【短編】No.2 シラジラ様の記録
「シラジラ様」
神でもないのに、様をつける人々。
不思議だ。不思議な生き物達だ。
性別問わず、話を聞きにくる。
"予言など、無い"
「では占ってくださいな」
"……傲慢な"
「良いではありませんか。欲が無ければそれは寂しいものですよ」
神で言えば祭司のような、巫女のような女がいた。
他の人間や神秘が来るたびに女はいつも横にいた。
そうして占ってください、といつも言う。図々しい生き物だ。
"予言は、聞けるものが限られている"
「ざーんねん、じゃあシラジラ様、お話ししましょう」
"話すことなどない"
「私があるんです。ほら、花占いとか、年月占いとかあるんですって!私の誕生日は5月6日だからぁ…」
"当てにならぬ占いだ"
「良いんですよ、人はそれで楽しむんですから」
"…何が楽しいんだ"
「当たったかも、当たってないかも。そんなかもしれないを聞いたり見たりするのが面白いんですよ。当たってたら凄いなぁと思うだけです」
"意味のない"
「ふふ、ええ。そうです、我々はこの意味ない占いを見るのが楽しいんですよ。シラジラ様は?いつお生まれに?」
"…さて、500年ほど前だったか…"
「根の国史の中だと割と最近なんですねえ。いつ頃生まれたとかわかります?」
"わからない…暑い、季節だった"
「じゃあ勝手に決めちゃお、今日がちょうど7月6日なので、7月6日で!」
膝に置かれた本を片手にペラペラとページを捲っていく。
「7月6日の人はぁ〜………あっ、…ふふっ」
"どうした"
人は何かの本を膝に置いたままくすくすと笑う。そうしてこちらを見た。
「優れた嘘を見抜ける人、なんですって」
"…つまらんな"
「まあ!ひどい!…ふふっでも私は面白いと思うけどなぁ」
女は本を閉じてこちらを向いて、口角をあげ、目を細める。
「また、お話ししましょうね」
返事を返す前に女は去っていった。
またある時。祠の横に座っていると女が何かを片手に持ってやってくる。小走りできた女は、目が合うと、そうして嬉しそうに笑う。
「シラジラ様ー!シラジラ様ってお団子とか食べれます?」
"食べぬ"
「ずっとそこにいるじゃないですか…お腹空かないんですか?神秘でも神様とかは食べるのに」
"関係ない"
「なるほど…」
また次の日も来た。
「ならシラジラ様にこれを差し上げます。巫女特製、お守りです!首…どこですか?」
"…首などない"
「首にかけれるように持ってきたのに…」
手の上に乗せたお守りを眺める。女の寂しそうな顔を見て、白い毛を動かした。
ウゴウゴと動いた毛の一本が、手の上にあるお守りを取る。
受け取ったお守りを胸にしまう。
「そこに仕舞えるんですか!?」
"喧しい…"
「シラジラ様、顔も見えないんですもの、でもきっと目はありますよね」
"なぜそう思う"
「視線があったかいんです、あ、今目があった。っていうのがわかるので」
"…あったかい?"
何を言っているんだ、この人の子は。女は嬉しそうに目を細める。眩しい、太陽の光のような女は笑みを浮かべた。
「ふふ、私以外の人たちを見る目も、とっても暖かいですよ」
"わからないな"
「わからなくて結構です。私達だけがそれを知ってるんですから。シラジラ様は、この村の妖怪様ですもの」
"…人々がいつしか話して生まれただけだろう"
「それでも、それでもあなたがこうしてここにいるだけでも、幸せなんですよ」
"変な女だ"
「もう、そろそろ名前を覚えてくださいよ…私の名前は、寿 春、ですよ!また、お話ししましょうね!」
女はそう言って、去っていった。後ろ姿を眺める。春のような薄い桃色の長い髪とその身体が風に煽られて、足元がおぼつかなくなっている。1人で愉快な女だ。
何年も、何十年も、何千年もそこに居た。
雪が降る。日差しが熱くなる。木枯らしが揺れる。花が咲く。
女が来ることは一度としてなかった。
女の未来が視えていた。
生き物には皆、縁とオーラがある。色がついた、糸のような縁。真っ黒なオーラと真っ黒な糸は、どちらも死を表す。
あの一瞬、見えた予言で、女は人に殺されて命を落とす。
知っていた。わかっていた。
人は呆気なく命を落とす。
──予言が降ってくる。神が言った。
『運命の女神は生まれ変わっている』
…行かねば。
西城学園に伝えなければならない者たちがいる。
動くために起き上がる。覆われた家の中から見えた、女が座っていた席を、眺める。
────寂しいなぁ。
行き道で、感染した神秘に触れてしまったらしい。
予言が、狂う。
ああ、まずい。
ダメだ。
これだけは。
伝えなければならない。
黒い鳥を飛ばす。
人々が口に出し始めた。
もうすぐだ。私に触れる者がいる、お前はダメだ。触れるな。
ああ、お前だ。
青の目、黒の髪……お前だ。
あと1人、居る。すぐ近くにいる。
お前………あなた、は。
どうしてここにいるのですか。
ああ、でもあなたにも伝えなければならない。
教えます。全てを。
詳しく教えれたらよかったのに。
『────赤はすぐそこにある』
感染してしまう、予言が崩れる。まだ伝えたいことがあった。
まだ、まだなんだ。まだ後半の予言がある。
ああ、わからない。
運命は壊れる、運命は消える、運命は残る。残る?残らない。わからない、赤が白に、青が黒に。
"白は黒に歪む 黒はそこにあった"
ああ、ブレる。伝えなければ。伝えなければ。伝えなければ!!!!!
"あお、あお、あ……"
伝えた。
伝えれた…。
伝え切った。
ああ、予言は完成した。
世界が、崩れる…。
思考がほどける。
白も黒も。
赤も青も。
もう分からない。
……それでも。
人々よ。
私の予言を聞きなさい。




