第137神 真実の合流
ソファに座り何かの書類を広げて話していた、幻治郎さんとアルバートさんはこちらを見て手を上げた。
「やあ、蓮たち。任務は大丈夫だった?」
「幻治郎さん!…とアルバートさん?なんでお二人が?」
俺の言葉にアルバートさんは嫌そうな顔をした。
「最近はずーっと幻治郎と一緒さ…もう嫌になったよこの顔見るの」
「とか言いながら飯食いに来てるくせに何言ってんだお前」
「…はは、」
苦笑いを浮かべて話を聞いていると、ソファに座るように俺たちは言われた。
朝梨、桃梛、るん、俺の四人はソファに座る。
「おかえり」
「…ただいまです」
なんだか、幻治郎さんと久しぶりに話した気がするなぁ。と思いつつも俺は二人を見た。
アルバートさんの服装がいつもと違い、何か軍服のような服であることに気づく。
「その服…」
「ん?ああ、これ?さっきちょっと大きな会議に出る必要があったから正装なのさ。一応俺、魔王だからね」
「あ、悪魔じゃなくて魔王なんですね?!」
「あれ、言ってなかったかい?」
「言ってた気がするけどな」
幻治郎とアルバートさんは顔を見合わせる。
え、言ってた??記憶が飛んでるだけ?
「……え、俺の記憶がポンコツなだけですか?」
首を傾げる俺に二人はふむとひとつ頷いた。
「まあいいさ。覚えてなくても困らない情報だしね」
「それより、天使との戦いお疲れ様」
幻治郎さんはそう言った。全て知っていたのだ、彼は。
アルバートさんが、珍しく真剣な顔で俺たちを見る。
「ここ最近の任務で、何か気になることとかはなかったかい?」
あ、前にるんが話してたやつかな。るんも気になっていたのか手を上げる。
「あの、私気になったんですけど、妖精ってあんなに生まれませんよね」
「神よりも妖精の方が生まれる頻度は確かに少ないね。たくさんいた?」
幻治郎さんの返しに、るんが頷く。
「前の妖精との戦いでたくさんいました、マガツヒを壊した後、元に戻ったなぁと思ったら、思いの外たくさんいて…」
「なるほど」
「他には?」
朝梨が手を上げる。
「じゃあ、私から…シラジラとの戦いで、シラジラがマガツヒに反転した時、異界の中じゃなくて現実世界での戦いだったんです」
「…現実世界に干渉してきたんじゃないかなって…」
ふむ、と顎に手を当てた幻治郎さんに、桃梛が恐る恐るというように聞いた。
「……あの、幻治郎さん」
「ん?」
「…私、前世を思い出しました」
その場にいる全員が桃梛を見る。
え、桃梛思い出したの?てことは…。
「さっきの、記録で?」
「蓮くんも見せられた?」
「……見せられた、俺がハチスだって…」
俺の言葉に声を上げたのは他でもないアルバートさんだった。
「ええ〜!!早い!早すぎる!もっっっと伸ばせばいいのに何してるんだい!?天使は!」
「どっちの味方なんですかあなた」
るんの言葉にアルバートさんはソファに背中を預けてため息をつく。
「はぁー、どっちの味方でもないよ。俺は楽しい方に傾くだけさ…。でも早すぎる…君がハチスだって確定したならもうこの話は終わりだよ」
「終わりではないだろ別に」
「…はぁ」
本気でショックを受けているアルバートさんに、なんでこの人こんなショック受けてるんだ?と疑問が湧く。
「あー、でも桃梛も思い出したのか…はぁ」
「私に対してもそんな感じなんですね」
「誰が記憶を思い出しても俺はショックを受けるんだぞ…」
「どうなってんだこの人」
全員からのツッコミを受けながら項垂れるアルバートさんを無視して桃梛が幻治郎さんの方に身体を向けて頭を下げる。
「…あなたに、私は救われました。ありがとうございます、幻治郎さん」
きょとんとした顔をする幻治郎さんは、桃梛を見つめ返して微笑む。上から下まで眺めて、桃梛の服を見る。
「…ああ、」
小さな呟き。
「…あの時あそこに居たのは、今の君だったんだね。昔も今も変わらず綺麗に育ったね」
「はい!」
桃梛が笑顔を浮かべて頷き、幻治郎さんが目を細めた。
「今度色と会うといい。あの子はまだそこまで思い出せてないんだ」
「そうなんですか?」
「ハチスと知り合いであったことは覚えてるみたいだけどね」
…ハチス、俺の前世。
「…れーん、ハチスは君の中にいるのかい?」
