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守護の記録  作者: ツギハギ
西城学園七不思議編 前半
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第32神 七不思議2番目 『図書室の番人』ー禁断の記憶─

【初めまして、私は図書室の番人!キミ達が噂の来訪者だね】



 真っ黒な身体に、手首も足首もなく、継ぎ目を失った人型をした生き物が、たくさんの本が飛び交う図書室の中央に座って浮いていた。


「なんかもう噂になってんの?」


 バラバラとたくさんの本が浮かび上がり飛んでいる。一冊適当に手にとれば何やら長々しい文章が書かれていた。


「…うへ」


 文を読むのは嫌いではないが今はあまり見たくないものがチラリと見える。

「なるほど、人の人生が描かれているのか」


 冷静に分析するアルバートさんの言葉に朝梨が興味深そうに一冊の本の一部を読む。


「『朝、目が覚めると男は心臓が止まり体が冷たくなる。

 しかし不思議な力で死んだはずの心臓が動き出した』誰の話かわかんないけど凄いね」

「人の人生にしては物語みたいな話だな」




【そう、ここは人生の墓場!!!!!】


 突然の大きな声にびくりと肩を揺らす。

 何やら彼の琴線に響いたようでウキウキとした声を上げた。

 いや、目も顔もないけど。


【君たちの人生も、ミセテ貰おうか!!】


 バラバラバラバラ音を立てて自分たちの背後にあった本棚から三冊の本が浮かび上がる。



「…彼に見られると不都合があるなんてことなかったよね?」



 アルバートに問われて、朝梨が答える。


「というか謎々に答えないと人生が本にならないんじゃ…」

「もしかしてそれ嘘だったの?!」



【キミ】


 アルバートさんを指差した番人は


【キミの人生真っ黒だね。ページが黒いや】と話しだす。


「キミのような存在に見れるわけないんだぞ」



【残念、高位存在だったか】


 ならば、キミ。と俺を指差す。


 びくりと肩を震わせば


【…ああ、そうか。キミなんだね】


 何か納得したような呟き。


【キミ、一番大事な記憶がごっそり抜け落ちてるんだ】


【夢でも見ないかな?なんか不思議な夢…とかさ】


【──あれ、“夢”だと思ってる?】


「……え、」


 ──夢…。

 数日前に見ていた、あの青いマフラーの男や、刀で斬られそうになる、黒い髪に青い目の男を思い出す。


 あれは、夢じゃ…ないのか……?

 だとしたら、なんだって言うんだ。


【キミもだ】


 今度は朝梨を指差した番人は告げた。


「…何言ってるの、あれは夢だよ…」


 困惑した顔で答える朝梨に、番人は答えることなく、楽しそうな声で言葉を紡いだ。




【キミ達は忘れてるね。大事な大事な記憶を。】


「…なに」


【教えてあげてもいいけどそれは俺からは言えないな。ヒントくらいならあげよう】


 なんだこいつ意外と優しいな。と驚いているとこう言った。







【君たちが思い出すのはこの後すぐだ】



【整えました】



 番人の背後に大きな本が現れる。

 バラバラとページがめくる音がし、一つのページで固まる。





【君たちが忘れてしまった記憶には、神、守護神と呼ばれるものと関係している】


 固まっているページの上から人の形────人形のようなものが出てくる。俺と朝梨だ。




【ここからは丁寧に俺が教えてあげるよ、守護者たち】







【第一問 守護神はなぜ人と契約する?】


「は、はあ!!?謎謎じゃないじゃん!」



【早く答えろー】


 番人の言葉に俺と朝梨が驚いているとアルバートさんが何やら椅子に腰掛け始める。


「え、アルさん!?」

「残念だけど、俺はこの問題には不参加なんだぞ」

「な、なんで!」

「答えを知ってるからさ」

「…うぐ」



 さて、お手並み拝見と行こうかな。

 アルバートは本の番人と対峙する朝梨と蓮を、後ろから優雅に座って眺め始めたのだった。 








「アルさん、ヒント、ヒントくれ」


 高く飛んで空中に座る番人は顔がないのに何故かニヤニヤしている気がした。

 対面している俺たちの後ろで優雅に座るアルバートさんに声をかければやれやれと言う声を出される。


 やれやれじゃないんだけど!!?


