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守護の記録  作者: ツギハギ
天使編
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146/153

第117神 集まるトップ層

 輝くシャンデリア、青いカーペットに、白い壁。

 充満する甘い匂い。

 クッキー、マカロン、ショートケーキ、プリン…。王道のお菓子から神居特有のお菓子までが机の上に並んでいる。

 俺の目の前には山積みになっていくお菓子。

 しなやかな白い手とゴツゴツとした男の人の大きな手がマカロンやら何やらを置いていく。


「これもお食べ」

「これも美味しいよ〜」


 花雨(かう)さんが火雷と風伯に向かって声をかければ、2人はあっさりと姿を表してソファに座っている。


「これもどうぞ、あ、神様もいる?」

『わ、ありがとう〜』

『悪いな』


 カチャカチャと食器の音やクッキーなどの焼き菓子の香り、目の前で浮いてカップに入れられる紅茶。

 魔法の世界だが、まぁ超能力者がいる神無でも割とよくある光景といえばそうだ。


「もう大丈夫です!」

「え?そう?」


 190はありそうな男の人が花柄のちょっと豪華なソファに縮こまって座っている。


「…え、と、火蜂(ひばち)さん?」

「うん、なぁに?」


 ふわふわと笑うこの人が、政府の一番上のトップらしい。


「こら、火蜂あまりお菓子をあげてはいけないよ」

「王妃だってあげてるくせに〜」


 白い髪の女性──王妃とブロンドの髪の男──火蜂が、笑う。


「…その耳って、エルフ耳ってやつですか?」

「そうだよ、私はエルフだよ、白刄に住んでるんだ。あっ、一人称が私だけど男だからね」

「いや見ればわかりますよ!その体格で男じゃなかったら逆になんなんですか…!」

「ふふ、でこの小さい方が、王妃。ティターニアって名前でね。聞いたことはないかい?妖精の声っていう童話」


 ブロンドの髪色をした火蜂さんと銀髪の王妃様を見る。妖精とはいうが、よく見ると王妃様も耳がエルフのように尖っている。


「え、あ、この前聞きました…え!?そのお姫様!?」

「残念ながら違うぞ。私はティル・ナ・ノーグ出身ではないんだ」

「…産夢で生まれたんですか?」

「ああ、アヴァロンはご存知かな?」

「ごめんなさい歴史には詳しくなくて」

「ふふ、構わないよ」


 王妃様は笑って、カップをお皿の上に置いた。長い耳に銀髪の髪をかける。


「産夢で生まれたんだけどね。美しいリンゴで名高い楽園があったのさ」

「私たちはフェイ、と呼ばれていた」

「フェイ…」

「『妖精』の意味を持つね」


 花雨さんが横で調べ始めて、スマホの中の文字を読む。


「かの有名な英雄の眠る地…だって…!英雄って誰?本当に居たの?」

「アーサー王だよ。…さて、どうだったか…居たかもしれないし、居なかったかもしれない」

「なんで急に濁すのーー?!」

「この世界では下手に口にしてしまうと生まれるからね」


 どういう理屈だ??よくわからないまま眺める。


「じゃあこの世界でその英雄は居ないんだ?」


 火蜂さんの言葉に王妃様が微笑んで頷く。…この世界に英雄は居ない。


「てことはこの歴史を知ってる人は王妃様だけなんですか?」

「そうだよ、今では私だけだな」

「えー、なんでなんで?」


 花雨さんが王妃様に詰め寄ると、王妃様は花雨さんの頭を撫でる。


「日本やイギリスでは有名な英雄だ。……それでも、この地に生まれる必要はないんだよ」


「英雄といわれたものたちは総じてただの人の子だった。いつしか巨大な力と戦い、勝ち上がることで人々を守った。それを讃えて英雄といわれる。

 ……であれば」 


 そこで区切った王妃様は微笑んだ。


「私はあの子達を呼びたいとは思わない。安らかに眠ってほしいからね」


 …神秘なりの、弔い方なのかもしれない。長く生きれば生きるほど、死とは程遠くなっていく神秘だからこそ、言えることなのかもしれない。

 この隠り世で、生まれないことを願われる英雄も珍しい。


「でも童話系の人たちはいるじゃん、アリスとか、シンデレラとか!」

「それは君たち人が口に出して語ったからね。生まれるさ」

「アーサー王?さんももしかしたら生まれるかも」

「その時は私は迎え入れるよ、もしかしたらもう生まれてるのかもしれないけどね」


