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守護の記録  作者: ツギハギ
天使編 正しい記録

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第132神 記録は救い 桃梛side

 ぎょろぎょろとした目玉を羽につけた天使が現れる。目玉から生えた6枚の羽に、花の上にくっついている6個の目玉。

 天使…というにはだいぶ恐ろしい姿だ。


【理解不能】

【理解不能】


 無機質な声は声帯がないにも関わらずこの空間で響き渡る。


「…ふつうに気持ち悪い…」


 最初に見た姿はなんだったのか。

 でも今美夜さんもいないし、どうするべきか…。

 天使の目玉に青い光が集まり出す。


【攻撃を開始します】


 展開される魔法陣が木々や道に作られる。その一つが私を狙うように光線を放った。


「きゃっ…!」

 

 避けるように走るが、髪の毛にかする。慌てて木の後ろに転がるように隠れる。


「あっぶな…」


 ううーん。どうすればいいんだろう…。木の後ろから目玉の天使を見上げる。空は放課後だったのに青く澄み渡っているのを見るに、異空間なのだろう。胸に手を当てて肺で息を吸う。


 ──もう、怖くない。私はもう、間違えない。


 バキ、と音が最後から聞こえてくる。何もない壁。なんならただの木だ。聞こえた後の方を咄嗟に振り返ってしまう。ほぼ同時に、天使の目玉がこちらを向いた。


【発射】


 天使の目玉から光線が飛んでくる。

 まずい!と目を瞑った次の瞬間海の香りが鼻をくすぐった。森の中でくすぐる海の香りは妖精での戦いを思い出す。らいつまでたっても来ない攻撃に目を開けると、小さな魚の群れが目の前を通った。


「桃梛ちゃん!」

「────朝梨、ちゃん」

 壁?のようなものに手をかけて足を乗せている朝梨ちゃん、隣で体を震わせる美夜さんが居た。

 大きな波が光線を跳ね返して、天使の目に当たったのか、くらりと傾いた。

 私の目の前から潮の匂いと海の魚達が消える。


「…どうしてここに」

「漆黒さん?に連れられて…。」


 満面の笑みを浮かべた朝梨ちゃんの横にいた美夜さんが身体を震わして抱きついてくる。


『ももなぁー!大丈夫ですか!?怪我は!?髪の毛が!』

「だ、大丈夫だから…」

「ちょいちょいー!早いよ朝梨ちゃーん」


 朝梨ちゃんの後ろから、守護者用の服を着たるんちゃんが出てくる。


「るんちゃん!?」

「やっほ」

「二人とも用事は…」

「安心して、お母さん達とは食べてきたよ!」

「私も〜家業終えてからきました」

「てことは今、夜?」

「そ。夜から一番忙しいんだけど、私は高校生だからね!まあそこはちょいちょいっと抜けてきたよ」


 るんちゃんの言葉に力が抜ける。私は、友達にまで救われた。

 今度は赤になるって決めたのに、やっぱりまだまだ未熟だな。つい笑ってしまう。


「ねえ、守護者さん」


 視線を合わせるように2人を見つめる。


「私を助けてくれる?」


 るんちゃんと朝梨ちゃんがそれはもう綺麗に笑った。


「もちろん、任せなさいな!」

「そのために来たからね!」

「ありがとう…」


 目を瞑り、天使を見上げる。

 天の使いだから、天使なのかも知れないけど。


「反撃、開始だね」

「緋色さんみたい」

「ふふ、確かに」


 るんちゃんと朝梨ちゃんが笑う。私も同じように笑った。


「赤は救いの色だったっけ」

「戦闘課の色はそうだったね」


 ──緋色さん、私もそう思うよ。

 戦闘課ではないけど、私にとっても赤は、救いだから。


【理解不能】


 ジジッ、と目の前の景色が森から、海に変わる。

 泡が口から出る。

 溺れる。


 息が苦しい。るんちゃん達を見ると二人も同じように苦しそうにしている。



 美夜さん。

 ──はい。

 私達を守るような、綺麗なモノ作れる?

 ──もちろん。作れますよ。


 お願いしてもいい?

