第128神 正しいルート
──────ふ、と意識が浮上する。
「…あれ、」
見渡すと屋上の柵にもたれかかっている俺、横に立つ桃梛、地面に座る朝梨とるんが居た。桃梛も首を傾げる。
「んん、?」
俺たち、なんの話してたっけ?
そもそも、何か話してたか?
「俺たち何話してた?」
「ぼーっとしてるかと思えば…全く」
るんに怒られる。いやごめん、そりゃ怒るよなぁぼーっとしてたら。
いや、でも…
「前世の話だよ、覚えてないの?…ほら頭痛そうにしてたじゃんか」
ええ?前世…あ、産夢を書き換えた…って、…。
「蓮くん大丈夫?」
朝梨が心配そうに顔を覗く。
ドキッとしたが、なぜか同時に罪悪感が湧く。
…なにか、ピンクの髪の人…珊瑚さんか?に謝らないといけない気がする…なんでだ。
誰に対しての罪悪感かはわからないが、心の中で謝罪してしまう。
片手で押さえていた頭を緩く振り、ため息をつく。
「え、あーうん!大丈夫!」
なら良かった。なんて朝梨が笑う。
あれ、俺たちはさっきまで何してたんだ?
屋上で青い空を眺める。
同じ青を、見ていた気がするのに、なんだったか、わからない。
モヤモヤを抱えているのは俺だけではなかったらしい。
桃梛を見ると目が合う。
どうやらなにか言い切れない何かを抱えているようだった。
「……何かわかんないけどモヤモヤするー!」
「わかる!!わかるぞ桃梛!!」
俺と桃梛はわかり合っていたが朝梨とるんには伝わっていなかった。
悩んでいた桃梛が、あっ。と小さな声を上げて何かをゴソゴソと漁る。
「…そうだ、蓮くん」
「ん?」
「今日暇?一緒に遊ばない?」
「エッ急に?」
「…考えても無駄かもなぁと思って、伝えたい方優先しちゃった」
えへ。と照れたように話す桃梛が折り畳まれた紙を取り出す。
「いや、いいけど…なにそれ?」
見せてきたのは一枚のチラシ。チラシには妖精の絵が描かれていて一つ一つの項目に指を差している。
『赤雷で大型フリーマーケットあります!
ぜひ見に来てください!
妖精の粉から吸血鬼の牙まで売ってます』
るんと朝梨が立ち上がりチラシを覗き込む。
「なになにー?楽しそう〜」
「赤雷の方でフリマがあるらしくて…この間小梅さんにもらったの」
「ああ、戦闘課の…」
以前、妖精との戦いを終えた後確かに何か話してた。
「あちゃー、そっち方面なら私今日行けないや」
「私も今日行けないなぁ」
るんはガッカリしたように肩を落とし、朝梨は眉を下げて申し訳なさそうな顔をした。るんがこういう楽しいことについてこないなんて珍しい。
「そうなんだ?なんかあんの?」
「へへ、家の手伝い」
「ああ、温泉宿の…」
「神無名物、北城温泉!今度来てよね!」
「朝梨ちゃんは?」
「私はお母さんとご飯!」
満面の笑みを浮かべた朝梨に全員がほっこりしてしまう。あれからちょくちょくご飯を食べに行っているのだとか。よかったなぁ…。
「じゃあ蓮くんと、私と、龍牙の3人ね」
「あ、龍牙もいるんだ…じゃあ俺と桃梛で龍牙が何も拾わないように見ないとな」
「そうだね」
ほっといたらすぐに物を拾ってくる男の名は伊達じゃない。桃梛の顔が凛々しくなるくらいには、よくやらかしている。
「それじゃあまた、放課後!」
「…うん、放課後な!」
休み時間のチャイムが鳴った。慌てて下に降りながら、放課後のことを少し思いに馳せる。
前世。記録。赤雷。
──そういえばこの間王母から受けた、迷いの森も赤雷だった気がする…。
迷いの森に向かう天使の依頼は、独断で行っていいのか?
