第146神 予言の考察
ご飯を食べながら、ふとシラジラの予言を思い出した。
「…あの、シラジラの予言って覚えてますか?」
「ん?ああ、蓮が言ってたやつ」
「運命の女神は生まれ変わっている。運命は再び綻び、秩序は更なる歪みを生む。赤はすぐそこにあるだっけ」
「あ、それ私気になってたところがあるんですけど」
朝梨が声を上げる。
「シラジラが溶けて消える時に、まあ反転はしてたんですけど…」
「白は黒に歪む。黒はそこにあった。
黒い目に映るのは青。夢は産まれ、幻は神となる。……ここまでは確実なんだよね?蓮くん」
「え、うん…後半のやつはシラジラの声が変わってたから確実かはわかんないけど」
「と言うか、記憶力いいな朝梨!?」
一語一句覚えている朝梨に驚いていると朝梨は笑う。
「得意なの!人の言葉覚えるの!」
「それは才能だよ朝梨ちゃん」
桃梛も思わず口に出す。
「…ん?秩序は歪む…?」
最初の予言の言葉に首を傾げる。幻治郎さんは、微笑んだ。
「…ああ、なるほどね」
「何かわかったんですか?」
「──秩序の歪みは今回の産夢の枝かな」
「…産夢の枝が折れた件…。でもあれはシラジラより前の出来事なんですよね?」
「いや、枝が折れてから、運命とマガツヒに少し変化が訪れてるんだ」
「…シラジラが、異世界じゃなくて現実世界へ干渉した…件か!」
「いいね、蓮。その調子」
「あ、俺からもいいですか?実は幻治郎さんがお茶会に参加しなかった時に、その聞かされた話なんですけど…」
「────へぇ、天界の神が観測し始めた、ねぇ…」
「うん、実は俺も別件で友人から聞かされてるんだよねその話」
「…えっ!じゃあもう知ってる情報だったんですか!?」
「まあね」
腹ごしらえもそこそこにのんびりと縁側に座って庭を眺める。
「だから、死んだ人も感染するようになったのか…」
ポツリと、鷺沼さんが呟いた。
「どういうことですか?」
「…蓮が守護者になる時、覚えてるか?」
「…?」
「辻道の女子高生」
「!俺が仮契約した時の…」
「本来、人はマガツヒに感染しない。死んだ人間であっても。でも、今回感染していた…」
幻治郎さんが補足するように教えてくれる。
「天界の神が観測するということはマガツヒの拡散に加えて、因果が曲がる可能性が強くなる」
「因果が曲がるってどういうことです?」
狐を撫でながら朝梨が幻治郎さんを見上げる。
幻治郎さんは空を見上げながら答えてくれた。
「本来のマガツヒの動きと異なる動きをし始める。
例えば、妖精が子供を守るために子供を殺したり、マガツヒを埋めたりね」
「…!あの時の妖精は、じゃあ」
「ああ、マガツヒが歪んできてる」
「…私考えてたんですけど」
桃梛が幻治郎さんに目を向ける。
「赤がすぐそこにある、って、もしかして今回の幻治郎さんと私のことだったのかなって」
「…私が気づいてなかっただけで、あなたとの関わりがあるよ…って」
「なるほど、その意味も込められてるかもね」
「その意味も?」
「赤は呪いの色、そして救いの色だ。二重の意味が込められてるかもよ」
「…白は黒にって、天使のことじゃないですか?」
ずっと考え込んでいたるんが、ハッとした顔で俺たちを見る。
「シラジラだと思ってた…」
「私も〜」
「いやいや、天使は白じゃん!マガツヒになって黒くなったってことなんじゃない!?自分のことは言わないでしょわざわざ」
「あー…確かに」
「じゃあ、記録関連はもしかしたら天使のことだったのかも。ほら、消える、写す、無くなる。
過去を見せられたんでしょ?写すって言い換えることもできるじゃん」
朝梨の言葉に俺と桃梛は、ああ。と納得と同時に腑に落ちる。
"消える"と"無くなる"がわからないが、これはまたいつか来るのだろうか…。
「黒はそこにあった……これってもしかしてさ、裏切りに関してだったりする?」
「なんか色だから全部後付けできそう…」
「…それでいったら、結局俺たちは運命を変えることはできないってことじゃん〜!」
「というかここまで直近の予言ある??」