 ──御命令とあらば。

 桃梛の名の下に、告げる。


 美夜さん、お願い。


 ──お任せください。


【反撃開始】


 ピピッと海の中で魔法陣が展開される。

 朝梨ちゃんが何か動きを見せる。

 ほぼ同時に朝梨ちゃん、私、るんちゃんの頭にバリアのようなものが貼られる。


「ぷはっ」

「うわ、何これ!?」

「わあ…風鈴みたい」

「絵柄がついてる、かわいいね」

「ふふ」


「ありがとう桃梛ちゃん!」


 朝梨が今度こそ手を動かした。


「玉さん!」

『海はうちの専売特許やきなぁー!』


 海の中に渦が生まれる。

 魚の大群が横を通り抜ける。


「水の流れが早いね」

「私たちは巻き込まれないようにしてくれたみたいだねえ」


 るんちゃんと朝梨ちゃんがそんな会話をしている矢先、天使が渦に巻き込まれていく。


【無効化】

『無駄じゃ、こりゃ記録じゃないきねえ。うちの力は無効化されん』

【理解不能】


 海の中から放り出される。


「わ、とと…」


 タタラを踏みつつなんとか立ち上がって天使を見ると、混乱しているのか、羽がばたついている。


「…こいつは何に混乱してるの?」

「うーん、正しい記録を見せる役割をしてたんだけど、海の記録が玉さんの力だったから、なんで?ってなってるのかも」

「なるほど」


【理解不能】

【矛盾発生】

【正しさが定義できません】



 天使が何かを言葉にしながら答えを改測している。



「マガツヒ、あそこにあるね」


 目玉の中にある、白い光。混乱に乗じて光が点滅している。


「────さっさと壊していこうよ」

「おっけー、るんちゃん、朝梨ちゃん。援護してもらってもいい?」


 頷いた朝梨ちゃんが微笑み、玉さんを見る。


「我、朝梨の名の下に告げる。

 母なる海よ、我らに恵みを」


 小さな魚の群れが自分たちをぐるぐると回る。


「とりあえずこれで防御できるよ」

「朝梨ちゃんは防御特化なんだねえ」


 るんちゃんが感心したように魚をツンツン触る。


「へへ、最近私も気づいた〜。玉さん本人は近接攻撃特化なのにね」


「我、るんの名の下に告げる。

 黒き水龍よ!天高く上り、私に無限の可能性を轟かせ」


 パッと扇子を取り出し開く。


「ちなみに私は攻撃特化!」


 おおー!と朝梨が驚く。こんな時なのに、三人とも和気藹々としている。天使は未だ混乱していたが、ゆっくりとこちらを見据えた。


【展開】


 5個、それぞれ大きさの違う魔法陣が展開される。


「私はね、美夜さん」

『桃梛?』


「我、桃梛の名の下に告げる。

 愛とは救い。美とは心躍るモノ。

 私に預けて、私を照らして。」


「天使に花束を授けましょう」


 私の言葉に美夜さんが驚き、笑った。

『──ああ、ははは』


「いけるよね、美夜さんなら」

『ええ、ええ!!いけますとも!」

【発射】


 キュイン──

 音ともに光の塊が複数自分達に降り注がれる。

 こちらに向かってくるので避ける。魚の群れに当たった光線が跳ね返った。


「すごい、朝梨ちゃんの強っ」

「ふふん」


 自慢げな朝梨ちゃんとるんちゃんの会話を聞きながら立ち上がり、木の影から天使を覗く。


「美夜さん、いくよ」


 煙が舞う中、刀を構える。


『はい』


 飛ぶことは不可能だが、あの天使を落とすことは可能だ。


「るんちゃん!」

「任せなぁ!鋭利に飛ばすよ!水よ、つららに!」


 水の塊が吹き飛び、天使の羽にある目玉に刺さる。


【ERROR】

【不具合発生】

【不具合発生】


 なんらかの悲鳴をあげ、天使が地に落ちる。


【────いたい】


 大きな爆発音とともに煙が舞った。


【これが、いたい】

【いたい?いたい、わからない、いたい】

【いたみ?】


「さようなら、天使さん。私はあなたのおかげで正しさを思い出したよ」


【あなたが、痛みを私に教えたというのですか】

【あなたの世界は正しい】

【これが正しさですか】

【人類はなぜ間違えるのですか】


 支離滅裂なことを言い出す。


「そりゃぁもちろん」


 天使に向かって刀を突き刺す。と同時に赤くて大きなバラの一輪が突き刺した下に咲き誇った。

 バラの豊満な香りが漂ってくる。


「美しく咲き誇れ────薔薇の灯火」



 ──パキン

 小さなマガツヒの壊れる音ともに、天使の姿が少しずつ消えていく。


「答えがある人生を歩んでないからだよ」


「人は何度だって間違えて、何度だって失敗する」


「トライアンドエラーは当たり前でしょ」


 私の言葉を聞いていたのか、いないのかはわからないが、天使は何かを呟いて完全に消えたのだった。

 上を見上げると太陽が消え、星が空を覆っている。空を泳ぐ星の魚達が、神居の空を今日も輝かせていた。

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