「ヒントねぇ……守護神が生まれた理由くらいなら想像はできるだろ?」


「…根の国を守り、マガツヒの鎮静を図るため…?って俺は聞いたけど」


 朝梨を見ると、朝梨も「私も…」と小さく呟く。


「少し近いね」


 アルバートさんはふーむと顎に手を置き笑う。


「じゃあこの世界の神ってどんな存在?」

「えぇ!?神…神ぃ…??俺の知ってる神様みんな優しい…」

「どんな存在ってなにぃ…」


 うーんうーんと律儀に悩み出す俺たちにアルバートさんはやれやれとまた肩をすくめた。



(……わからない。考えてる時間が足りない!)


  「何でさらに問いを増やしてくるんですか!」

「ヒントだから仕方ないだろう」

「もっとわかりやすいヒントを…」









【はい、時間切れ】



 番人は笑う声を上げたあと、朝梨の人形の首を絞めた。


「は、ぁ、ぐぅ…ッ」


 朝梨が苦しみ出す。

 首元に手を持っていき、苦しそうにナニカに絞められる首から引き剥がそうと空をかく。


「朝梨!くそ!」


 こちらかは何かできないのかと周りを見渡す。


 しかし次の瞬間、番人が俺の人形の顔を掴んだことで、首がグキッと固まる。




 ──ああ、あの人形と『俺』も連動しているらしい。

 …逃げ場が、ない。



 べきんと音が鳴る。朝梨の足が折れた音。


「ぁぁあああっ!!!」

「あさ、ぐぅっ、しゃべれな…」


 身体が浮く朝梨に駆け寄ろうとするも、番人が俺の人形の口と身体をしっかりと掴むことで動けなくなる。


(足が一歩も動かない…!くそ!)



 声も出せないから息がしにくくて、2人して目の前がだんだんぼやけてくる。


「ぁ、、っ」


 朝梨の声が小さくか細くなっていく、顔が真っ白になっていく姿にゾッとした。

 このままだと朝梨が本当に死んでしまう。


 俺が、ここで答えないと…。



 今度もう一回一撃をくらったら、次は死だ…!


(守護神、契約……なんでだ……なんで人と……)


「…ぁ、なぜ、契約…」




 くそ、わかるか!!ぼけ…!無理だろ、こんなの…!知らないと答えられない質問すんな…!!





 そう思った直後────朝梨の後ろから玉さんが出てきて赤い鞘に入った刀を手にする。

 玉さんが番人に向かって刀で一閃。


真海流(しんかいりゅう)(ばつ)海溝(かいこう)


 大きな鯨が飲み込むように番人に口を開く。




【おいおい、こりゃぁ、また大きな生きもんを…】





勇魚(いさな)



