第141神 夜の恋
月が輝く夜の22時頃、俺と眠花さんは政府の庭にあるベンチに座っていた。
「…外なんですね」
「…中だと窮屈でして」
外の方が開放的になれるので。と言って笑う眠花さんは両手に持った温かいお茶を俺に一つ差し出す。
そのまま受け取りながら、一口。
裏切りがどうのだと話していたので頭が疲れていたのだろう。ふぅ…と息を吐いた。
そんな俺の様子を見ていたのか、眠花さんと目が合う。
「あ、あの…?」
「ふふ、いえなんでもないですよ」
なんでもない。と言いつつその目は明らかにこちらに向けられているので少し気まずい。
なんでこんなに見られてるんだ…。
「み、眠花さん、話って?」
「ああ、そうでした。これを差し上げようと思いまして」
渡された、手のひらサイズの小さな紙袋。思わず掲げて見る。
「…これは?」
「あなたへ」
「お、俺に!?」
思わず眠花さんを見てみれば、両手で口元を覆うように楽しそうに笑う。
「ふふ、ドッキリ大成功ですね」
「ど、ドッキリ??ああ、じゃあこれは別の人の…」
「いいえ、正真正銘貴方へですよ、蓮さん」
「え、えぇ…!?」
「ふふ、誕生日が8月1日だってお聞きしまして…8月は忙しくなりそうなので今のうちに」
「かなり早い誕生日ですけど、ハッピーバースデー、蓮さん」
まだ、7月の上旬だ…本当にかなり早い。
それでも、祝おうとしてくれたその気持ちは嬉しいので、素直にお礼を言う。
「…これ、中見てもいいですか?」
「どうぞ…ちょっと恥ずかしいですね隣で開けられるの」
小さな紙袋の中には個包装された物。貼られたテープをゆっくりと剥がしながら中を見るとメガネ拭き。
「…な、何がいいのかわからなかったので、いつも眼鏡をかけてますしその、日常遣いできるものがいいのかなぁ、なんて思いまして」
何故かだんだんと慌て出す眠花さんに笑ってしまう。あんなに余裕ぶっていたのに途端になんだか可愛らしい。
「ありがとうございます、大切にしますね」
「……ぜひ、大切にしてください」
メガネ拭き、ふふ。確かにいつでも使えるなぁ…最近ぼろぼろになってたしちょうどいいなぁ。
包装に戻して紙袋に入れ直す。
「…蓮さん、何か悩んでいたんですか?」
「え、な、なんでですか??」
「…なんだか、迷った顔をしていたので」
「ぁー…」
先ほどの、政府での裏切りの話。折れた産夢の枝、マガツヒの異常。
「…運命が、壊れてるかもしれない。って話をしてまして…」
どこまで話していいのかわからないまま言葉にすると眠花さんはただ頷いた。
「…それは極楽社でも話が上がってますね」
「そうなんですか?」
「ええ。運命を壊したいと願うものたちがいる、と」
「…生き返らせることは悪いことなのか、って話を友達と話してたんです」
眠花さんが無言で俺を見上げた。
「…俺は、生き返らせない方がいいと思ってて」
「…そうなんですか…?」
「だって、生き返らせたいと思うのは俺たちのエゴじゃないですか。命を侮辱してる気がして…」
「……」
「もちろん、そうじゃない人も!いるとは思いますけどね!…うん、だから、どうやって人を守ろうかなぁって」
「どうやって…?」
「救えないけど、救えたら最高じゃないですか。人が死なないようにみんなを救えたら…って。
小さな平和を守るためにも、一人一人を必ず救えたら、その平和につながるのかなって……」
「それでもいいと思います、貴方のその考え方は私、好きです」
眠花さんの肯定してくれた言葉に俺は自然と眠花さんの方を見た。
「私も一人一人を救えたら平和に繋がると思ってる人なんです」
「……誰一人、取り残したくありませんから」
「同じ…ですね…」
「ええ。同じです。ふふ、お仲間がいて私は嬉しいですよ」
…確かに、その事実はとても嬉しい。
でも、何故か少しの違和感を覚えてしまった。
……この人は、そんなことを言う子だったか…?
いや。そんなにこの人のことを知らない俺が何を…。
緩く首を振り眠花さんを見ると眠花さんが俺に手を重ねてくる。
「ひょぇっっ!」
心臓が高鳴る。急な接触に胸がドキドキとし出した。
な、なに?なんで急に??
「…私にもたまにでいいのでRIRIN、くださいね」
内緒話のように言われる小さな言葉に必死に頷く。
「わ、わか、わかりました!あの、お願いなのでもうちょっとだけ離れて欲し…」
キュッと指を絡められる。
もう顔は真っ赤だと思う。
全く女性に耐性がないところにこの数々の追い討ちに身体が固まる。
艶やかな口が妖艶に笑う。
「なーんて、うふふっ」
パッと離れて眠花さんがまた両手を口元に合わせてくふくふとと楽しそうな顔をした。
「それじゃあ、また。お会いしましょうね蓮さん」
ぴょん、と少し楽しそうに弾んだその足でくるりと振り向いて眠花さんが手を振ってくる。
「……は、はい…」
おそらく顔から湯気が出るくらい真っ赤になった手と顔をフードを被って隠す。
うぎゃぁぁぁぁぁあ!!
大人の女性って!凄い!!!
『あれは眠花がすごいだけだ』
『眠花ガンガンアタックしてくるねえ』
「やめて!なんで見てるの聞いてるの!」
『離れてた方が良かった?』
『まだ思春期なんだやめてやれ火雷』
「お前もだよ風伯!!」
その日の月はなんだか笑ってるような気がした。




