第2神 知らない人
────夢をみる。
風が吹き、家屋が舞う。
雷が鳴り響き、俺を守るように周辺の家屋をはじけ飛ばした。
聞こえる雷の音や、触れる風に恐怖はなく、ただ安心を覚える。
俺の目には白く輝く閃光が、空から降ったのが見えた。
「れーん!朝よー!」
「おにいちゃーん?」
親と兄妹の声で目が覚める。
ぴぴぴっとアラームの音と、窓から差し込む朝の光が布団をさらす。
ぼんやりと、耳の奥に雷の余韻だけが残っていた。
まだ暖かい春の季節。
昨日の誤認逮捕された時に回された縄がまだ若干痛い。
そして今日はその入学式、なんだけど…。
「というか…起きれない…むり、ねむぃ」
扉が開く、バンッという強い音共に顔のそっくりな弟と妹が部屋に躊躇いもなく入ってきた。
「お兄ちゃん!いい加減起きないと私たちも間に合わない!」
「にいちゃん、まだ7時とか言ってらんないから、にいちゃんの不幸体質舐めたらダメだって!俺たちより、1番知ってるの自分じゃんか」
はよ起きろー!と布団を剥がされ、身体を2人に揺らされる。
「わかってる、わかってんだって、らん、りん、やめて揺らさないで」
「母さんが下でご飯作って待ってるよ」
「今日にいちゃんの好きな目玉焼きだって」
「潰れたらしいけどね」
知ってた、俺はいつまでも半熟を食べれたことはない。悲し過ぎる。いつか半熟の目玉焼き食べたい。
なんて心の中で呟きながらもそもそと起き上がり、2人に伝える。
「着替えてから行くから…」
意気揚々と布団から降りて満面の笑顔。昔を思い出すかわいさ…。
「「待ってるからね!」」
と去っていく。
2人で何かを言い合いながら下に降りていく階段から響く声がする。
「双子ってほんとに似るよなぁ」
笑顔も行動も言動も。
シャツを着て、青いネクタイを締める。
好きな色を選んでいいと言われて即決で青のネクタイを選んじゃったけど、なかなか似合うじゃん俺。
「ふふん」
鏡を見て、ちょっとポーズを取る。
高校生の制服ってなんでこんなに大人になった気持ちになるんだろう。ワクワクしてきた。
トレードマークの青の眼鏡をかける。
「…そういや、変な夢見たな…どんなだったかあんま覚えてないけど」
ただなんとなく、安心するなと思う夢だった気がする。
下に降りると潰れた目玉焼きと白いホカホカのご飯が湯気を立てて机の上にあった。
「お父さんに挨拶だけしてきなさいね」
「ほーい」
遺影の前に座り、手を合わせる。
この時だけ、いつも不思議な気持ちで手を合わせている。
心が凪いでいるような、なんだか、静かな気持ちになる。
「父さん、おはよう」
遺影に映る、白髪に青い目の父の姿に、自分の黒い髪を摘みながら密かに笑う。
うちの家族は全員髪色はお母さんに似た。
唯一、目だけ父と同じ、青の目。
これだけで、父と繋がっている証なんだと少し思う。
リビングに戻り、机の上にある目玉焼きを食べるために椅子に座る。
「いただきます」
「いただきまーす」
「そういや」
食べながららんが何かを思い出したように呟く。
「にいちゃんこの前、集合時間より早く出たのに交通事故にあったり、工事中だったりでギリギリになったらしいね」
「さすがだねぇ」
家族に言われたい放題だが本当にその通りなのでなにも言い返せない。
(なにも言わない方が下手に突かれんし、さっさと食べよう…。)
「さーてご馳走様ー!いってきまーす!」
玄関口に向かいながら新しい靴を履く。
後ろかららん、りん、母がやれやれと言いたそうな顔でついてきた。
玄関を開けて外に出れば眩しい太陽の光を目に浴びる。
楽しい1日が始まりそうだ。
と思いながら外を出たかった。
知ってるかみんな、俺の不幸体質はすごかったよ。
交通事故、工事現場だけじゃない。
突然の雨、母親の絶叫。
干した洗濯物が!!という日常的な叫び声を車の中で聞きながら、降ってきた鳥フンが窓に張り付き、雨で流れ落ち、発進すると全て赤信号。
