第118神 正しい記録
俺の前にライラ様、右横に花雨さん、左にアルバートさん。アルバートさんの横に火蜂さんが座っている。
花雨さんの右横に王妃様、蓮水様の順番で円になってソファに座っている。
錚々たるメンバー、なんならトップの会話に緊張してくる。
こんな中に俺がいていいのか…?しかしやってることはお茶会だ。
アルバートさんがケーキを一つ掴む。
一口で食べてから思い出したように口に出した。
「そういや、今日は幻治郎来れないってさ」
「へえ、なんでまた?」
王妃様が紅茶を渡しながら聞くと、アルバートさんは紅茶を受け取って、興味なさそうに答える。
「なんでも、人が死んでも死んでも、死なない区があったらしくて、俺たちより秩序を優先したよ」
「えー!私たちより秩序優先したのかぁ、幻治郎ってそういうところあるよねえ」
火蜂さんはショックを受けたように嘆き、王妃様は納得したように頷く。
「なら仕方ないな、代わりにアルバートに相手をしてもらおう」
げえ、と嫌そうな顔をしてアルバートさんが、俺を指さした。
「今日は蓮がいるんだから蓮に相手して貰えば良いじゃないか。ついでに王母が何か言いたいことでもあるんだろう?」
ライラ様は、アルバートさんからのパスに、食べていたケーキを慌てて飲み込んで、フォークをお皿に置く。
両手を膝に乗せて「んんっ」と咳払いをする。
「ま、まぁ、本当は明日言うつもりだったんだけどね、仕方ないわね…今から話そうかしら」
え、なんで???ここで??
いや、聞けるならありがたいけど。
首を傾げる俺の右から花雨さんがこそっと話しかけてくる。
「みんな年齢的にはおじいちゃんとおばあちゃんだから好き勝手話すの、許してあげてね」
その目線で神様を見たことがないのでその発想はなかった…という衝撃が一つと、花雨さんから見るとこの人たちって祖父母みたいなもんなんだ…という感想が一つ出てきたのだった。
「あ、初めましてからよね。…コホン。
私の名前は王母・ライラよ。ライラと呼んでちょうだい」
「よろしくお願いします、ライラさん」
「私は花雨です!初めまして!」
「え、花雨さん初めましてなんですか!?」
「このお茶会に私参加するの初めてだからね〜」
「えぇ…」
それでよく堂々と上層部に入ったなぁ…。
うん、と一つ頷いた王妃様が笑う。
「まぁ、花雨は可愛いから許そう」
「やった、かわいいから許された♡」
「花雨はかわいいもんねえ〜」
王妃様と火蜂さんに褒められる花雨さんは本当にそれはそれは可愛い笑みを浮かべる。
「そうなの〜、えへへ♡」
あざとい…この人あざといぞ…。両手を頬に持っていき首をかしげるように笑う。
本当にかわいい人がするから似合いすぎる。
ライラ様がしみじみと頷く。
「…確かに、かわいいわね…じゃなくて!…コホン」
咳払いをすることで話を遮るライラ様。
そうしてこちらを見る。
「実は赤雷にある、迷いの森で今異常が見られてるらしいの」
「ああ、あれね〜」
その話を聞いた蓮水さんが足を組み、紅茶を飲みながら困ったように眉を下げた。
「ただでさえ死者も迷い込むのに、今回は困ったことが起きててねえ」
「そうなのよ。私の天使達も困ってるの」
「君たちのところが?迷いの森とあんまり関係ないでしょ。普段出てこないくせに」
蓮水さんの呆れた顔にライラ様はため息をついた。
そうして、ライラ様は表情を引き締めた。
「関係ない、はずだったのよ」
ライラ様は静かに言葉を選ぶように続ける。
「でもね、あの森に入った人間も、神も……」
一瞬、言葉を区切る。
「“正しい最期”を迎え続けているらしいのよ」
「……は?」
部屋の空気が、一瞬で静まり返った。
咀嚼する音が止まり、アルバートさん達の視線が一気にライラ様へと移る。
ライラ様が紅茶を置いて、ため息をつく。
「何度でも、同じように死ぬのよ」
「助けても、逃がしても、違う道を選ばせても」
「必ず“記録通り”に戻るの」
「それの何が問題なんだい?」
アルバートさんがクッキーをかじりながら笑う。
「正しいならいいじゃないか」
ライラ様が少しだけ眉を寄せる。
「そうね、でも、"正しいから壊せない”のよ」
「それで?君のところの天使が関わってるのは?」
「私たち天使の役割はご存知よね?」
「花雨と蓮くんは知らないよ〜」
花雨さんが手を上げて、ライラ様に伝えれば、ライラ様は目を瞬く。花雨さんは頬杖をついてライラ様を見る。
「…む、そうね。仕方ないわねえ」
指をちょいっと丸を描くように動かしたライラ様が、空中に何かを出した。
「…天使だ」
「人形よ」
