服を着た火雷と、緑の和服を着た風伯がそこには居た。
「…いや、ごめん。俺もなんか情報が多くて、ちょっと混乱してるだけだから…」
「だろうな」
「君たちは、その、かみさま、?なの?」
『そうだ。ずっと蓮のそばに居たんだ』
『ずっと、ずーっとね』
火雷は微笑み、風伯はそっぽを向いて照れ隠しのようにそうやって言う。
「じゃあ、あの雷と風も?」
『………夢を見たの?』
「いつも、吹いてたんだ。風が。ずっと俺のそばで。雷も、ずっと鳴ってた』
『ふふ、守れてたならよかった』
火雷はそう言って手を握って、俺の目をじっと見る。
『貴方のことを大切に、守りたくて、私達はここにいるんだよ』
優しい笑顔を向ける火雷に、自然と肩の力が抜ける。安心しても、いい人だ。と。
そんな俺たちを見ていた鷺沼さんが少しの笑みを携えて、チラリと蓮水さんを見る。
「あの、2人が神様なのは分かったんですけど、神様って…さっきから言ってますけど、神無にも、神居にも、その居ませんよね。なんで当たり前みたいに言ってるのか気になって…」
「ああ、そっか!君は神無出身だもんねぇ、知らないよねえ」
「俺たちが当たり前になってて忘れてたな…いや、でも一旦帰ったほうがいいな」
「…そうだね。長居は良くない」
蓮水さんと鷺沼さんがそう言って目配せを送る。
俺は何の話かわからないので困惑していると、突然蓮水さんが顔の目の前に手を持ってきた。
「うわ、えっなになに何」
「ごめんねー、蓮。僕らとの話はまた今度だ、長時間止めると君に負荷がかかるから。次はちゃんとした形で会うと約束しよう」
「また何かあったらここに電話かけていいからな。メモはお前のスマホに挟んでる。鷺沼さんに。って言えば伝わる」
「ま、待って、待ってください!俺はまだ何も」
「それじゃあね、蓮。火雷と風伯も蓮をよろしく」
『当たり前だ』
『ありがとう、2人とも』
「バイバーイ」
「待て待て待て待て!待って!」
カッと光り、自分の体が浮く感覚を覚える。
思わず目を瞑り、開ければ車の中に居た。
「へ、」
「あ、にいちゃん起きた」
「疲れてたからって廊下で寝るのはやめた方がいいよ」
「先生に運ばれても起きないなんて珍しいねぇ、蓮」
走る車のエンジン音に、日常に戻ってきたことを悟る。
「うわ、膝の上に座るな」
「は?何言ってんのにいちゃん」
「えっ」
くすくすと笑う火雷はそのまま膝の上に座り、窓の外を見る。
「え!?」
思わず横を見ると堂々と真ん中に居座る風伯の姿を見ても全く驚いていない家族を見る。
──彼らは本当に見えない存在なのか…。




