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守護の記録  作者: ツギハギ
天使編
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149/153

第120神 前世の記録

 朝、たくさんの不幸を浴びながら登校する。


「今日晴れてるなぁ」


 雨続きだったのが嘘のように晴れている。



 ────昼休み、青い空の下屋上に集まった。

柵に俺とるんが立ったまま話して、桃梛と朝梨は座って話す。

気になっていたことをこのメンバーになら聞いても大丈夫かな。と思い、聞くことにした。


「前世どんなのだったか、覚えてる?」

俺の言葉にるんが満面の笑みを浮かべる。


「前世?私は覚えてるよ〜」

「そうなんだ、俺覚えてないんだよなぁ…長い黒髪の青の眼を持つ男なら何度か夢に見たことあるけど」


 朝梨が「ええ!!?」と驚いた声を上げながら口元を両手で押さえた。


「それって、番人と戦ってる時に見せられたあの人が蓮くん!?え、じゃあ私が探してた人は蓮くんだったの!?」

「えっ、なになに??夢に出てくるのが前世なの????」


だって、アレはシオンさんが俺だけに見せたやつなんじゃなかったのか…?

困惑する俺の横でるんが笑う。


「そうだよ〜、夢の神様に映像の断片を見せられる」


てことはるん達にも見せてんのかあの神様。

というか…。


「朝梨、前世の俺となんかあった????」

「エッ………いや、」


 ふい、と顔を避けられる。

 何かを言いかけて、飲み込んだ。


 ──“言えないこと”がある、そんな感じだった。


「………もしかして俺、やばいやつだったとか?」


 パッとこちらを見て慌てる朝梨は頬が少し赤い。


「ち、違うの!違うんだよ!ただ…」

「…ただ?」


 「えーとぉ」とだんだん俯かせて顔を赤くする朝梨に、あれ…?と首を傾げていると桃梛とるんに制止された。


「ストーップ蓮くん、これ以上追い詰めないであげて…」

「そうだよ、流石に可哀想」

「えっ、これ俺が悪いの…?」


 思わず聞いた俺にるんが頷く。


「そうだよ」

「そうなんだ…」


 なら、納得するしかない。女の子には勝てない。


「えーと、じゃあ朝梨もふわっとしか覚えてない感じ?なんだ?」

「う、うん!そう!」

「へえ。桃梛は?」

「大きくなってからは覚えてるんだけど、生い立ちは忘れたんだよね。慧たちとどうやって出会ったのかは覚えてるんだけど…」

「…でも、誰に育てられたかまでは覚えてないんだぁ。その人の顔だけが真っ黒になっちゃうの…」

「ああ、わかる…俺もなんか神様とか女性?とかが出てくるけどみんな顔真っ黒だし色も白黒だからなんもわかんないんだよね」


 唯一完全に覚えていると言ったるんだけが笑って答えた。


「前世の記憶あるあるだねぇ。断片を見せられた後は、ちょっとずつ、名前、声、最後に顔が出てくるんだよ。それで、最後に前世の私と会話するの」

「前世の自分と?」

「そう!で、最後に前世の記憶と私の記憶を融合させて…今!って感じ」


 「──それでもやっぱり、今世も前世もいいこともあれば良くないこともあってさぁ…」


 少しじめっとした風が吹く、空の下。青い空を見上げて、るんは呟くように言って、苦いものを噛んだような顔で笑う。


「…うん」

「だから、まだ私は踏ん切りがつかない。前世でも、つかなかったみたいなの」


 その笑顔が、ほんの少しだけ歪む。


「──もう、一種の呪いだよ」


「…そっかぁ」

「──呪い、か」

 ぽつりと呟く。

 前世を思い出す事が、全て正しいわけではないのかもしれない。それが、自分自身を苦しめるというなら、なおさら思い出さない方が……誰かのためになるのかもしれない。

かもしれない、なんて曖昧な考えに笑ってしまう。


「……俺、思い出さない方がいいのかな」

「蓮くんはもう本当に覚えてないんだもんね」

「自分の姿だけはわかる感じ?」


るんが柵に腕を引っ掛けて言葉を投げかけてくる。


「そうなんだよ〜、夢で見たあいつがそうなら、見た目はわかる。言われてみれば火雷たちと関わってたし………あれ…」


 あの時は確か──七不思議での番人との戦いを思い出すように目を瞑る。


 "火雷、風伯"

 "ああ、輪廻の輪に戻るんだな"

 "守護者はその度に契約が解除できるように、極楽社のヴラド氏には伝えたから"


 何度も何度も夢で見た男だった。長い黒髪に、青の眼を持つ男。

 腰に刀を差して、風伯と火雷を庇って命が刈り取られそうになっていた、あの男。

 朝梨が、探している人は俺の前世だと言う。言われてみれば、番人戦で見た男と俺の夢の人物は同一人物と言ってもいいほど、姿形は同じだった。


 "俺たちは人間だからなぁ"


