第34神 七不思議2番目 『図書室の番人』ー失われた真実ー
──考える力がだんだんとなくなる。
ぼたぼたと鼻血が落ちていく。
地面に赤い水溜りができているのを確認して、そりゃそうか…と納得した。
熱が出た時のような重たい頭痛がずっと続けば、身体が耐えられるわけがない。
番人が俺を見て、【キミ】と指を指す。
【キミの記憶は本当になかなか頑丈だ。】
頭が痛い、ガンガンする。
じんわりと視界が赤く染まる。
身体の自由が少しずつ効かない感覚。
【…んんー、破れてるし無理やりくっつけてる感じにも見える…しっかし開かないねぇ…まるでこの世界の核心に迫るような、頑なさ】
頭を抱えて膝をつく俺と朝梨を見たアルバートさんはゆっくり足を組み換えて番人を見る。
番人は楽しそうにペラペラとめくっていき、【整いました】と声を上げる。
俺と朝梨は息が切れ、視界がぼやける。
ばちゃん、と血溜まりに頭を伏せてしまった音がしたが体がもう言うことを聞かない。指先も痺れて、感覚もない。
『蓮!』
『朝梨!!』
玉さんと風伯たちの声が聞こえる。
神様に起こされるような気配を感じる。
血の鉄の匂いを感じながら、遠くから番人の声が聞こえてくる。
【それでは、第六問、君たちの因縁相手は────
神様たちが警戒する気配を感じるが、俺も…多分、朝梨も、警戒する力がない。
───────視界が黒くなる。
……ああ、無理だ。
もう、考えられない。
せめて──
もう少しだけ、時間があれば………。
………
…
「ここまでだね」
『…アルバート、遅すぎる』
『お前、もっと早くに動けただろうが』
怒りを露わにする風伯を、アルバートはただ眺める。
「…まあ、ここまでがこの子達の限界だろう?」
「この番人がどこまで試すのか見てみたかったのさ」
チッと風伯に舌打ちをされ玉には睨まれる。
やれやれと肩をすくめて、番人を見た。
アルバートは笑った。
「さあ、時間切れだ」
「ここからはもう彼らの記憶に干渉しないでくれないかい」
【なぜ、あなたも彼らに思い出して欲しいだろうに】
「これ以上の負荷をかけてまで思い出してほしくはないんだよ。
悪いけど、俺は面白いものは後に取っておきたいんだ」
バタンと倒れ込む朝梨と蓮。
それを横目に笑う。
「今度はこちらのターンだよ。好き勝手したんだ、反撃は無しに決まってるよね?」
【そりゃないぜ魔王様】
【その気絶した二人を置いt】
番人の言葉をアルバートは遮った。
「当然、キミのマガツヒを奪うんだよ」
【おいおい、crazyなのはあんたなんじゃないのか魔王様】
ずるりと番人の身体からカケラが出てくる。
【観客が"舞台"に立つのは反則だろ】
椅子に座ったままのアルバートは指一つ動かしていない。
ただじっと見ていただけだ。
…少し、カケラの抵抗を感じる。
空間そのものが拒絶しているような感覚。
指先が、わずかに鈍る。
アルバート自身の力もこの空間では上手くは使えないらしい。
それでも取り出したカケラに対して番人は興味がないようにため息をついた。
【あーあ、正直あんたは想定外の存在だったんだ。干渉だってするとは思わなかった】
ペラペラとページが捲られるだけ。
ただ全てのページは真っ黒で、アルバートの異質性が窺える。
加えて番人ではアルバートを再現することができないのか、反撃手段の人形すら生成できていない。
「悪いけど俺は守護者のように優しくないんだ。なんてたって、悪魔だからね」
アルバートはその視線を受け止めたままニヤッと笑った。
「俺はこの子達の物語をもう少し長く見たいんだ。
記憶を回収して新たな章をスタート…
なーんて面白くないね。
もーっと引き延ばしてもらわないと」
【物語は早く伏線を回収して行った方が面白いに決まってるだろ?あんたとは相入れないな】
「七不思議と相入れる悪魔がいたらとんでもないんだぞ」
【そりゃ……そうか………】
「代わりにこれを上げるよ、君にとって大切なもののはずだよ」
ぶんっと投げられた本を番人は咄嗟に手にする。
何を受け取ったのか理解した番人は、衝動的に本を開いた。
そして、1ページだけ覗いてしまう。
【──おい、】
【おいおいおいこれはダメだろ!ダメだよこれは…】
大切なものなんかじゃない、こんなものいらない!
取り乱したように首を振る番人をアルバートは眺める。
「おっと、大切なものじゃなくて毒だったか。毒消しの薬を持ってなかったのが仇になったね」
【おい、はぁあ…!やめろ、やめてくれ!】
今まで一度も手を離したことがなかった本をここにきて手放しながら番人は叫ぶ。
大きな本がズシン…と音を立てて地面に落ち、煙が舞う。
【ああ!記憶が戻る!いらない!いらないいらないいらない!】
【全部、知ってしまう!全部、読めてしまう!】
【終わりが見える、物語が終わる──それは嫌だ!】
【なんてものをくれたんだよ、悪魔ぁぁ!】
すぅう……と消える番人を見てカケラを握りつぶす。
「まぁ、俺は悪魔だからねえ」
パリンッと音がして砂のように砕け散った手の中を眺めて、神様たちをみる。
「概念の神ではないから勝てなかったねえ」
『…あれは、倒すことが目的の敵じゃないだろ』
「…おっと、気づいてたのかい?」
『──あれは、全ての問いに応えられたら満足するやつだ。そもそも相手が悪すぎた』
風伯の言葉にアルバートは笑う。
「2人は最初の時点で、間違えてたからねえ。
君らが答えればよかったんじゃないのかい?」
『…お前、わかって言ってるだろ。番人が指定した人間しか答えられない……そうだろ』
風伯の言葉に答えずに、神様たちから2人を受け取り、気絶してしまった蓮と朝梨を抱える。
「ほら、君たち早く元の位置に戻りなよ。ピアスと鈴の中にさ」
また舌打ちをした風伯と玉は、スゥッと戻る。
番人の膝の上にあったのであろう小さな本を手に取る。
「…それじゃあ、またね。えーと、図書館の番人さん、だっけ?」
はは、と笑う。
──現れた扉を潜り、廊下に出た。
「とりあえず、こういう時は保健室、だね」
廊下を歩きながら二人を抱えるアルバートは
「こういうのがゲームみたいで楽しいんだよねえー!」と笑った。
図書館の中には、まだまだ誰かの物語がある。
──開かれていないだけで、そこに“全部”あるのかもしれない。
……知ってしまえば、戻れないものも。
七不思議の断片が次のページから続きます。
いろんな角度から楽しめるかと思います!
ぜひお時間あるときに覗いてみてください。