「わかりません、居るのかもしれないですけど…うーん、まあ俺は別にいいんですけどね」
「良くないだろー、人格の融合が大事だって幻治郎が言ってたんだぞ」
「そうなんですか?」
「そうさ!人格が表に出ると危ない!ってね!」
ふーん?…ああ、そういや、前るん達と前世の話をしていた時にもそんな話が出たな…。
対話が必要になる、みたいなこと言ってた気がする…。
──ふと彼らの手元の書類に目が入る。
こんな執務室でわざわざ書類を広げてまで…しかもこの二人がやることなんて、想像がつかない。
「それは?」
「これは、まぁ色々だよ」
「何千年分のマガツヒの記録を見てるのさ。だるいね」
幻治郎さんが濁したものをわざわざアルバートさんが答える。
「…なんのために見てるんですか?って聞いてもいいんですかね…」
眉を下げて朝梨が幻治郎さんとアルバートさんを見た。
顎に手を当て悩んだ後、アルバートさんに、何か耳打ちをする。
「…はぁ、君ね。いやわかった。ちょっと待ってて書類取ってくるから」
その場から消えたアルバートさんに全員固まる。
彼は人外なのだと改めて実感する。
アルバートさんが消えたのを確認した幻治郎さんは俺たちを見る。
「…お前達が教えてくれた、最近の任務で気になったこと。これに関することを俺たちは見ていたんだよ」
「マガツヒが、関係してるって、ことですか?」
「そう。マガツヒだけじゃないけどね」
バンっと扉が開く。
焦った顔をした鷺沼さんとソフィアさんがそこにはいた。
「幻治郎さん!!アルバートさん!」
俺たちのことなんて目に入っていないのか、鷺沼さんは叫ぶ。
「あれ、アルバートさんは…」
「それよりどうした?」
「あ、あの産夢の枝が、折られてて…ッ」
「ああ、それか」
足を組み直し、幻治郎さんは鷺沼さんを見る。
「解析を呪術課に頼んであるよ」
確かに、この前琥珀さん達が研究できると喜んでいた。
鷺沼さんにはそれを伝えていなかったらしい。
「すまない、伝え忘れていた」
「…っ、なんで」
ふぅ、と息を吐き、体を落ち着かせるように肩の力を抜く。
「…知ってたんですか」
「文化祭の時、たくさんの悪魔が落ちて、お前たちは戦ったのを覚えてるか?」
「…ああ、俺が寝てた時のやつ…」
「あの時落ちてきた悪魔は、この世界のものじゃない、と魔界の魔王──アルバート、それから島崎大地と終様が進言してきた」
「魔界からにしては供給が多すぎる、と」
幻治郎さんは鷺沼さんを見た。
「そして、お前達が目指していたあの小さな悪魔。あの悪魔は原初の龍の手に願った。『神の世界から悪魔の世界に』……とね」
「あの悪魔が世界の改変の代償に差し出したのが産夢の枝だったんだ」
鷺沼さんが目を見開き、朝梨と桃梛、るんまでもが驚く。
産夢の枝と原初の龍の手、呪術課に渡されたあの代物がまさか、そんなものだったなんて…俺は本当に寝てたので結果だけしか、何も知らなかった。
「──なんで、幻治郎さんは知ってるんですか、俺たちの近くにいなかったのに」
「見てたからね」
この人は、見てたのに何もしなかったのか。俺自身見てもないのに、俺は思わず口を挟んでしまった。
「…見てたのに、何で助けなかったんですか?」
「必要だからだよ」
「……それって、島崎さんが傷つくことも必要だったってことですか?」
「あの時の犠牲が、あなたは必要だった、と言いたいんですか!?」
「ちょ、ちょっと…蓮くん…」
だってあの時、島崎さんが死にかけていたって、本人から聞かされた。腹に穴が空いたって。
なのに、それじゃぁ…!!島崎さんは死んでもよかった、って事なのか。
俺の怒りに桃梛と朝梨が怯え、るんが冷静な目で幻治郎さんを見ている。
異質だ。俺たちの怒りに対して彼は全く動じない。動じるどころか、それが当たり前だと、彼は話す。
ふわりと鷺沼さんの左横から現れたソフィアさんが睨むように見つめる。
『秩序を管理する神としても聞きたいことがあります幻治郎』
見つめ返して、何を考えているか、全くわからないその赤い目は俺たち守護者に何を伝えたいのか。
『あなた、何を考えているんですか?』
それはこの場にいる全員が思っていたことだった。




