第27神 そして──七不思議の中へ
この学園にも七不思議がある。
『1番目が保健室のガイコツ先生』
『2番目が図書室の番人』
『3番目が音楽室の妖精さん』
『4番目がどんな願い事も叶えてくれる鳥居』
『5番目が車椅子に乗る少年』
『6番目が屋上にいる女子高生』
『7番目が16時になると吸い込まれる、北校舎にある大きな鏡』
大きな鏡の前に立つ。
「……やけに、音がしないなぁ」
「北校舎だからかなぁ…」
廊下の奥が、妙に遠く感じる。
鏡の前だけ、空気が重い気がした。
朝梨と共に鏡を見上げて、腕時計を確認する。
時刻は15:50分
夕方の日差しが入ってくる時間帯に、北校舎の廊下で立っていた。
「最近生徒が行方不明になってるのは知ってたけど…」
「朝梨もこの七不思議知ってたんだな」
ふと、昨日のRIRINを思い出す
『今回の任務は──七不思議討伐。鏡の中に行方不明の生徒がたくさんいる』
『俺たち守護課に依頼が来た、他の課によると、七不思議それぞれが“マガツヒに侵食された状態”可能性が高いとのことだ』
『そこで、お前たち2人には中の七不思議の調査、および核を壊して封印をお願いしたい』
『核?』
朝梨の疑問に鷺沼さんが返す。
『マガツヒのことだよ』
『…先に言っておくが、おそらく中にいる人間はもう助からない』
『戻ってきても遺体だ。今回の任務は救出じゃないんだ』
『”物語を正す”ための討伐任務だ』
『…それでも、行くんですか?』
『当たり前だ。歪んだまま放置する方が被害が広がるからな』
鷺沼さんからの任務依頼は、雨水市での災害救助とは違う、すでに助からない人の確認と七不思議の調査…あとはマガツヒの破壊…か。
ふと横にいる朝梨を見ると苦笑いを浮かべられる。
「まあ、結構噂になってたからねぇ…蓮くんは知らなかった?」
「七不思議のことは全く知らんかった」
「噂に無頓着すぎるね…」
「それるんにも言われたわ…」
…ところで、アルバート先輩がなんでいるの…?
ヒソ、と朝梨が顔を近づけてくることにドキッとしつつアルバートさんの方をチラリと見る。
無言で窓に寄りかかり、空を眺める外国人の姿は正直、絵になる。としかいえないくらい美しいものだった。
「…俺が夜学校に向かってたら偶然出会った、というか…」
「蓮くん、アルバート先輩と知り合いなの?!」
「…うん、まぁ」
「良いなぁ…!」
きらきらした目で朝梨が俺を見る。
そんなふうにみられることなんて数少ないので少し有頂点な気分になるが、すぐさまこれはアルバート先輩のおかげだと思い出して気持ちが冷めていく。
窓際に座るアルバートを見る。
──夜こっそりと抜け出している時に背後から声をかけられた。
『こんな夜中にお出かけかい?』
振り向くと、電柱に背中を預けてこちらを見るアルバートさんがいた。
『俺も連れてってよ』
どこから嗅ぎつけたのかわからないが、わざわざやってきたということは何か理由があってきたのだと思う。少し体がどんよりとする。
拒否しても風伯と火雷が良いよってOK出したし。
その2人に言われたら俺は勝てない…。
「えーと、体育館のやつが、振り向いたらダメなんだよな」
「そう!ガイコツ先生は質問を三つしていい」
「で、番人は答えないといけなくて、妖精さんは弾けないとダメで、女子高生は目を合わせたらダメ…」
「あー、えと。鳥居と鏡は……」
「君たち、こんなにのんびりしてていいのかい?」
サラリと揺れる金色の髪が月に当たってキラキラと輝く。
「のんびりしてたらダメなんですけど、七不思議っていうほどこの鏡なんの変哲もないんですよ」
びっくりしたような顔でアルバートが俺を見る。
朝梨もまたキョトンとした顔でアルバートさんを見上げるものだから、アルバートさんはさらに驚くように言った。
「…君たちにはコレがなんの変哲もないモノに視えてるのかい?」
「え?」
「俺にはコレ、何かに取り憑かれてるんじゃないかってくらい邪悪なものにみえるんだぞ」
「……でも、何もないように見えるしな」
少しだけ、躊躇う。
コントロールしてる霊力で霊視をしても、何も視えない。
けれど──
ポン、と俺が鏡を触る。
『まあ任務だから俺は手を出さないぞ』
「あ。待って蓮くん確か鏡って…!」
「え、なになんで風伯急に喋り出したの??え、朝梨?顔青いよ」
──その瞬間。
何かが、指先に“絡みついた”。
ずるり、触れたはずの鏡の感触が消えた。
代わりに、ぬるりとした“何か”が指に絡みつく。
まるで壁がない水のような感覚が手を伝う。
ぐらりと体が傾き、大量の黒い手が伸びてくる。
「……は?」
引こうとした瞬間、
中から、掴まれた。
「うわぁ!!?なにこれ!?」
むぎゅむぎゅと身体に巻き付く黒い手は引き剥がそうと思ってもなかなか引き剥がせない。
「うぐぅ!風伯!」
『今からそこに入って任務やるんだろ?なら連れてってもらった方がいいんじゃないか?』
「なんでお前いつもそんな効率的なことしか考えてないのぉおおおおぉぉぉ………ぉ…」
トプンと音を立ててあっさりと鏡に吸い込まれる蓮。
そんな蓮と同時に朝梨にも、黒い手が伸びてぐるぐると巻きつかれていく。
「わぁあぁあ!!?アルバートさぁん!!助けてぇ!」
相方である先に吸い込まれてしまった蓮にも助けを求められないので目の前にいるアルバートに助けを求めるように手を伸ばそうと力をだすが、アルバートはズボンのポケットに手を入れたまま笑う。
「俺に助けを求めるのはやめた方がいいんだぞ朝梨」
──なんで私の名前を…。
思考が回るよりも早く、自分の体に巻き付かれていく腕に対して恐怖を抱く。
「きゃぁあ…!…むぐっ!?」
鏡に吸い込まれる朝梨をアルバートは最後まで眺めた。
「…やれやれ、君たちは厄介なものにばかり愛されるところは変わらないんだね」
それにしても、この鏡面白いな。
鏡の前に立ち見上げる。
『噂』の力はここまで及ぼすのか。
神と悪魔同様に根も葉もない噂が広がって生まれたものの集合体ってところか…。
最近の事件は十中八九ここだろう。と当たりをつける。
トンと鏡を触る。なんの反応もしない。
「…おや」
コンコンと軽く叩くが先ほどのように柔らかいものになる気配を感じない。
「……俺を入れる気はないってことか」
はは、と笑う。
その笑みは月を背にし、悪魔のように目を細める。
「残念だけど、あの二人は俺の獲物なんだ。
この俺に喧嘩を売る気がないなら大人しく入れてくれ。」
「入れるだけで良い」
「できるよね」
する、と鏡に足が入る。
「聞き分けがいい子は大好きなんだぞ」
────鏡に今度こそ吸い込まれていった。
廊下には人の気配が無くなり、月だけがその光景を見ていた。




