第26神 七不思議の始まり
────放課後、るんと宝、俺の三人はのんびりと、のほほんと会話をしていた。
「最近西城学園ではいろんな事件が起こるね」
「人の死がかかってるから怖いよなぁ」
するとるんが何かを思い出したようにそういえば、と言葉を溢す。
「イネさん、最近願いを叶えてくれないらしいよ」
「いねさん?」
「蓮は反対の玄関から入るから知らないのか。正面玄関にある狐の像がイネさんだ」
神無にもそんな非科学的な存在がいたのか。と驚く俺をよそにるんが笑う。
「この学園の七不思議の一つだよ」
「七不思議なんてあったの!?」
「…まあお前が生き生きし始めたの最近だもんな」
「何もかも興味ありませんって顔してたもんね」
「う、うぅうるさいなぁ」
宝とるんが嬉しそうな顔で笑う。
「本当にいろんなことに無頓着だもんなぁ」
「無関心無頓着だったのに、最近は楽しそうだよな」
「そ、そうかな??」
「暇だからって川沿いをぼーっと散歩するのが趣味って言うのはだいぶだと思うよ」
「世の中の散歩するのが趣味な人に謝ってもらえる!?俺だけじゃないから絶対!」
というかそんな顔してたかな俺…。
…あれ、でも確かに…いっつも何考えて生きてたんだっけ。
「?蓮?」
宝が不思議そうな顔でこちらを見てくる。
…ふと、今朝のことを思い出して少し苦い顔をしてしまった。
緩く首を振る。
「……んや、なんでもない」
────今朝の話だ。
「れーん、朝よー学校はー?」
「うんー…いくー」
のそのそと起きて、支度をする。
着替えて下に降りれば父親に一つ挨拶だけして、リビングに戻る。
じと…とした目で弟に見られた。
「…にいちゃん、最近どこ行ってるの」
「えっ、なんで??」
「散歩の頻度高くない?」
「え、あー…友達の家だよ」
「明日も?」
「そう!」
ふーん、となぜか鋭い視線になる弟に、なんだ…なんでこんな目を俺は今向けられてるんだ…?
「先に行くね俺」
「あ、らん!私も行くね、ご馳走様お母さん!」
らんとりんがバタバタと学校に向かった。なんだなんだ…?
疑問を抱きつつも食事に手をかけた。
お母さんがコーヒーを飲みながら、テレビを見る。
「…らんは心配なのよ、蓮が前より散歩が多くなったから」
「えー、ただの散歩なのに?」
「そのただの散歩が、私たちからしたら一大事なのよ。本当に分かってないんだからこの子は」
そんなこと、別にないのになぁ…。
一口、お米を入れる。
「昔は素直だったのにねぇ」
「今も素直でしょ」
「まあねぇ…でもそれは最近かも」
「えー?そうかな」
「そうよ、小さい頃はすっごい素直で無邪気だったのに、小学生に上がってから…」
小学生…の頃の記憶は、あまり無いなぁ。
「ああ、でもそうねえ…」
ポツリとお母さんが呟いた。
「お父さんが亡くなってから、かなぁ」
…あ、そうだ。
そうだった。
俺は…誰かを巻き込みたくなくて、人と関わらない選択をとったんだった…。
「あの頃くらいから、あんた静かになっちゃったねえ」
寂しそうに、呟く母の声に、人知れず胸が痛む。
「…うん」
お父さんが死んだ時、俺のせいだ。って思ったんだ…。
(……また、誰かを)
──違うのに。
「…蓮、れーん」
「…なあに?」
「静かになってもいいの。あんたが生きてくれてればお母さんはそれでいいから、ね」
「変な方向に悩みすぎるのはあんたの悪い癖よ」
口に出してたわけじゃないのに、お母さんに言われる。
「…俺、周りを巻き込むんじゃないか…って」
「良いじゃん、巻き込んじゃいな」
「…でも、それで父さんみたいに死んだら…」
「大丈夫だよ、大丈夫」
「…根拠は?」
「無いよ、お母さんの勘」
「当てになんないじゃん」
「まっ!失礼な!」
──思考が飛びそうになったが、宝がすぐに戻してくれた。
「で、イネさんが?」
「……そうそう、そのイネさんってなに?」
「『どんな願い事も叶えてくれる鳥居』っていうやつ」
「…どんな、願い事も…」
「大きすぎるものは叶えてくれないけどね」
「それなりに縁はつなげてくれるけど、そこからはお前次第なって感じだよな」
「最近…何かを代償にしないと叶えてくれないらしい」
「…代償ってことは願いと同じ価値のあるものとか?」
「そう、願いを叶えるのに難易度上がったって嘆いてる奴いた」
「…あとさ、…また西城学園の生徒が行方不明になってる事件があるよね」
"──昨晩未明赤烏市の山奥にて遺骨が発見されました。警察は先月、西城学園の生徒が行方不明となった事件と関連性があるのではないかと調査を行なっております"
(ああ、この前の…)
「おかげで西城学園の警備ガチガチだもんな」
「…それと関係あるって考えてるの?宝」
「ないとは言い切れないじゃん。代償に人を差し出す奴だっているかもだろ」
「その発想はだいぶサイコパスだよ」
宝とるんが少し顔を顰めて話しているのを聞きながら頷く。
「…確かに、あながち間違いじゃねぇかも」
──気持ちを切り替えるようにポケットが震える。
……ああ、これは。
見なくても、わかる。
それでも、震える手でスマホを見る。
RIRINに書かれた文字。
『七不思議討伐を依頼したい──』
霊力のコントロールも前よりできるようになった。
……覚悟だって決めた。
俺は、少なくとも誰かを守るという、意思は変わってない。
……あの、小さな日常を。壊すかもしれないって、思ったあの時のことを…
「蓮、どした?」
…この目の前の、幸せを、守るために守護者になったんだ。
「なんでもないよ」
宝に笑いかける。
静かに深呼吸をして、スマホを握りしめたのだった。