 番人が真っ二つに切れる。朝梨の身体が落ちる。

 俺の体の自由もきき、朝梨に駆け寄る。


「げほっ、えほっ、げほ」

 喉の辺りを触りながら必死に息を吸う朝梨。


「ぅ、げほっ、朝梨!」


 朝梨に駆け寄り背中をさする。



 上の方から、ぐちゃりとつながる音。

 まさか…、と上を見上げれば玉さんに切られた、番人の体は糸を引いてつながっていく。


 切ったことに対する手応えがなかったのを察知していたのか玉さんは抜いた刀を鞘に収めず俺たちを守るように立っていた。



【いやー勘弁勘弁〜】


 ぐちゃぐちゃと音を立てて黒い塊は人の形に戻っている。


【俺だって別に殺したいわけじゃないんだよ君たちを。ただ思い出して欲しいだけなんだ】


【でも残念だ、知識も何にもないとはねえ】



 ゾッと背筋が凍る。震えは止まらないし、朝梨は足を折られたことで動けないのか震えて顔が青くなっている。

 当然のような顔をして浮かんでいる本の上に座る番人は楽しそうな声を上げた。






【次は守る者の話でもしようか。

 それでは、第二問】





 番人は、またペラペラとめくり、 【整いました】と表情のない真っ黒な丸なのに声だけはどこか愉悦に満ちていた。




【守護者を作ったのは?】




「…創設者とか知らねえよ…くそ!」


 朝梨は足を折られ、俺は顔を掴まれて、身体の疲弊が凄まじい。

 それでも、アルバートさんは動かない。


 ただこちらを見ているだけだ。

 まるで、まだ何かを待っているみたいに。


「ヒントは君たちがよく知る神居の童話だよ」


 やれやれとアルバートさんが伝える。

 座り込んだままの朝梨がピンッと来たように叫ぶ。


「ハチス伝説じゃない!!?」


 はぁ、はぁ、と青い顔をしながらも答えた朝梨にアルバートさんはただ一つヒュ〜っ、と口笛を吹く。正解の合図だ。



「え、ハチス伝説?」

「…そう、だってあれ…はぁ、」



「神様、と協力して悪い神様を倒す話だったはず…ッそこに出てくる、主人公────ハチスじゃ、ないかな…」


 息も絶え絶えの朝梨がなんとか答える。

 背中をさすりながら、俺は初めて聞いた童話の名前にびっくりする。



「…俺それ知らんかも」

「なんで…っ、蓮くんは、色んなものに疎いのぉ…!」


 痛む足をさすりながら、朝梨が嘆く声を上げる。


「ご、ごめんなさい」


 朝梨の横で鞘を構えていた玉さんが何かを判断して朝梨の前から後ろに下がりながら呟く。


『朝梨、あいつは概念やき、うちじゃ切ることができん』


「とは、言っても…私もこの足じゃ…」



 玉さんが朝梨の後ろに戻るように下がる。

 朝梨もまた、苦しそうに呻きながら番人を睨んだ。



【ピンポンピンポンだいせいかーい!】



 パラパラと紙が降ってくる。

 痛みを与えられなかった事実にホッとする。

朝梨の顔を見れば、朝梨も脂汗をかきつつもホッとしていた。


 本を捲る音、真っ黒だと言っていたその本を捲りながら番人は頷く。


【それでは第三問】



【──君たちは記憶が抜けている。

 そこには守護神とハチスが関係している話をしたね】


火雷が俺の後ろから飛び出す。

番人に向かって手をかざした火雷が焦ったように雷を飛ばした。



『…やめてっ、言わないで…!』


 バチンッ


 火雷の雷が番人に当たるが、もちろん概念である番人には効かない。

 俺は、火雷が焦った理由がわからず、混乱したまま見上げる。

 番人は雷が煙を上げて当たったにも関わらず、相変わらず笑っている。



【整いました】


 一枚のページが立つ。ピンッと立ったページを眺めた番人は笑う。


  嫌な、予感がする…。



 何故かはわからない。



 でも、これは聞いちゃいけないやつだと、

 俺の中の────俺じゃない誰かが、そう言った気がした。





【では、本当に守護者は一度きりの存在か?】





「──は?」




 なにを、言ってるんだこいつは。

 俺たちは自分で選んで、守護者になったんだ。


 

 一度きりも何も、俺たちは…。


 ……ふと、何かに気づく。


 忘れてる記憶。守護神との関係。守護神が生まれた理由。

 ────守護者を作った創設者、ハチス。



「…え、待てよ」


 聞きたくない、知りたくない。わかりたくない。


 脳みそが警笛を鳴らすようにガンガンと痛む。


「────俺たちの記憶にハチスが関係してるってどういうことだ」



 俺は番人を見上げ、何が何だかわからなくなっている。


 顔の黒い、表情の見えないはずの番人は、確かに笑った。

 アルバートさんもまた静かに目を伏せる。




「俺達と、それが関係してるって、なんでだ」



 忘れてる記憶と、創設者、守護神が生まれた理由がなぜ関係するのか、




「……一度きりじゃない…、ってことは」


 ──もし、それが本当なら。


 俺たちは、自分が誰なのかすら知らないまま戦っていることになる。


「……じゃあ、俺達は…誰なんだよ」




 それは、──触れてはいけないものに、触れた気がした

 そんな感覚だった。

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