 ……であれば、俺の夢に出てくる男と、番人戦の男は俺の前世ということになるわけで……。

 記憶の中の男が冷静に呟いた。


「…膨大な記憶を抱えたままは無理」

「蓮くん?」


 頭を抱える。待て。…待ってくれ。

 桃梛の心配そうな声が耳に入らない。聞こえるのは、過去に番人との戦いで見せられたあの記憶の声。


「……運命の女神が死んだタイミングを利用しただけにすぎない…」

「……これは俺たち人間が何度だって尻拭いをしなきゃいけない。この世界の理を曲げたのは他でもない俺たちの願い」

「蓮くん、大丈夫?」


 るんが、慌てたように俺の肩を揺する。るんの手を片手で抑える。

 待って欲しい、整理させて欲しい。



──"あいつはまた戻ってくる。今度こそ、俺を殺しに。だから、組み込んだんだよ"


 汗が一つ額から頬にかけて落ちる。驚きと恐怖に瞳孔が開いていく。頭がガンガンと痛みを訴えてくる。喉からやっと出てきた声は掠れていた。

 番人戦で見た記憶と、自分の脳内で流れてくる男の声が重なる。


"俺たちは────が復活したら、同じ姿で転生するように()()()()()()()()()()()


「──俺が、」


 …産夢を、書き換えた…?

 番人との戦いでは産夢の書き換えの話までは出ていないはずだ。でも記憶の中の、セピア色で思い出される映像の男は確かに、そう口にした。

 番人との戦いですら、断片の一つだったとでも言うのか。

 守護者は、何度転生しても同じ姿を取る。何度だって、同じ人間たちと巡り会う。その仕組みを作ったのは、ハチスだ。


 ……なら。

 俺の前世は────ハチス……?


 自分の気づいた事実に衝撃が走る。髪の毛をグシャリと握る。


 あれ、待って、待って。

 だって、違う…待って、え、? 


「……っ」


 息が、うまく吸えない。


「蓮くん?」


 桃梛が心配そうにこちらを見る。わかってる、ごめん、でもちょっと、衝撃が。


「……そんなわけ…」


 他人の、空似の可能性だってある。

 ──風伯と火雷とあんなに親密にしてたのに?

 うるさい、じゃあ前世の俺が、何をしたって言うんだよ。

 ──あいつ、というのは影森のことじゃないのか?

 だから書き換えたって?とんだ絵空事だ。

 はぁ、はぁ、と息が切れる。胸が苦しくなる。

 ──気づかなきゃよかった。


「…蓮は、思い出さないほうがいいのかもしれないね」


 ふと、るんがそう呟いた。全てを思い出したと言っていた、るんは苦しそうに眉を寄せて俺の背中をさする。


「…俺は、とんでもないことを、」


 喉につっかえて、言葉が出てこない。掠れた声でやっとこさ出ても、否定の言葉。


「いや……」

 否定しようとしたが、色んな要素の絡まり具合に、どうしたって否定する事ができなかった。

「……」

 そうやって逃げていいのか…?


 わからない、わからなくなってしまった。 

 前は、関係ないと思ってたから、前世は前世!俺は俺!と言えたのに。

 今、知った事実に、点と点が繋がって、線になる可能性に、怖くなってきてしまった。


『蓮、大丈夫?』


 ふわりと火雷が出てくる。


「蓮くん、前世の話してたから…」

『前世の?なんでまた…』

「……気になって」

『気になるとすぐ行動するんだから…』


 困った子、と火雷に言われる。

 ああ、アルバートさんが何か言っていたはずだ、すごく大切なことを…。運命の女神が、なんちゃらって…!


 記憶の断片が少しずつ消えていく。


 くそ!何も、思い出せない!なんで…!


「…っ、思い出そうとすると、頭の中で、ぐちゃぐちゃに消えていく…っ」

「…消える?」

「わかんない…モヤがかかって、片隅から消えてく…俺は、っ」


 思い出したいのか…?

 わからない、ああ!

 ウゥーと俯き頭を掻きむしり、顔を上げる。



「ああー!めんどくせぇー!!」


 ビクッと3人が驚く。


 ごめん!驚かせて!


「やめる!一旦考えるのやめる!」


 るんと朝梨がホッとした顔をする。

 火雷も笑って頭を撫でてくる。


『よかった、あんまり無理して思い出そうとしなくていいからね』

「…いや、でも、そういうわけにはいかないじゃん…?」

『ゆっくりでいいんだよ』

「……わかった」



 静かに頷けば火雷は微笑んで、消えた。

るんが、気持ちを切り替えるように「あーあ!」と大きな声を出した。それがなんだか、気を紛らわせてくれたようで少し笑ってしまう。


「もう六月の下旬か〜そろそろ夏休みだなぁ」

「まだでしょ〜7月の後半からじゃん」


 るんたちの声を聞きながら、俺はゆっくりと柵に背をもたれる。


 この子達がいてよかった。


 俺は人知れず、息を吐いたのだった。

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