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守護の記録  作者: ツギハギ
政府の裏側

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177/207

第142神 選別箱

 

 守護課には、執務室とは別に部屋がある。


 赤歳幻治郎が一人でのんびりと過ごすための部屋を、作った。


「赤歳くん」


 そこには誰でもやって来れる。今日のように、人が来ることだってある。


「…やぁ、漆黒。今日は何しに来たんだ?」

「いやなに。広大が篭っていてなかなか出なくてね。大体あーいう時は君が何かをした時だ」

「人聞きの悪い…まぁ、今回は確かに俺がやったけど毎回俺じゃないぞ」

「いいや。説教をした時、広大を置いて任務に向かった時…あとはなんだったかな」

「わかった、わかった。俺が悪かった。…で?」


 幻治郎は漆黒を見る。その黒い目に、映るものは何も無い。

 普段、笑わない男はここでは笑う。

 …変なやつだ。

 幻治郎の言葉に漆黒が返した。


「──私は裏切ってないよ」

「なんの話だ?」

「惚けないでくれ。私のことをずっと、見てただろう?」


 幻治郎は、漆黒を見る。

 漆黒を見るその目には何も映っていなかった。


 ◆◆◆


 ──幻治郎と漆黒の会話が行われている横で、蓮と朝梨とるんは政府にもう一度来た。

 理由は単純明快。

 龍牙の拾い物、第二弾が行われたからだった。

 いい加減にせんかい!とキレたのはるんだったりする。桃梛は今回はついて来なかった。というのも…


「ごめん、私塾があって…」

「ピアノだっけ」

「うん…ごめんね。また何か進展があったらRIRINしてね!」


 じゃあ!と言って桃梛は塾に向かい、俺たちは政府に来たのだった。


「…今回は箱か」

「ありえない、拾いすぎでしょ。昨日の今日だよ」

「呪物が神無に落ちすぎてるのもおかしいからね」

「…それにしても、なんか気持ち悪いんだよね今日」

「え、るんちゃんも?私もなの」

「えー、大丈夫?なんか胃薬とか飲む?」


 なんだろうねえ。と二人が話す横で俺たちは箱を持って呪術課へと向かった。



 呪術課への行き方は覚えたので簡単にいけた。いつも通り入ればいつも通り慌ただしく走り回っている。

 オレンジの髪の、琥珀さんがにこやかに近づいてくる。


「箱…?」

「ごめんなさい昨日の今日で…」

「いいよいいよ気にしないで」

「なんかすごく怪しいのはわかるんですけど、何が危ないのかまではちょっとわからなくて…」

「…ふーん?」


 直径十五センチの正方形。木で作られたカラクリのような箱だ。ジロジロと眺めるように琥珀さんが箱を軽く上から下、右、左と眺める。腕を組んで、うんうんと頷いた。

 何かわかったのだろうか?


「中の確認は呪術課の人が確認したほうが安心って桃梛に言われたのでまだ見てないです」

「…なるほど、ちょっと待ってね女の子たち俺たちから離れて」


 わからないまま後ろに下がる朝梨とるん。俺はといえば何が何だかわからないまま、るんからその箱を渡される。


「ごめん〜蓮くんそのままこっちに。女子どもはちょっと離れてー20以下のガキどもー離れろー。女性のみんな〜離れて離れてー男ども集合ー。」

「あ、蓮くんはガキはガキでも守護者だから影響がないと思う」

「と思うってなんですか!」


 こわすぎる!しかしなんなんだ?この箱に一体何が?


「二人は気持ち悪く無いー?」

「え、あ、…あれ、今は気持ち悪くないです!」 


 るんと朝梨が声を張り上げる。その顔は本当にすっきりとしたものに見えた。


「ふんふん、じゃあ俺の想定してるやつで合ってるな」 

「…これって、なんなんですか?」

「定期的に発生する概念だな」

「定期的に…」


 へえ、そんな呪物があるのか…。なんで龍牙はそんなもん拾ってんだよ。龍牙がそういう、呪物に好かれる体質なのか、それともそういう運命を背負っているのか、定かじゃないけどどちらにせよあいつは何があっても呪物を拾うだろうな…ということだった。

 そして俺たちはそれに巻き込まれ続けるんだろうなぁ…という、それだけは間違いなく断言できた。

 琥珀さんが箱を見ながら教えてくれる。


「コレ、俺たちの間では偏性呪具って呼ばれてて、要は中に入ったものと同じものが呪いの影響を受けるんだよ」

「……え?待ってください、じゃあ、この箱の中には…」

「女、子ども…うーん、数が合わない…20体は居るな…んーー??あれま」

「ど、うしたんですか?まだ、なにか?20でもやばいのに…??」


 この中に20…数がありえない…どんだけの人がこの中で死んだんだ。

 ジッ…と箱を見つめた後琥珀さんは小さく、「あぁ」と呟いた。


「多分年寄りもコレ入ってるなぁ」

「ひっ」


 落としそうになった箱を気合いで掴む。


「おっと、落とすなよ〜」

「…こ、これ、え、俺持ってたくない…」

「まあまあ。この箱、呪術課の間では偏性呪具だけど神居では、選別箱って呼んでる」

「…せん、べつ」

「まあ名前の通り中に入れるものを選別して、それを呪具とするために呪いを増幅させる。で、地面に埋めて、数日その上を通らせる。そのあとは、隣の家から順に夜だけ箱を家の中に保管していく。家々を回ったら、最初の家に戻る…」

「あとは呪具を、呪いたい相手のところで壊すわけ」

「こ、壊してどうするんですか」

「それで完成よ」

「完成って何が…」

「呪いが」


 持っている箱に重みを感じ、手が震える。神秘と戦ったり、秩序裏切りリスト見せられたり、お前は救世主で災厄者ですと言われたりと様々なことがあって何度も体が震えたが今回は別の意味でゾッとする。

