第115神 記録は消える 記録は写す 記録はなくなる
服が埃や土に塗れているので各々制服の埃を落とす。るんはなぜか鼻血が出ていたので鼻血を拭いている。
「…そういや、全員ここによく集まれたなぁ」
俺がそう言うと、朝梨とるんと桃梛は顔を見合わせた。桃梛の隣にいるアルバートさんは欠伸をし、乙女さんは俺の横で「ほんまやなぁ」と呟く。桃梛はるん達の目を見た後、説明してくれる。
「私はアルバートさんが、北に居るよって言うから…」
「まあ、直感だけどね俺の」
「え!?あれ直感だったんですか!?めちゃくちゃ自信満々だったじゃないですか!!」
「良いだろー直感でも」
「るんは?」
「私は慧が索敵できるって言うから、やってみた!」
「すげぇ!!!」
「そしたら、蓮くんの後ろに白い影?がいたから、来たらなんか予言が始まってるっぽいし、マガツヒに感染し出すしで、何!?ってなっちゃった」
「あんなに場に適応した感じでいたのに…!?」
「空気は読めるんでね、私」
「私は玉さんと話してたんだよ〜なんの話してたか忘れちゃったけど…。でも玉さんが北に行くよって言うから、北に来たんだよねえ」
『まぁ外は危険やったきねえ』
「結局なんで外がダメだったのかわからないままだったや、何が危険だったの?」
『酸の雨が降る気配を感じたがちや』
「…海の神様だからわかったのか?」
『そのまんま外おったら今頃穴だらけやね』
「あっ、だから先に人を校舎に避難させてたの!?」
「え、朝梨が遅かった理由それ?」
『酸が降る前に校舎に入れたがじゃ』
「玉さんファインプレーすぎる」
見上げた校舎は黒く錆びていて、桃梛が作ってくれたキノコも穴だらけだ。防ぎきれなかったところから鉄筋が見えるほど溶けていた。
──溶けた校舎、倒れた生徒たち。
シラジラが終わった後、何をどう隠せばいいのかわからないまま日常はそのまま続いた。
なんじゃこれええ!と叫ぶ教師たちに、俺たちは目を逸らした。言ったって伝わらないし…。
放課後、また同じメンバーが集まる。
「なんか、修復とかできたらいいんだけどなぁ」
「神居の技術ならできんくないんちゃうかなぁ」
「……いや、おかしくない?」
朝梨が呟く。全員が朝梨の方を見た。
「だって、今までそこ気にしてこなったじゃん」
「気にならなかった…ね」
「それって、異界に巻き込まれたから、だよね?」
るんの言葉に朝梨が言葉を返す。それは、まるで。
「……今回は、異界じゃない…?」
呟くとアルバートさんが、ああ!と声を出した、
「……現実でマガツヒ化したってことか。だから雨が降ったんだね」
アルバートさんが、顎に手を置き。なるほどねぇ、と呟いた。
「だとしたら、これからのマガツヒには気をつけたほうがいいのかもしれないね」
楽しそうに笑うアルバートさんに、朝梨が頷く。
「はい。なので、シラジラの言葉がどういう意味なのかは分かりませんが、確かに運命は歪んできているのかもしれません」
「……運命が…」
乙女さんは言葉をポツリと呟く。
ふと、胸の奥がざわつく。
──赤はすぐそこにある。
あの言葉だけが、妙に頭に残っていた。
「報告はRIRINでする?」
「そのまま行けばいいじゃないか、俺も向こうに用があるしね」
「このメンバーで執務室に行くのは結構豪華な気がしますけど」
「あたしは早よ幻治郎さんとご飯食べんねん〜」
「いいね、俺も御相伴に預かろうかな」
「えぇ…アルバートも来るん…?」
嫌やなぁとどストレートに返す乙女さんに、特に何にも思ってないのかアルバートさんは笑う。
「いいじゃないか、たまには」
「まぁええかぁ」
「…私は塾があるからいけないや」
「私も家業があるや〜」
「桃梛とるんは無理か…朝梨は?」
「実はぁ、玉さんとご飯食べるから今日はこのまま玉さんと帰るんだよねえ」
『ワシが奢る』
自慢げな玉さんの声に朝梨のことをとっても可愛がっているおばあちゃんだなぁ…とほっこりする。
「じゃあ、俺は報告しに行こうかなー。乙女さんとアルバートさんも来るんですよね」
「いいよ。行こうじゃないか」
ガッとアルバートさんに捕まる。
……ん?
