【短編】No.1 夢渡神社で蝶々と話した記録
夢渡神社は、産夢から転生するときにやってくる蝶々が集まる。
"どうも、夢渡の正統継承者さん"
蝶々が羽ばたいて肩に乗ってきた。急に話しかけてくるなんてよくあることだ。
触ると聞こえるとはいえ、急に来られるとびっくりするからやめてほしい。
神秘的な関係に見えるかもしれないけど虫嫌いの人間だったら発狂してるんだろうなぁと本日肩に乗る蝶々を見る。
「どうも。どうしたんだ」
"俺は人間から神秘に生まれ変わりたいんだよ"
へぇ。色んな人がいるなぁ…。
"…置いてきた人がいてな…"
ああ、そうか。神秘と過ごす人生の中で神秘と恋に落ちる人もいる。神秘よりも長生きできないから…。
"だが輪廻はそう簡単にはいけないだろう?何度だって生まれ変わらなきゃいけない。何度も初めましてをする…悲しくなるぜ"
だから神秘になりたいんだと呟く蝶々は悲壮感を漂わせていた。
布団から起きて、畳む。蝶々はその間もずっと肩から離れず話しかけてきた。
"初めましてをしている自覚もないんだ"
守護者は、転生してから何かのきっかけで前世の記憶を思い出す。しかし、普通の人たちはそうではない。
きっかけもない、前世の記憶なんてリセットされ魂だけが継続する。
守護者が特別だということを改めて実感する。
"──それでも、俺は人に生まれ変わるんだろうなぁ"
願いとは、簡単に叶えられないからこそ、願いなんだと思う。
何を言ってるんだろうな…俺は。
蝶々に話しかける。
「神秘に生まれ変わりたいんじゃないの?」
"無理だろう、そういう輪廻のシステムだと何度もの転生でわかってるよ"
「…そうなんだ」
"ああ。それでも、俺はあの人を何度も好きになるし、あの人も俺を何度も見つけてくれるんだ"
"運命ってのは聞こえがいいよなぁ"
蝶々はそう言って、"話を聞いてくれてありがとう"と飛び立つ。
赤色の蝶々を見送り、畳んだ布団を襖に入れてから、廊下に出る。
産夢に見立てた木に集まる蝶々達は待機所らしくたくさん集まっている。どれもこれも、死んだ魂だというのにそこだけ切り取れば神秘的な世界だ。
愛していた人を忘れた。顔は覚えてないけど、何故か好きだと感じている女の子がいた。
告白したことなんて一度もない、その感情だけを覚えている。
「…もしも俺が守護者じゃなかったら、この感情も無かったことになるのかな」
それは、少しだけ良いなぁと思ってしまった。
「珊瑚〜、ご飯だよ〜」
「はぁい」
母に呼ばれる。産夢の木に見立てた木から視線を逸らして居間に向かう。
大切な人のことを忘れて何度も初めましてをすることが悪いことなのかはわからない。
けれど、今こうして守護者としてこの忘れてしまった記憶と覚えている感情が無くなるのは寂しいなとも思う。
「母さんは、守護者として生まれ変わったとき、嫌だなって思わなかったの?」
「え?どうしたの急に〜」
「なんとなく」
父は今日も弓道教室で先生をしに仕事に行っている。母と俺だけの空間で母が笑う。
「全く、っていうと嘘になっちゃうんだけどねぇ〜」
伸びのある穏やかな声を聞きながらお皿やお箸の準備をする。
母はお米をついで笑う。
「また珊瑚を産めて良かったなぁとは思ってるかな」
「守護者になって嫌じゃないか聞いたのになんか違う答え返ってきた…」
「お母さんの中ではつながってたんだけど…」
「どこが…?」
「この中津海夢の魂として……守護者として生まれ変わったから、あなたをもう一回産めたんだよ」
母はそう言って俺を見て微笑んだ。ご飯を置いて座る。
連続性のある魂だから、前世を覚えているからこそ。
「また珊瑚を抱くことができたの」
「お母さんはどうしたって、産後よりも先に死んじゃうけど、もう一度この手で貴方を抱きしめることができたって、覚えてられるのは守護者だからできることだと私は思うんだよねえ」
俺の頭を幸せそうな顔して笑いながら撫でる。
……記憶にはついてくるものがある。
撫で終えてから、離れていく手を目で追ってしまう。
それなら、俺もあなたともう一度会えて嬉しかったという感情が確かにあったよ。
──とは、恥ずかしくて言えなかったので頷くに留める。
「そっか」
「そうだよ」
蝶々達が忘れるのとは違って、俺たち守護者は何度だって思い出して何度だって出会う。
それが悪いこととは思わないけど、優しい話ではないと思っていた。
でも。
みくまりのように、思い出せずに苦しむことになるのは嫌かもなぁと思うなどしながら手を合わせる。
「「いただきます」」
こうして一緒に同じ机で食べれるのも、守護者という連続した魂だからこそなのかもしれない。