 【イル】を思い出すような、嫌な感じだ。


「壊すことで中の呪物が解放!持ってるだけでも気分が悪くなるのに、それが解放されるってことは…」

「し、死ぬ?」

「まあそういうことだね。だから、昔は村一つよく消えてたんだってさ。俺も記録で見ただけだからなんとも…だけど、と」


 呪物の確認を終えたからかペタペタと札を貼っていく。


「よし。とにかく壊さないように持っててねー。コレ元々カラクリ屋敷、ヒガンの館って知ってる?あそこからの発祥なんだよね。今は封鎖されてるんだよ。」

「なんでですか?」

「そりゃぁ、あの館自体が呪物だからね」


箱に貼る紙にサラサラとまた新たに何かを書きながら、琥珀さんは笑う。


「形がカラクリっぽい箱してるのも発祥がカラクリ屋敷だからってわけ」

「あ…文化祭で入ったカタルフのお化け屋敷の元ネタ…」

「カタルフで語られてるホラーネタだから、カタルフか…なかなか攻めた内容にしたねえ」


 感心したように頷いた琥珀さんと、お化け屋敷でいろんなトラップに引っかかったあの頃を思い出して苦笑いが浮かぶ。


「…確かにあの中は、なかなか…」

「内容もガッツリか、そう。ハナという概念的な女性を甦らせるために何度も女を拾っては生贄に捧げてた狂人ね」

「コレ…どうするんですか?」

「S級だから、さっさと放り込むよ〜。浄化課には持ってけないね」

「な、なんで?」

「浄化課は女の子率が高い、ってのと単純にこれ浄化課では浄化できない。幻治郎さんあたりにやってもらったほうがいいな」

「…幻治郎さんなんでもできるんだなぁ…」


 壊すことも、救うことも。

 あの人は、どっちもできる人なのかもしれない。

 ふと、なんでもできる幻治郎さんの戦ってるところを見た事がないなと思う。


「そういや、俺幻治郎さんの神様見たことないかも…」

「ん?幻治郎さんの神様?ああ、あの人神様居ないよ」


 琥珀さんの言葉に、数秒間が開く。

 処理するまで少し置いて、声が出た。


「え!!?」


 守護神がいない守護者?

 そんなもの、成立するのか。


「おお、ローディング長かったな。守護神がいない守護者として、有名だよ。幻治郎さんと──中津海(なかつみ) 夢さんって人、この二人が守護神がいないのに守護者として動けるトンデモ枠」

「中津海ってことは、珊瑚さんとご親戚?」

「お、珊瑚くん知ってる?そうそうその子のお母さん」

「お母様!!」

 

 ははは、と楽しそうに笑った後琥珀さんがペンに蓋をしてから腕を組んだ。


「ここ二人はもともと相棒だったんだよね。最強コンビ。小さい頃は俺もなんか憧れたなぁ…」

「小さい頃、って琥珀さん今おいくつなんですか」

「24!」

「若い!!」

「というか待ってください、守護神がいないって…じゃあどうやってマガツヒを…」

「あの人はマガツヒの討伐はしてないよ。やってるのは神殺しだ」


 軽く言ったその言葉が、妙に重く聞こえた。

 琥珀さんが箱を俺から受け取りながら、笑う。


「だから、あの人はおかしいんだよ」

「俺たち人間も、守護者も神を殺せない。なぜなら、『人』だからだ」


 ごくりと唾を飲み込む。

 本来なら成立しない、守護者としての成り方に幻治郎さんはいる。


「神と契約してる守護者は、神を殺せないんだよ。契約が枷になるからね。」

「──でも幻治郎さんには、その枷がない」


 平然とした、相変わらず瞳が開かない糸目で、笑う琥珀さんに俺はだんだんと不安になってくる。


「…だから殺せるんですか、神を…?」

「そう、神殺しが成立する。もちろん、それだけで殺せるほど神は弱くないけどね。普通の人間には殺せない。戦闘課も俺たちもやれるのはあくまで確保と気絶させるくらいだからね」

「普通の人は神と対峙した時に『殺す』という選択肢は無いんだよ」


 ──そういえば、雨水での戦いの時、あの人がやったのは封印だけだった。同時に雨水に到着するまで何をやっていたのか、というと。


『── 落神を殺しに。ここよりも被害が一万にも及ぶ災害級の神を下してきたんだ』


 彼はそう言っていた。あの時はそんなもんなのか、と流してしまったが、今考えると確かにおかしかった。

 神を殺せる守護者。神と同格だと周りが言う、そんな人。

 だんだん怖くなってきてしまい、二の腕のあたりをさする。

 目の前にいた琥珀さんがにんまりと笑った。


「さて、と!これで選別箱は封印完了!ありがとうね蓮くん」

「あ、いえ…」

「幻治郎さんに頼んどく、あっ、なんなら頼んどいてもらっても良い?」

「何処にいるかわかんないです…」

「大丈夫大丈夫、守護課の奥の部屋、執務室とは違う方向にもう一つ不思議な部屋がある。そこに行ってごらん。そこが幻治郎さんがいつもいる部屋だよ」

「はあ…、わかりました。行ってみます」


 これから俺は、赤歳幻治郎という男を知っていかないといけないのかもしれない。

 あの人こそが謎の塊で、ずっと教えてくれなかったものをもしかしたら──。


 何かのきっかけがあれば、教えてくれるようになるのかも、と希望的観測ではあるけれど少しの可能性だけを持って呪術課を出て、るん達を連れて守護課へと向かった。

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