【短編】No.4 世界が戻った影響の記録
「珊瑚〜、なんか俺変な夢見た気がするんだけど………って、どしたんお前」
赤歳家にお泊まりしていた珊瑚は起きて早々頭を抱え、それを色に見られる。
「…いや、なんか……忘れてる気がする…めちゃくちゃネタバレくらったような、とんでもない夢見た気がする…」
「えー?お前も〜?俺もバカンスで楽しんでる夢見たんだよなぁ」
「なんだその愉快な夢」
襖の前で腕を組んで悩む色に呆れた顔をしてしまう。同時に、俺も何か大切な夢を見ていた気がするのに、それがなんだったのか全く見当もつかない。
「まあ、いいや。それより朝ごはん、早よ食べに行くぞ」
「ああ、うん。わかった」
布団を片付けて軽く着替える。薄ピンクの髪の毛を整えて襖を開けた。
廊下に寝転がる色とりどりの狐たちを横目に踏まないように気をつけながら居間へと向かう。
何せ赤歳家はとにかく広い。何匹もの狐が居るだけはある。
「おはようございます」
「おはよー、珊瑚くん」
「ああ、おはよう」
色のお母さんが色とは似ても似つかない笑みを浮かべて料理を運んでいた。
同じく隣で食事を運ぶ幻治郎さんに、この人仕草だけ見たら本当に普通の人なのになぁ…と失礼なことを思う。
「手伝いますよ」
「わあ!ありがとう〜」
「助かる、数が多いから」
…狐のご飯も運んでるもんな、そりゃ多くもなる。
お盆に並べられたおあげを見て苦笑いを浮かべてしまう。
「珊瑚、何か夢でも見たかい」
「…はい」
──この人は何もかもを見透かしているような目で時々俺たちを見る。それは、前世の頃から、ずっとそうだった。
「そのうちわかるよ、その夢」
「…夢の守護者である俺より、幻治郎さんの方がいろんな夢に詳しそうですね」
「まさか、俺は専門じゃないからわからないことはわからないよ」
幻治郎さんがお盆を渡してから、俺を見た。
「でも、今回はまだ深く考える必要はない」
「…その時が来たら、教えてくれるんですね」
「いつも通りね」
「…今じゃない理由を聞いてもいいですか?」
「うーーーん、記録がズレるから、かなぁ」
「…なんもわからん」
幻治郎さんの答えに対して理解できたことはほとんどない。意味深なことを言うのに、後でそういうことだったのかーーなんでもっと早く言ってくれなかったんだー!でも助かったー!なんて事がよくあった…。
だから今回も同じようなものだとは思う、わかってはいる。ただ感情は別だ。わかっているから、納得できるものでもない。
「…一つだけ、教えてください」
「うん?」
「この、俺の記憶は前世が関係しますか」
「…お前の忘れてる前世に?」
「ええ、その大切な人の顔だけ、思い出せない前世です」
「さて、俺の知るところではないね…ただわかる事があるとしたら」
そこで区切った幻治郎さんはいつものように笑った。
「天使と恋の話だったよ」
「恋…」
それじゃあ、とお盆を配るのに専念するらしく色のお母さんの元へと向かった幻治郎さんの背中を見送りながらお盆を握る。
俺の、好きな子。
今も……好きな女の子。
今回の夢の件はその子が出てきていたのか…。
どうせ、叶わない夢なのに、どうしたって無理だと諦めているこの感情に対して夢というものは希望を見せようとしたんだな。
ため息をつきながら廊下を歩く。
告白をしようなんて思った事、一度もない。だって最初から叶わない夢なんだから。
「あーあ、虚しいな〜」
そうして呟いた言葉は青い空の中に消えていった。
青い空はどこまでも高かった。手を伸ばしても届かないものみたいに。




