第160神 守護神という存在
「で、これが守護神は特にダメな理由は一つ」
人差し指を立てた珊瑚さんは祠の前で呟く。
「──人と契約してるからだよ」
「…?人と契約することが神隠ししてはいけない理由になるんですか…?」
「なる。何故なら、守護神は、人を“守るために繋ぐ存在”だからだよ。あいつは隠したんだ。一番やっちゃいけないことだろ」
苦々しく呟き、嫌そうに顔を顰めた珊瑚さんに恐る恐る聞く。
「…誰を隠したんですか…?」
「──その時契約していた守護者、俺の母さん」
「夢さん!?契約!?うん?!!え、でも今契約してるのって珊瑚さんですよね?どういうことです?」
「俺が正統継承者ね。……守護者と守護神みたいに契約はできるんだ。本当の守護神でなくてもね」
「守護者制度が破綻しませんか?!」
「…これは、シオンがこの中津海を守ってきた、中津海の守護神であるからできる。母さんはその時、中津海の長女なのに守護神がいなかったんだよ…」
…そういえば、琥珀さんがこの前、話してくれたな、と思い出す。
夢さんと幻治郎さんに神様がいなかった。
って話を。
でも今の話だと、なんだかおかしい。
「なんで…、居ないわけないですよね…?しかもそれで契約できるって…」
「──母さんの守護神は、母さんが転生してきた時点ですでに死んでたらしい…」
少しだけ視線を落として、珊瑚さんは続ける。
「…人の手によって殺されたんだ」
呟いたその言葉はこの神秘的な空間の中で嫌な響きを伴って落ちる。
「だから今神として生まれることができない。」
「…そんな…」
それ以上の言葉が出なかった。
ふと、思いだす。
そういえば、あの時はいろんなことが重なって忘れていたが、幻治郎さんがこう言っていなかったか?
"人が神を殺せば、その神は人へと転生する。そういう輪廻の回り方を神居はしてる"
神が神を殺せば、祝福の神のように復活する。
──であれば、以前予言で受け取った、『運命の女神は生まれ変わっている』という一部分は、ハチス伝説でハチスが、運命の女神を殺したというのであれば……。
運命の女神は、人に転生している可能性があるんじゃ無いのか。
「でも、もしかしたら人に生まれ変わってるかもね」
「やっぱり、生まれ変わるんですか!?」
「うん、神と人は転生できるからね」
珊瑚さんの言葉に引っ掛かりを覚えて、聞き返す。
「……神と人は?」
眉を下げた珊瑚さんは声を顰めた。
「ここだけの話、神と人以外の神秘は、転生しない」
「……え」
そう言った後珊瑚さんはまた静かに歩き始める。
「…シオンは、母さんのことを大切にしてたみたい」
珊瑚さんの言葉に、ハッとして前を向くと、歩きながらついた先はもう一つの祠があった。
「母さん世代──まぁ幻治郎さんも含めてね、あの世代はどうも神様に好かれる傾向があるみたいなんだよねえ…聞いた話だけで何十個も出てくるよ、いろんな神様に神隠しされた話」
「…なんていらないよりどりみどり…」
「そんでこれが、その守護神の祠ね。なんにも宿ってないただの祠だよ」
ぽんっと珊瑚さんが軽く触った屋根には弓矢の像。綺麗なお米と葉っぱ、お酒が備えられている。
…毎日変えられているんだろうなというのが見て取れた。
「契約って、選ばれたからできるわけじゃないんですね」
「みたいだねえ。理屈はわかんないよ、でも俺を産む数年前までは守護者として戦ってたらしいから…。所謂巫女系の家庭ってそれができるらしいんだよ」
「じゃあ珊瑚さんも他の神様と契約できるってことなんですかね?」
「その辺の神様とは無理かも」
そうなのか。守護神とは不思議な存在だなぁ…。
ああ、何を考えていたのか忘れてしまった。さっきも、何かに近づけそうだったのに…。
祠を見つめていると蝶々が増えてくる。
なんでこんなに蝶々が……?
「他の神様と契約するには条件があるんだよ」
かわいらしい、声が後ろから聞こえてくる。
2人で声の方に振り向くと、蝶々を引き連れた夢さんが立っていた。
「ふふ、聞こえちゃったから来ちゃった」
「驚かさないでよ母さん」
「びっくりした?」
「した」
「ふふふ…」
楽しそうに笑う夢さんは本当に愛らしく、花のように綻んだ笑顔を見せる。
蝶々に、一言、二言話すとあちこちに散らばっていく。
散らばった蝶々を見送った夢さんは、俺たちを見た。
「代々、中津海はシオン様を祀っててね」
「へえ…じゃあ、守護神としてのシオンさんは夢さんまでの間に、守護神として契約しなかったんですか?」
「それが、巫女系の不思議なところでさぁ」
珊瑚さんが悩むように口に出す。
「なんか、爺ちゃんもひいじいちゃんもシオン様と契約してんだよね。本来の守護神とは別に」
「え!?じゃぁ守護神とシオン様でダブル持ちだったってことですか?」
「そうなるよねえ」
少しだけ間を置いて、夢さんが続ける。
「代々はそうなの。シオン様は“仮守護神”みたいな形で一緒にいたの」
「仮守護神…」
「でも私は、守護神がいなかったから」
夢さんはふわっと笑う。
「メインとしてシオン様と契約できたの。巫女系はそういうことができるってこと」
「複雑〜〜…」
俺は微妙な顔をしたし、珊瑚さんは呆れたように息を吐いた。
いなくなったという神様の祠の前で俺たちは巫女系の守護者の話をしたのだった。
「おーい3人とも〜僕を置いていくなんて寂しいことしないでよ〜僕とお話ししよーよー」
メソメソとした声が向こうのほうから聞こえてくる。
「…あれがこの国の統治神…?」
「あの方は昔からあんな感じなの」
「それじゃあ2人とも行こっか」
なんて、夢さんに言われて俺と珊瑚さんは元の部屋に戻るために歩いた。
最初の部屋にまで戻ると、蓮水さんがムスッとした顔をして座ってこちらを見ていた。
「ねえーーーー!!!三人ともおそーーい!!僕を待たさせるなんて君たちくらいだよ全く!!」
腰に手を当てて怒ってます!僕は本当に怒ってます!といっている。
「…あら、ちなみに蓮水様は一度も守護神になったことがないから、守護神になってみたいんですって」
「なんの話!?僕の夢を暴露する必要あった!?」
「統治神を守護神に持つ人間エグすぎるだろ」
「ある意味最強カード…」
「絶対ないだろうなぁ」
珊瑚さんと俺の言葉に蓮水さんは、「わかってるよ!だから希望!夢!可能性!」と叫んでいる。
そんな蓮水さんの叫びを聞きながら俺はどうやって帰ろうかなぁと空を見上げた。