「蓮乗せて運転したくない…」
「俺が意図して不幸を流してるわけじゃないんだよ…」
振り続ける雨の中、曇天の奥で一瞬、雷鳴が轟き、強い風が吹く。
着いたのはギリギリ。
周りからの視線を浴びながら入る教室ほど絶望的なものはなかった。知り合いしかいないけど。
「神無〜、お前の不幸体質は知ってるからはよ座れ」
「あざす!ひじり先生!」
「聖川な」
席についた俺を見て、改めてクラスを見返す教師、聖川はこほん、と一つ咳払いをする。
「えー、今日からこのクラスの担任になる、聖川誠司だ、よろしく頼む。
明日から早速授業なので荷物を忘れないように!自己紹介は以上、よろしくな」
一発目の自己紹介を終えて、さて帰るかい、と席を立つ、と同時に椅子のネジがどうやら緩んでいたようで、安定に椅子からずっこける。
「大丈夫?蓮くん」
やれやれというように手を差し出してきたのは、クラスのマドンナ、柊朝梨さんだ。中学からの同級生だった。
「あ、ありがとう…柊さん」
「ううん。ほんとにすごいね,その体質」
「あー…はは」
クラスのマドンナとこんなに会話をしているとは。前世かなんかで徳でも得たのか俺は。
本当に可愛いな。
曇天の空を窓越しに眺めながら、だからこそ、思う。何事もなければいいのに、と。
俺はいつまでも平和を願っているのに。
チカっと雷が光る。
風が強く吹いているのか、傘をさす人たちや超能力で凌ぐ人たちの中に、黒い影が一瞬見える。
「……なんだ?」
「どうしたの?」
「…いや、あの黒い影…」
「黒い影?」
柊さんの方を見てから窓を見ると先程までいたところにはなにもいなかった。
たくさんの生徒が傘をさす、その合間に傘もささずに堂々と立っていたあの影はなんだったんだ?
背筋がなぜかゾワゾワとする。
気持ち悪くなってきたし、早めに帰ろう。
鞄を手に取り、柊さんへの挨拶もそこそこに下駄箱まで階段を走る。
「はー、なんか怖いしはよ帰ろう」
バシャバシャと走りながら傘をさして家路に向かう。
ふ、と音が消えて、頬に当たっていた雨粒の感触が止まった。
「え」
雨の弾いていた音も、雨から香るあの匂いも、曇天の雲でさえ、固まっている。
時が止まったようにはためく形で人々の足が動いていない。
時を止める超能力者でもいたのか?でもなんで自分だけ?
しかもこんな空まで時間を止めれる広範囲の能力者はいないはず。
超能力各々許容範囲が異なるとはいえここまでの広範囲はないはずだ。
「なに、なんだよこれ…?なんでみんな止まってんだ!?」
声を出しても反響はするが、誰も反応がない。思わず近くにいる人の肩を掴む。
「なあ、おい!」
叩いてもなんの反応もしない。
目の前にいる人は瞬きひとつしない。
地面は雨が落ちている時の、波紋が広がっている。
「……怖いって、なにマジで」
────気配がした。
「やあ」
「は?」
振り向くとそこには赤い髪に毛先はオレンジの、男が1人。
和服なんだか、中華なんだかわからない服を着て半径1メートル以内にいた。
男の周りではささやかな風が吹いているのか、ゆらゆらと裾が揺れている。
「だ、誰ですか、あんた」
「…おや、君は…そうか」
ただ平坦な声で男は言葉にする。
男の顔は紙で隠されていて、表情はわからない。
「なに…」
俺の言葉を遮るように男は笑う。
「うーん、また来ようかな」
それじゃあ、またね。
一方的に男は告げたかと思えば霧に包まれる。
「うわ、っぷ…」
ドッと雨が降り身体に重みを感じる。
土砂降りの雨の中、傘を置いてここまできたから買ったばかりの新品の制服が1日にしてびしょ濡れになってしまった。
俺の姿に気づいた母さんの開口一番「あんたの不幸どうなってんのほんと!」だったのは本当に解せない、今回に関しては俺本当に悪くないってば。




