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守護の記録  作者: ツギハギ
第一章 守護者編

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第3神 神様

 

 車の中でぐちぐちと言われる声を聞きながらびしょ濡れの上着を袋に入れる。


「こんなこともあろうかとビニール袋にきっちり詰めて私服を入れておいたから。テープでも止めて、二重に袋入れてある。濡れないようにしてあるからね。後ろにあるからそれでなんとか着替えなさい」


「ほら、にいちゃん傘あげる。これ私のお気に入りだから絶対持って帰ってきてね」

「はい」


「いつものことなんだから準備しておきなさいよねえ」

「うい」


 着替えを片手に校舎に戻るために、傘を受け取る。


可愛い花柄の傘は身長180もある男にはなかなかハードルが高い代物ぞ、りん…。


 校舎に向かっている途中、黒い影がよぎる。


そういやこの辺だったわ…さっき見たの。


(いや、気のせいだろ多分。そう気のせい!絶対にそう!!)


 言い聞かせて、でも怖いから目を強く瞑って進もうと足を踏み出した瞬間、誰かにぶつかった。


「え、あ、ごめんなさい!見てなくて!」


 パッと顔を上げると、顔のない頭部なのに、なぜか眼光の開いた目。

3メートルは裕に超えているであろう巨体。

裂けた口から腕が何本も這い出ている。


黒い影だと思っていたのはとんでもない化け物だった。


「うわぁああああ!!!」



 咄嗟に化け物に向かって超能力の水の矢が放たれるも、綺麗に弾かれる。


「無駄ってことね!!オッケー!クソ!!」


 後退り、逃げようと体が走る体制になる。

当然の如く化け物も走ってくる。


「足なかったじゃんさっき!!!!!」



 突然生えた足の存在のせいで追いかけられる羽目になる。

校舎に向かって服を持って走る。


ごめん、りん。お前の傘は犠牲になった。

後でたくさん怒られるから今だけは本気で捨てて走らせてほしい。

なんなら後で回収する!ぜったい!約束!

 脳内にいる妹に語りかけて勝手にオッケーをもらい、走る。


走っても、


走っても、


──校舎との距離が、縮まらない。




────おかしい。


 だんだんと息が切れてくる。

そんなにたくさん走ってるわけでもないのに、なぜか身体が少しずつ疲れてきた。


足がもつれて、とうとう倒れ込む。

足には自信があったのに…体力削られたら元も子もない。

黒い塊…という名の化け物がゆっくりと近づいてくる。


「なんなんだよ、今日は!さっきの男といい!こいつといい、俺がなにしたっていうんだ…!」


【青イ目ニ、青イ黒髪、】


「…は、?」


【神ノ名ガツク、男】


 ギョロリとした油の乗った目がこちらを見る。息が上がる、走ったから肺が痛い。


肩と身体全体で必死に息を整えながら、死ぬ覚悟をする。


 足も震えるし、冷や汗は止まんねえし、頭は働かないしで、もはやなにもできない。


視界が持ち上がる。


ゆっくりとそいつの手が俺の頭を鷲掴み、持ち上げられる。

首の骨が軋む音が耳に届く。


頭だけ持たれたら首がもげるって…やめてくれよ…。


「………ぃや、だ…しにたく、ない…」


いやだ、


いやだ。


涙が溢れる。


本当に俺がなにしたっていうんだ、水の超能力なんかなんの意味も持たない。



 一瞬、父の遺影を思い出す。


父は、家族を助けて死んだ。


俺たちを守って、俺にも、誰かを…守るものも見つけてないのに、こんなところで死ぬのか…!


いやだ、死にたくない。まだ俺は,俺は…!!