──いつぞやの、番人を彷彿とさせるので無意識に首を触ってしまう。
天使の人形が数体出てくる。
浮いている天使をスイっと右へ動かす。
「私たち、と言っても私は違うけどね」
「天使にも神と同じ権限があるのよ。恋のキューピット、聞いたことない?」
「あ!流石の俺でも聞いたことありますね!」
「え、蓮くんはよく知らない感じなんだ?」
「何も知らない男とよく言われてます」
「…ふふ。それじゃあやっぱりあの子は有名なのね」
ライラ様は微笑んで天使の人形の頭を撫でた。
「このように、天使にも恋を司る天使がいるの。神の意志を伝え、人を守護する役割を担うのよ。あなた達人と神の仲介人でもあるわね」
神様──として出された蓮水さんに天使達の人形がパクパクと口を開いて何かを伝え、人として出された俺と花雨に何かを伝える動きをする。
…なんか、俺たちに似てるなぁ。
「──守護者みたいな、感じなんですね」
俺の言葉に蓮水さんが笑う。
「確かに、君たち守護者と僕たち神の関係に似てるね」
「君たちと決定的に違うのはマガツヒを壊せないことと神と契約してることだね」
「天使はただあなた達、人に伝えるだけだものね」
「どちらかと言えば、神使とかシラジラに近いんじゃない?」
火蜂さんが笑いながらそうやって言う。
「あ〜、神使かぁ、梓とかね」
「そうそう〜」
ケラケラと笑う火蜂と蓮水さんに、梓さん…って誰かわからないが、なるほどなぁ。と納得する。
「ん?その天使と迷いの森と俺に話したかった話が繋がりませんよね?」
「そこは俺も思ったんだぞ、天使と迷いの森はギリわかるけど、蓮は関係ないんじゃないかい?」
「…これがつながるのよねえ」
「へえ、それはなんで?」
「迷いの森はそもそも死者も迷い込むような場所でしょ?」
「で、天使がそこに異常があるって発見したの、その結果」
「ああ、天使はこれが正義だと思ったらそこから動かないもんね」
「そう。しかも感染したみたいで…」
「マガツヒにですか!?」
「そうなのよねえ〜」
困ったように額に手を当ててため息をつくライラ様に蓮水さんが笑う。
「なるほどね」
「で、蓮、あなたと関係がある理由は一つよ」
蓮水さんから俺へと視線を向ける。ライラ様の水色と黄緑の混ざったような瞳が俺を見る。
「貴方達守護者は転生してるわよね、その中でも貴方の記録だけが少しおかしいの」
後ろの天使の人形がにっこりと笑ってこちらを見つめる。
「……いいえ、“おかしい”じゃないわね」
「あなたの存在が、記録を狂わせているのよ」
「…は?」
「だから、自分の目で見た方が早いんじゃないかと思って」
俺の存在が記録を狂わせる?どういうことだ?前世と何か関係があるのか?
俺が固まっている横で花雨さんが両手を合わせて楽しそうに跳ねた。
「へえ!花雨も行こうかなぁ」
花雨さんがキラキラした目でそうやって話すが、火蜂さんが笑う。
「花雨は政府を守ってる要じゃないか、ダメだよ」
「うぅ…守護者としてあんまり動いてないのはどうかと思うんだよね花雨」
しょんぼりと肩を落とす花雨さん。
「え、守護者なんですか!?」
「そうだよぉ〜、この前のトカゲが私の神様!
政府全体を守ってるの!政府は家だからね」
満面の笑みを浮かべる花雨さんに、王妃様が微笑む。
「私たちは君にいつも救われてるよ」
王妃様の言葉に花雨さんは変わらずキラっとした笑顔を見せて、王妃様に抱きつく。
「じゃあここにいる!」
「ああ、そうしてくれ」
──会話を戻すようにアルバートさんがライラ様を見る。
「────それで、蓮の記録がおかしいんだっけ?」
「そうよ。感染した天使がそれでバグってるのよ。だから守護者に私から依頼したいの」
「ライラが、守護者に、ねぇ…」
「意味深に呟かないでちょうだい。事実、私は伝えたいだけよ」
「…あの子を、助けてほしい」
ライラ様はギュッと裾を握って、俯く。
これは、守護者としての決断だ。
神無蓮としての依頼であり、守護者になって初めての選択。
「────わかりました、俺が助けます」
ライラ様の肩から、ふっと力が抜けた。
「ありがとう」
小さく笑ったその声に、アルバートさんが背もたれへ体を預ける。
「いやぁ、いい話し合いになったねえ」
「馬鹿ね。本題はまだよ」
「えー、もういいじゃないか。疲れたんだぞ」
「必要よ!いい、よく聞きなさい!」
バンっと机を叩いたライラ様はとんでもないことを叫んだ。
「天界の神様達が隠り世を観測したわ」
「おっと」
「へえ」
「ほう」
「ふーん」
神秘達はそれぞれ違う反応を見せる。俺と花雨さんだけが、その意味をまだ理解できずにいた




