第33神 七不思議2番目 『図書室の番人』ー守護者の記憶─
────空中に浮いている番人は相変わらず笑っている声で楽しげに俺たちを見下ろしている。
守護者は、一度きりではない。
俺たちはじゃぁ……
「…俺は、俺だよな…?」
『…!蓮は蓮だよ!』
火雷が俺の横で心配そうに覗いてくる。
それでも、番人の問いは全て、YESで答えられるもの──つまり、答えがある前提のものだった。
と、いうことは…。
「…なぁ、風伯…俺たちは、何度も、守護者をやってるの…?」
風伯は、答えてくれなかった。
それは──答えであると同義と言えた。
深く目を瞑り、息を吐く。
番人を見上げて、答える。
「……答えは、俺たちは、何度も守護者をやってる…」
番人は楽しそうに、本当に楽しそうに笑う。
【──ふ、はは。
その通り。その通りだよ、守護者達
正解だ】
パラパラと紙が降ってくる。
嫌味なほどその光景は綺麗だった。
【君たちは何を守り、何を大切にし、どこから制度が始まったんだろうねえ。
──なぜだと思う?】
「……知らないよ」
朝梨が苦々しい顔で見る。
番人はそうやって声だけで笑う。
【…輪廻転生って言葉は、残酷だねえ】
【第四問】
ビクッと肩を思わず揺らす。
身構えると番人の後ろのページがまた動く。
【ハチス伝説は守護者と守護神の物語だと俺は肯定した。
それは君たちの記憶であるとも】
浮かび上がる挿絵に俺たちは小さな後退りを見せる。
【では】
【君たち守護者はなぜ巡り会うのか】
「…は、どういうことだ」
【そのままの意味さ。これには理由があるんだ】
巡り合ってる?どういうことだろう…。
「ヒントは?」
「…転生する時って結構理不尽なことが多いだろう?望まなくても、また同じ場所に立たされるところとか」
「はーーー!?わけわからん!求めてないのに同じところに立たされる!?アルバートさんの方がなぞなぞっぽいんだけど!」
「もうちょいわかりやすいヒントくださいよぉ〜…!」
俺と朝梨の言葉を聞きながらアルバートさんは悩む。
「ヒントを出す側も難しいんだよ」
「じゃあもうアルバートさんが答えてください!俺たちじゃわからなさすぎる!」
「残念、俺じゃ答えられないね」
「なんで!」
抗議をしようとした俺達に番人の声が響く。
そんなに時間は経っていなかったはずだった。
しかし無慈悲にも、番人は声だけで笑うように静かなこの空間で言う。
【時間切れだ】
「まっ」
俺の焦る声に番人からの制裁が降る。
ぐらっ、と頭が揺れる。何か強い振動と共に一瞬だけ見えた赤。
「こ、うぇ…れは…ぁ…ッ」
アルバートさんと番人が何かを会話している。
目の前が暗くなることで、視界の情報よりも聴覚の情報の方がよく聞き取れる。
「強い刺激を与えたのかい?危ないことするね」
【思い出さないとねえ】
ぐらりと揺れた頭を押さえる。
なんだ、なんだこの記憶は。
ザザッと砂嵐が舞う。
視界が揺れた。
音も色も遠のいて、頭の奥に別の景色が割り込んでくる。
頭の奥の方で話される見覚えがないはずなのに、見たことのある顔ぶれに脳が混乱する。
夢で、見た男だった。長い黒髪の青の眼を持つ男。色だけはわかるのに、顔だけがわからない、男。
刀を差して、風伯と火雷を庇って命が刈り取られそうになっていた、あの男。
"火雷、風伯"
"ああ、輪廻の輪に戻るんだな"
"まあな"
"俺たちは────が復活したら、転生するようにした"
"おまえ、それは…神がやることだぞ"
風伯の言葉に、男はカラカラと笑って言う。
"運命の女神が死んだタイミングを利用しただけにすぎねえよ"
──だから、書き換えられた。
──くらくらする頭のまま、番人に向かって言葉を紡いだ。
「輪廻に…、戻された守護者の魂は、前世で倒した何かが復活すると、転生するように、仕組みづけられてるから……」
「…これが、…ッ答えだ!!」
息を必死に吐きながら、なんとか立ち上がって俺は番人を睨みつける。
【だいせいかーい!