 王妃様は楽しげに微笑んだ。当然、安らかに眠ってほしい気持ちもあるのだろうけど、生まれたならそれはそれでOK。なのが神秘達の考えのようだ。


「あ〜〜もう規格外すぎる…考えること放棄して良いかな俺…」

『なんとなくで聞いてたら良いんじゃない?私たちってそういう生き物だし』


 火雷に言われて、うーーーん。と腕を組む。

 紅茶を一口いただき、ため息を一つこぼす。

 王妃様が微笑み、人差し指を軽く回す。


「んぐ」


 クッキーが口の中に入る。甘い…抹茶の味だ。思いの外美味しい。


「ため息をこぼすと、不幸を好む悪魔が来るぞ」

「…んむむ…」


 ごくん、と飲み込む。


「…それは神居の諺ですか?」

「そうだよ」


 ふふッと微笑んだ王妃様は紅茶をカップに入れる。


「そういえば、今日のお茶会には、王母も来るよ」

「えっ珍しい〜」


 なんだ、なんだこの光景…。

 空中で注がれる紅茶、お菓子、お皿と、優雅にカップを飲む王妃様と火蜂さん。隣にいる花雨さんはマカロンを一つ食べながらきょとんとする。


「王母って、天使を育てたって人?」

「そうだよ」

「…え!?天使を育てた人って俺が今日会う人です」

「え?そうなのかい、ならちょうど良いじゃないか」


 王妃が笑いながら、紅茶を飲む。


「まぁ、確かに、ちょうど良いんですけど…」

「あと蓮水が来るよ」 

「蓮水…」


 文化祭で赤雷に居た人だ…。


「なんで蓮水さんが…?」

「ん?この国を統治してる神様だからだよ」

「え!?」


 王妃様が優雅に紅茶を飲みつつ、微笑む。

 神様だとは知ってたけど、統治!?


「あー、蓮水さん来るんだー!22歳になった時に髪留めくれた人」

「そうかぁ、もう4/6は過ぎたから22になったんだね花雨」

「うん」

「22!?大人ですね!?」

「!そう、花雨もう大人なの!うふふ」


 楽しそうに笑って話す花雨さんに、大人…とは?の気持ちになる。


「政府に住んでるから好き勝手してると思うけど、花雨…本当は私たちとこんなに普通は会えないんだよ」

「そうなの?だって生まれた時から居るんだもん〜」


 花が綻ぶような笑い方で笑う花雨さんに、ああ、政府生まれの人が居るんだ…と少し世界が広がって見える。


「…政府で生まれるってどういうことですか?」

「両親が政府の人でね、政府って広いから寮?家?があるんだよ〜!だから小さい頃から政府は私のお庭なの」

「…はぁ、なるほど〜…」


 火蜂さんもクッキーを手に取り、そういえば、と思い出したように笑う。


「幻治郎とアルバートも後で合流するってさ〜」

「は!???」


 なんで幻治郎さんもここに!?お茶会って、本当にお茶会なのか…?!


「……あの、本当にお茶会ですか?これ??というか俺ここに居て良いんですか?」

「え?居て良いよ、花雨だって居るし」

「じゃあなんで幻治郎さんが…?」

「私たちの相手をしてもらうためだよ」


 にっこりと嬉しそうに火蜂さんが笑う。


「失礼するわよ」


 軽快にヒールを鳴らしながら入ってきた、足まである長くて白い髪に、裾の長いスカートのような、漢服を着た女性が入ってきた。

 おでこにはなんらかの模様が描かれている。

 蜜柑のおかげか服に対する知識が増えてきたのは悲しい誤算だ…。


「あら…天日花雨…と

 ……神無蓮!?なんでここに!」


「へい、遅くなってごめんなんだぞ〜ってちょっと王母、君小さいんだからそんなところにいたら俺が踏み潰しちゃうんだぞ」

「なんですって?」


 王母と呼ばれた女性の後ろからアルバートさん、黒髪に青い目のこの前見た姿でやってくる。

 アルバートさんはどかっとソファに座りながら手前にあるクッキーを手に取って食べる。


「ごめーん、遅くなった〜……あれ、蓮だ」


 蓮水さんが中華服?で笑いながらくる。

 アルバートさんの横に座って落ち着いた。

 紅茶がふわりと浮いて、カップに注がれていく。


 俺は唖然と見上げる。騒ぐ上層部の神秘達の多さと、賑やかさに呆れ返ってしまった。

 …また俺は名前と肩書きを覚えなきゃいけないのか…。

 人の名前と肩書きを覚えるのって結構めんどくさいんだぞ〜!!

「…覚えられるかな俺…」

『覚えなくて良いんだよ、蓮』

『今後関わらないだろ多分』

「関わることだってあるかもじゃ〜〜ん…」


 ソファに座ったまま、俺は騒ぐ神秘達の声を聞きながら項垂れたのだった。


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