「確かに…じゃあ振り出しに戻ってんじゃん!」
うがぁー!と頭を抱えれば、幻治郎さんが微笑みを浮かべた。
「運命は変えられないけど過程を変えることはできる。どう向き合うかは自分達で選べる。シラジラの予言が現時点で当たっていたとしても、向き合った感情は変わったろ」
「…まあ」
「どう動くかも選んだ、何を信じて何を見極めていくのか。
それがこれからの予言にどう関わるのか、それはお前たちが選択すればいい」
「…過程が大切、ですもんね!」
「何事においてもね」
残りの予言は、黒い目に映るのは青。夢は産まれ、幻は神となる。
愛は歪み、支配は内へ。
未来は暗く、霧に塗れた蒼…。
そもそも、今回だけに限った予言だったのかすらも…。
これがどう関わってくるかはわからない。
「予言や占いってのは不確かなものが多い。バーナム効果のようなものだよ」
「予言の妖怪でもですか?」
「シラジラ自身は神様のお告げを広めてるだけだから、アレは正しくは予言の妖怪とは言い切れない」
「…じゃあ、正しい意味ではなんの妖怪なんですか?」
「未来を視る妖怪、かな。未来視の力があるんだ。でも予言はできない」
「…神様から受け取ったものはできるけど」
「自分が見た未来を伝えることはできないんだ」
なるほどなぁ。なら、シラジラから見た世界で、死にかけている人々が居たとしても、シラジラはそれを教えることはできないのか…。
「言ったろう、シラジラは未来を視る事ができて、神様のお告げを聞く事ができる妖怪なんだと。……昔々、ある村でこういう話が広まった」
幻治郎さんは俺たちに教えると決めてからは、すぐに教えてくれた。
「『神様のお告げを聞く事ができたらいいのに』と。それは元々未来を視る事ができるシラジラにまで伝わった」
「…元々未来を視る事ができる妖怪に…」
「伝承が加わったんだ。村人たちからの信仰が厚かったシラジラは存在も不確かだったからね簡単に染まった」
「未来を視る事ができるなら、神のお告げを聞く事だってできるんじゃないか?それを我々に伝える事ができるんではないか?いや。巫女のみが聞けるのだろう」
「いつしかそれは真実となり、シラジラの伝承に一つ加えられた。その結果、シラジラは予言を司る妖怪と言われるようになった」
「さて、その予言を伝える神様はなんで曖昧な言い方をするのか」
「え…!えーーー…曖昧な方が想像力が広がるから?」
「ああ、今の私たちみたいにねえ」
「正解は?神様たち」
幻治郎さんが、火雷や風伯たちに話を振る。黙っていた神様たちは苦笑いを浮かべた。
『ハッキリしたものは言えないんだよねえ』
『運命が変わったら危ないからな』
『決まった答えには必ず辿り着くけど、その道筋は人間が起こすものだもの…私たちは答えしか言えないのよ』
「答えを言ってる結果、曖昧な表現でしか伝えられない。ってのが答えだね」
「昔からあるだろう?****年に、大きな出来事が起こる。みたいなやつ」
「あるー!」
朝梨がうんうん!と頷く。幻治郎さんはそんな朝梨を見て、微笑む。
「神様たち…もう少しハッキリ言ってもいいんですよ?」
『ダメよ!ダメダメ!人間はすぐそうやって答えを知りたがるんだから』
『私たちができることは見守ることと見届けることくらいなんだよ蓮』
『介入する時は神様基準でやらせてもらうけどね〜』
火雷と慧様の神様トークに俺とるんは少し青ざめる。
神様怖っ…。
「まあ今回のシラジラの予言はまだまだ何か意味があるかもしれないね。その程度の認識でいいってこと」
「おじさんはしゃべって疲れた」
幻治郎さんがおじさんって言うと違和感しかないな…と思っていると朝梨たちも同じことを思っていたのか、苦笑いで幻治郎さんを見る。
幻治郎さんは柱を背もたれにして縁側に座りながら俺たちを微笑ましそうに見つめている。
「平和が一番だね」
その言葉に俺たちは全員、その通りだと頷いたのだった。
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