【短編】No.6 漆黒が救援要請を受けた時の記録
「漆黒さーん!!!」
扉を開く音共に執務室に来た女の子、天日花雨はライラの手を握り珍しく真剣な顔で漆黒と鷺沼を見る。
「神無くん達が、迷いの森から出てこないらしいの」
「……迷子ということか?」
「やだ!どうせ、漆黒さん知ってるくせに〜!」
「花雨姉さん、どういうことだ?」
「…広大ちゃん、あのね、今神無くんとえーっと…桃梛ちゃんが迷いの森にいるらしいの」
花雨はライラの手を握ったまま、ぶぶんと手を振る。当然ライラの手は振られるが、呆れた顔でされるがままだ。
「……最近マガツヒが天使に感染したのよ、報告はあげたでしょう?」
ライラはため息をついて補足するように言葉を返す。ライラの言葉に鷺沼は、ハッとした顔の後に、記憶を辿ったのか頷く。
「ありました。……俺は指示を出してないのですが」
「私が依頼したもの」
「ライラ様!勝手なことはしないでください!」
「神無蓮の記録だけはおかしくなるのよ、あの子がイレギュラーになるなら、天使を助ける一手を担える可能性があった。私はその可能性に賭けただけよ」
「貴女が前蓮に話したいことがあるって言っていたのはそれだったんですね……」
「そうよ」
鷺沼はライラの方を怒るように目を釣り上げる。ライラは顔を横向けて、自分は悪くない。と態度を取る横で花雨はライラから手を離して腕を組んだ。
「花雨は、その話を聞いてからずっと迷いの森の方を見てたんだよねえ」
「ああ、花雨姉さんの守護神はドラゴンになれるもんな」
「そう。だから何かあった時にいつでも助けを呼べるように外から私が見守ってたの!」
頷く花雨に鷺沼は、ちゃらんぽらんに見えて意外にもしっかりとしている義姉に少しの誇らしさと、見守る前にできれば教えて欲しかったなぁという気持ちを抑えて「そっか……」とだけ声を出した。
鷺沼の左横にいる漆黒が手を後ろに組んだまま、花雨を見る。
「……何かあったんだな?花雨」
「あった!1時間以上迷いの森から出てこないの。それどころか、アレは」
『アレはおそらく異空間になっている。天使と衝突したと私は見ている』
「ヘスティア…!」
「……ということは、マガツヒに感染した天使と出会ったか」
『おそらくな。私は早めに助けに行ったほうがいいと思うぞ。アレは中からでは何もできない』
「そうねえ。私もそう思うわ」
ライラとヘスティアの言葉に鷺沼と花雨が首を傾げる。
「どうして?」
「天使はねえ、境界を遮断できるのよ」
『つまり、守護神と分けさせることが出来るんだ』
「な、なんで!?」
「天使は記録を見る存在よ。神と人のお告げを伝えるだけじゃないの。人という個人の記録を見せる上で、他の邪魔になるものは排除できるの」
「個人ではないものは邪魔扱いになる…ってことですか」
「そうよ」
とんでもないな…。と呟く鷺沼と、顎に手を当て何かを考える漆黒。
「中は硬いけど外は脆いはずよ。特に守護者の力なら壊せるわ」
花雨は焦ったくなったのか「ねえ!」と大きく声を上げる。
「そろそろ行かないとほんとにやばいよ多分…!神無くんの神様と桃梛ちゃんの神様、全然違う距離の場所にいたもん、多分分断されてる!」
「それはできれば早めに欲しかった情報です花雨姉さん…。漆黒さん」
「……仕方ないな。私が出よう。そちらの方に用事もあったことだ」
「桃梛ちゃんは花雨が助けるよ!」
ふんす!と鼻息を荒くして主張する花雨に鷺沼はあっさりと却下する。
「花雨姉さんは政府を守るための砦なのでダメです」
「花雨1人がいなくなっても大丈夫じゃん!幻治郎さんもいるし、広大ちゃんもいるし…」
「ダメです」
うぅ…と唸る花雨に鷺沼が苦笑いを浮かべる。
「何かあったときは、貴女にここを守って欲しいんです。管理者として、お願いしたい」
「……はぁ、わかったよ」
頷いた花雨に鷺沼はようやくホッと笑った。漆黒がライラを見る。
「であれば、篠倉さんを助けるために人手が必要だが、ライラ殿は何かお考えでも?」
「なんでよりによって私なのよ。神無蓮以外何にも知らないわよ。……でもそうねえ」
ライラが左手を何もない空間にかざす。途端に左手の下に現れた魔法陣が赤く輝く。
「篠倉さん?と縁がある子が2人ほど今なら暇してるわよ。ああ、1人は玉の守護者ね」
「朝梨か…連絡してみるか」
「あらやだ、もう1人は慧の子なの?へえ。ちょうど終わってるみたいよ」
その言葉を聞き鷺沼が早速2人に声をかけるために電話をする。その横で花雨がライラの手元を見る。
「それは何してたの?」
「探知機よ。守護者に限定して、忙しい子、暇してる子、生きてる子、生きてない子、って条件を絞れるのよ。篠倉…桃梛ちゃんって言うのね。この子と縁が強い子を絞ったらその2人が出てきたわね。色も居たけど、あの子暇してないんだもの」
「へえー!便利ー!花雨が迷子になったらそれで探してくれる?」
「迷子にならない努力をしてちょうだい」
漆黒は黒い手袋をはめて、鷺沼に一言声をかける。
「迷いの森の入り口に集まるように伝えてくれるか」
「わかりました。るん、朝梨。場所は赤雷にある迷いの森の入り口だ、ちゃんとゲートがある。本来は人数制限してるはすだ。受付の人もいるからすぐにわかると思う。行けるか?」
鷺沼が一つ、二つ頷いて笑顔を見せた。その反応だけで三人は理解したので漆黒は鉛筆で空間を叩く。ぐにゃりと曲がる空間に足をかけて鷺沼達に「任務を遂行してくる」と言って消えた。
「……あの瞬間移動鉛筆凄いねえ」
「幻治郎さんが術が得意じゃない人用に置いて行ってるらしいが」
「術者本人がいない上に長期間使ってもなお現役で移動できるなんてバグも良いところね」
「ライラ様も術者ですよね」
鷺沼がライラを見ればかざしていた魔法陣を消して、ライラは笑う。
「ええ。アレくらいなら簡単よ。精度も申し分ないものが作れるわよ」
「神秘と同じレベルのもの作ってるのがおかしいのかあの人」
「そうよ。さて!私は今からディナーをする予定なんだけど1人は寂しいの。一緒にご飯食べない?」
「え!良いんですかー!?食べる食べるー」
「……俺は三人が戻ってくるのを待とうかな」
「バカねお腹空いて待ってるのは良くないわよ。ああ、神無蓮と桃梛ちゃんの親御さん達に連絡しときなさい」
「…もう、夕方ですもんね」
「夜までかかると思うわ。それが終わったらご飯よ!ほら、早く終わらせて食べに行くわよ!」
ライラは子ども達を見るように目を細めて笑う。ああ、これは何を言ってもダメだな、と判断した鷺沼は「わかりました」とだけ返し、各親に連絡を入れるためにスマホを手に取ったのだった。