 風が大きく吹き、化け物の体勢が少し崩れる。


同時に雷鳴がゴロゴロと響き、自分たちの間を照らすように、落ちる。


 目を瞑りたくなるほどの眩い雷鳴は、俺の頭を掴んでいた腕諸共化け物を焼き払うように一閃、音ともに光が走る。


視界が、白に塗り潰された。


ドォォオン


 バチバチと余韻の雷が化け物の周囲を威嚇するように散る。


【ホ、シイ…カミナ、レン…ホシ、】


 化け物がこちらに手を伸ばす。


【ホシ…イ……】


雷に打たれた化け物の身体はどろりとした塊になっていた。

口から出ていた腕が溶けて、地面を濡らす。

濡らした先の地面からジュワッと音がする。


「地面溶けてる!ま、まてまてまて…うわぁ!?」


 化け物の手?が服にあたりズボンの裾に穴が空いた。


「新品なのに!!」と悲鳴をあげてしまうのは致し方ないと思う。


 降ってきた雷もわからないがなんとかこの場を逃げなければという生存本能から立ち上がり、後ずさる。


 それより早く化け物の手が足を掴んだ。

ジュワッと溶ける音ともに掴んだ先からじわじわと服が消えていく。


「いたっ、いたい、いたい!!」


 涙が溢れる。


痛みと消えそうな足に、その辺に落ちてるものを投げようとし、やがて肌に到達しそうになったところでもう一度、雷が化け物の真上に直接大きな光の塊となって、落ちた。


 周りが響き渡るような、心臓に響くような振動を感じながら、化け物の手から俺自身も落ちる。


「…うわ、うわうわうわ」


 ふわりとお尻を支えるように風が吹きゆっくりと降ろされる。


地面に降りてまず確認したのは自分の身体。


 びしょ濡れだった服はいつの間にか乾いていて、置いて行ったはずの傘とビニール袋に入った私服が二つ近くに置いてあった。


「へ、??なにこれ????」


 焦げてしまった地面とその煙から姿が見えてくる。


数メートル離れたところにまで吹き飛ばされた化け物の死骸の跡の近くに、小さな身体に、明るい茶髪の小さな女の子が、そこには立っていた。

 風が吹き、気づけば白髪の小さな男の子もその横にいた。

2人で何か話している。


『蓮も大きくなったから狙われるようになってきたね』

『昔より執着が酷くなってるな…』

『このままだとかなり危ないね』


 なにを話しているかはわからないけどとにかく今は小さな子供たちに助けてもらったのかな、ということだけだった。


「あの、ありがとう!君たち!」


 声を張り上げて感謝の言葉を伝えると、二人の子供は振り向いて大きな目をさらに大きくさせてこちらを見て大きな声を出す。


『まさか、見えてるのか!?』


 そうして顔を合わせて、困ったような、嬉しいような、でも、嬉しくないような、そんな複雑そうな顔でお互いに目を合わせあっている。


「み、みえてる?も何も…人間なんだし、そりゃそうでしょ…?あ、もしかしてごっこ遊びとか?」


 だとしたらなかなかハードな遊びだけど…。

 塵になった残骸の化け物を見る。


『あなた…このタイミングはあんまり良くないかもしれないんじゃない?』

『遅かれ早かれバレてただろ』


「あの、助けてくれたお礼に、名前を教えてほしいな家族の名前とかでもいいし」


 2人に近寄り、傘を手に取る。


…雨は変わらず降っているのに、今の俺の服は濡れてない。


風はいっそう吹いたままなのに、どこか優しい気がする。

 雷の音もまた、先ほどまでの厳つい音ではなく、なぜか、どこか包んでくれるような、音が聞こえてくる。

ふと、目の前の2人を見ていて頭が痛む。



 ……あれ、俺はこの音と風をどこかで聞いたことが、ある気がする。


どこだ、どこで俺はこれを知ったんだ?


だって、この音と風は…。

俺を守ってくれる、大切な────


『おい、警戒心がなさすぎるんじゃないのか』

「え!あ、ああ…いや、そんなことないでしょ」


 へらりと、安心させるように笑うとより一層眉間に皺がよった。

 そんな40代のおじさんが、子どものやることにキレてる時みたいな顔やめてくれ。

 どう見ても8歳程度の子どもなのにそんな顔が似合うんだ。


「子どもに警戒する方がおかしくない?助けてくれたし」


 伝えるも、ふん、と鼻であしらわれる。なんだこのガキ生意気すぎるだろ。


 女の子の方に目を向けると、花が咲くような可愛いらしい、ピンクの目を細めて微笑まれる。


雷雨が鳴り響き、轟かす。


カッと光る雷を背に雨に全く濡れていない少女は何かを見通すような目で笑った。


『私の名前は火雷(ほのいかづち)。───君を守る神様だよ』


「……えっ?」


……神様?どういうことだよ…


風が吹き荒れる。


「…わっ、ぷ…風強…」


 服が完全に乾いて、雨粒が全く落ちてこない空間なのに、恐怖どころか安心する。


その空気を背に少年がツンっとした態度でこちらを見る。


『俺は風伯(ふうはく)……風神だ。

言っとくが、これは別におままごとでもなければ、ファンタジーでも無いからな』


「は??、え、え、と、あーーー」


 ぐらりと目が回る。


色んな情報が脳に流れ込みすぎた。というか昨日今日で色々とありすぎたんだ。


視界が揺れて、音が遠のく。


──限界だった。


 脳みそがキャパオーバーを起こして、小さな神様たちの絶叫を前に俺はその場で気絶したのだった。



────気絶する寸前、昨日竜胆さんと話していた夢の話を思い出した。


"君は誰かに守られてるんだろうね"


…あの言葉はもしかしたらこの2人のことを指していたのかもしれないなと変に冷静になった考えは頭の片隅に追いやられたのだった。

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