鷺沼さんにRIRINを入れておこう。
出したスマホの画面には鷺沼さんから『任務了解』と返ってきた文字が見える。
日付は6/29だった。
◆
──フリーマーケット、この国にもそれは存在する。
ただし、売ってる物はかなり特殊なものが多い。珍しく神無ではなく、赤雷に連れてこられた龍牙が目を輝かせてフリーマーケットを眺めていた。
「端から見て行くか!」
入口に一番近いテントから順番に覗いていく。洋服が売られていたり、食べ物が売られていたりと本当に様々な品物がある。龍牙が「あーー!」と声を上げて指を差す。
「あのお店、店員さん居ないけど大丈夫なわけ!?」
「あー…うん大丈夫ダイジョウブ」
龍牙の指さした先には妖怪の一つ目小僧さんがいた。笑って手を振っている。龍牙を指さして、自分の目玉を指差す動作のあと、バッテンを指で作っている様子から、おそらく龍牙が見えないことを察してくれているのだと思う。
龍牙の目で見えてない生き物たちはなかなか面白く、見えないのをいいことに龍牙の周り妖精が飛んだり、龍牙のポケットにどんぐりを詰める鎌鼬がいたり、エルフのおじさんが龍牙の首にネックレスをかけたりと遊ばれていた。
「ねえ、ここにいると俺だいぶ愉快になっていくんだけど何?なんで俺どんぐり詰められてんの??」
「後ろからどんぐり落としていくお前は面白かったよ」
「言えよ!俺のポケットにどんぐりがあること!誰!?詰めたの!後このネックレス何!?」
遊ばれる事実に対して怒るわけでもなく怖がるわけでもない、ただ新鮮に驚いてくれる龍牙が、どうやら楽しいらしい。
リンッ…と鈴の音が一つ聞こえてくる。妖精の声だ…。耳を澄ませてみると横から声が聞こえた。
"面白いネ、あの子"
"遊び甲斐がある!"
"楽しい〜"
喜ぶ妖精たちのお店の前で立ち止まった龍牙が並ぶ品物を見て首を傾げた。
「…妖精の粉ってなに?」
「キラキラしてるって意味じゃない?」
ふーん、とまた歩いて、ドワーフ特製のぬいぐるみ屋さんでまた立ち止まる。
龍牙は、不気味な貞子のぬいぐるみを指さしてキラキラした笑みで桃梛を見る。
「桃梛、あのぬいぐるみ、買ってやろうか?」
「ううん、大丈夫。龍牙はもっといいセンスがあるよ」
なんでお前それあげて喜ばれると思ったんだ…。
上手く彼氏を転がしながらフリマを練り歩く桃梛と俺たち。
ここは赤雷にある、天の原市。
──天に最も近い都市と呼ばれている。
「織物綺麗だなぁ」
「な、すごい」
商人たちが、売り捌く。前火雷が言っていたシラジラの鏡もある。この前消えたシラジラの予言を思い出してしまい、首を振る。
記録は写すとか、幻は神になるとか…曖昧すぎてもう考えることをやめたんだよなぁ…。
要は、妖精から妖怪までが多く存在しているがゆえに、売り物もそういったものが多いのだ。
「…それにしても今日俺、奢ってもらってよかったの?」
「いいって、今月なかなか稼いでんだよね」
バイトをしている龍牙はこうして太っ腹な一面を見せてくれる。
「…龍牙を連れてきたのはね、呪物の回収を依頼されたの」
「…え、誰に?」
「鷺沼さん」
「鷺沼さん?なんでまた桃梛と龍牙…」
「龍牙が呪物をよく拾うって話を改めてしたの、この前のぬいぐるみ見てから、
『赤雷のフリマに呪物が隠れてるという話を聞いたんだ…もしよければ、行ってみてくれないか?俺からの依頼ってことでお前たち二人分は俺が出すよ』
って言ってくれてね」
「太っ腹〜〜…」
なるほど、それでここに。確かに龍牙ならひょっこり何かを拾ってきそうだ。
…ああ、なんか満面の笑みで見つけてくれたらしい。
「これとかどうー!?」
小さな赤い宝石が一つ付いたネックレスを掲げている。
なかなかセンスはあるが…それはやはり呪われている。
「呪物はっけーん…」
遠い目をした桃梛に、俺は同情したのだった。
「一日歩いてみたけど何個あるんだよ呪物…」
「人の噂と手で作られるにしては多すぎるよ…!」
俺と桃梛は龍牙のセンサーのおかげで10個ほど買う羽目になった。
その龍牙は今トイレに行っている。俺たちは呪物を袋に入れながらため息をついた。
ピンポイントで呪物ばかり選ぶあの男、どうなってんだ。
フリーマーケットの道を歩く。左右に並ぶ店に陳列している品物はどれもフリーマーケットで売るには勿体無いほどの代物ばかりだ。
買い物袋を片手に歩きながら近寄ってくる龍牙を見ているとフッと頭の上に影ができる。
なんだ?なんの影だ?
同じく思ったのか、隣にいる桃梛と一緒に見上げた。
【"──訂正します】
感情のない、機械のような声。
【これは“正しい記録ではありません”】
頭に黄色の輪っかに白い服、羽の生えた人の身体。
──そして、黄色の首輪から白い光。
フリーマーケットが開催されている会場の中央に、本来いないはずの異物────天使がそこに浮かんでいた。
少しの既視感に襲われる。屋上で、ぼーっとしていたときのような、感覚。
桃梛が頭を抱え出す。
「桃梛、大丈夫か!?」
背中をさするが、目を強く瞑っている。
上から降ってくる無機質な天使の声が聞こえてくる。
【これこそが正しいルートです】
俺は天使を初めて見たはずなのに…。
いや、この天使とは何もかもが違ったような気もする。場所も、隣にいる人も、時間も。
宙に浮かんだ天使が、笑ったような気がした。
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