【短編】No.3 まなちゃんの記録
──これは、あの災害で失われたものの記録。
今日は私の誕生日!お父さん早く帰ってこないかなぁ…!
「今日まなちゃんの誕生日だよね?おめでとう!」
友達に祝われる。えへへ、そうなんだよねえ〜。
「今日ねお父さんがケーキ買ってきてくれるんだぁ」
「いいなー、優しいお父さんだよねえ」
「でしょ、大好きなの」
私の誕生日にお父さんが死んだ。
なんで。
…なんで…
次の日、雨がいつもより優しかった。
大人の人はみんなおかしいって言ってて、それは私もわかった。
ねえ、お父さん、やだよ、やだ、ねえすい様、なんで。
なんでこんな!
雨が海になる。
溺れる。泳ぎはお父さんに教えてもらったのに、水の中はこんなに綺麗なのに!
生きたい!
生きたい!
生きたいの!
私、お父さんの分まで!
生きていたい!
お父さんと同じ服を着た人に助けてもらって、胸がとっても苦しくて、苦しくて、私はきっとこの後に死んじゃうのかもと思った。
何度もゲホゲホしたのに、なかなか胸のモヤモヤが取れなくて、また水に巻き込まれた。
……お父さん、あのね。
私、
お父さんの分まで頑張って、生きようと思ってたんだ。
『来るのが早いぞ、愛奈』
お父さんが泣いてる。すい様もいた。
「お父さん!すい様!どこ行ってたの?…お父さん、なんで泣いてるの?」
「愛奈ぁ、もっと…」
『良い、3人でお散歩しようか。そうだなぁ、奥方にあげる土産話を向こうで一緒に作ろう』
よくわかんないけど、お父さんとすい様がいるなら大丈夫!
「うん!」
──二つの黒い額に入った写真に向かって手を合わせる。
「…もう、先に行くなんて、ひどい人たち」
お線香の香りがした。
誰もいないはずの部屋で、雨の音だけがしていた。