そう。君たちの魂は輪廻に戻される。必ずね】
「…なんだよ、それ
勝手に巻き込んで、勝手に戦わせて、勝手に生まれ変わらせるのかよ……」
俺が頭を片手で押さえていると隣にいた朝梨も苦々しい顔をしていた。
その辺に浮いている本がくるくると番人の周りを漂う。
番人の声は本を暴くのが本当に楽しいと言うように、本を捲った。
【巡り合う理由は“優しい”】
【だが、忘れる理由は“優しくない”】
【あるいは“残酷だ”】
【第五問】
番人は変わらない態度で本を捲っていく。
俺と朝梨はフラフラとした頭を押さえながら、打開策を考えるが、脳に酸素が回らず思考にもやがかかっていく。
【整いました】
【俺は君たちが巡り合う理由が前世の敵が復活するからだと肯定した】
【では、君たち守護者は何度も巡り合ってるのに何故忘れるのか】
「あー!くそ、まだ、頭が…アルさん、ヒント……っ」
「神じゃなくて、人側の問題ってくらいかなぁ」
「人側!?転生、したらなんかあるのか…!」
悔しがる俺の横で朝梨が呻きつつも呟く。
「…なにか、大切なことを思い出すためなのかな…」
…人間はたくさん覚え切ることは、できない…とか?人側の問題ならそれくらいしか浮かばない。
にっこりと笑った番人は、またしても頭に刺激をぶつけてくる。
「…っ、がぁ、ぐ、ぅぅ……ッ」
「…はぁ、いた、い…はぁ」
「本当に適当だな君」
【思い出してもらうことに価値があるからねえ】
ジジッと、また記憶を無理やり暴かれるような痛みが走る。
──先ほどの、男だ。
黒髪に青い目の、ポニーテールのように長い髪をくくっている男が、そこにはいた。
笑った男は腰に手を当てて、空を見上げた。
風伯と火雷の心配そうな視線をモノともせずに、宣言する。
"これは俺たち人間が、何度だって尻拭いをしなきゃいけない"
目の端に残る記憶の中の男は何かの木に向かって言う。
"この世界の理を曲げたのは他でもない俺たちの願いからだったからな!"
"守護者は死んだらその度に契約が解除できるように、極楽社のヴラド氏には伝えたから"
「…しゅ、ごしゃは輪廻の輪に……、戻される、度に契約が…解除される」
なぜなら。
"俺たちは人間だからなぁ"
──だから、忘れる。
記憶の中の男が冷静に呟いた。
「"膨大な記憶を抱えたままは無理"」
「……ってのが忘れる理由だ、」
──つまり、俺たちは
思い出せないんじゃない。
思い出せる量を超えてるだけだ。
…雨水での葬儀を思い出す。あの時、確かにこう言っていた。
"……これにより、守護の記録の契約を断ち切りとする"
死んだらその度に契約が解除される。
それは、あの言葉だったのだ。と嫌でもわかってしまった。
【うん、正解だ!!】
ふらつく頭に手をやりながら、俺は記憶を無理やり叩きつけられたからか、思い出したように苦々しい顔を見せる。
「………私たちはそれを前提として神と契約してる…嫌な思い出させ方」
【刺激的だろ?】
「全然!」
ふん、と怒ったように顔を背ける朝梨に、ああ、彼女も同じものを見せられたのか…。
それとも、思い出した、と言うのか。
【ただ】
番人が言葉を区切り、笑うような声を上げた。
【──それは“人間だから”じゃない】
【そう“されている”からだ】
そう、されている…?
忘れてるんじゃない。忘れるようにされている。
その事実だけが、妙にはっきりと胸に落ちた。
──気づいてしまった。
これは“仕組み”だ。
誰かが、俺たちをそうなるように作った。
……そうとしか、思えなかった。