筋肉質な腕がしっかりとお腹に回る。身長も大して変わらない、体重だって最近増えた。にもかかわらず、アルバートさんはあっさりと俺の身体を抱き上げる。
横を見ると乙女さんも捕まっていた。顔はすでに死んでいる。
「飛ぶよ、蓮」
「飛ぶよ?」
「こういう時はな、諦めるんやで蓮」
「は?」
バサっと羽が広がる音。
「エッ」
ぎゃぁぁぁあ!
叫ぶ俺たちを下から安全圏にいる朝梨たちが手を振っていた。
めちゃくちゃ呑気に手を振る3人にとても恨みがましい気持ちが湧くものの、リアルロケットに俺は白目を剥いて気絶した。
◆◆
執務室に入ると鷺沼さんと漆黒さん、幻治郎さんがいた。
「おや、乙女おかえり。アルバートもか」
「ご相伴に預かりにきたんだぞ〜」
「呼んでないけど…」
アルバートさんと幻治郎さんが、会話してる横で、死んだ顔をしている俺と乙女さんを見て、鷺沼さんが心配そうな顔をしてくれる。
…なんて優しいんだ…。
「蓮はどうした?」
「……アルバートさんに運ばれてちょっとグロッキーです…」
「アルバート、運ぶ時もう少し丁寧にしろって言っただろ」
幻治郎さんがアルバートさんに話す。アルバートさんは「こっちの方が早いんだぞ」とか言い出す。
早いけどその分気力が持ってかれたんだけど?
「…報告に来ました。西城学園でシラジラが出ました」
「…シラジラ…!?」
「ほう。予言のシラジラか。珍しい」
俺の言葉に漆黒さんと鷺沼さんが関心を持った表情を見せる。幻治郎さんは、あの時点で何がいたのかわかっていたのだろう。特に驚いた反応を見せず、チラリとこちらに目を寄越した。
「…シラジラがマガツヒに感染しましてぇ…」
「そりゃまた…」
「予言は聞いたのか?」
鷺沼さんの、可哀想に…という目と、漆黒さんの実務的な会話に頷く。
「運命の女神は生まれ変わった。運命は再び綻び、秩序は更なる歪みを生む。赤はすぐそこにある」
「それだけやないやろ、多分後半で宗に向かって言うてたやつもそうや」
「…宗?」
「影森です…あ、同じ高校のやつでして…」
「ちなみに内容は?」
俺と乙女さんは顔を見合わせる。
「なんだっけ…えっと、白は黒に歪む、黒はそこにあった。
黒い目に映るのは青。夢は産まれ、幻は神となる」
「記録は消える。記録は写す。記録はなくなる。愛は歪み、支配は内へ」
「未来は暗く?蒼。で終わりましたよね」
「せやねん〜そこで終わったんや…」
「でもあれ、マガツヒに感染してたじゃないですか」
「せやけど声は白シラジラやった!」
「ええ〜…?じゃあ全部本物?」
漆黒さんが俺たちに問う。
「君達が聞いたのか」
「はい。なんで俺たちだったのかはわかんないですけど…」
俺の言葉に漆黒さんは静かに顎に手を置く。
幻治郎さんは腕を組んだ。
「…どうしたんですか?」
「いいや、なんでもないよ」
幻治郎さんはそれだけを言うと今度は乙女さんを見る。
待ってました!と言わんばかりに乙女さんが満面の笑顔を向けた。
「幻治郎さん!ご飯食べ行こ」
「うん、いこうか。蓮もくる?」
「行きたいですけど、今日はお母さんがご飯作ってるのでそのまま帰ります〜」
「了解」
「あっ、そうだ蓮」
「はい?」
鷺沼さんに呼ばれる。横に行くと、耳を貸せと言われたので貸す。
なんだなんだ?
「明日、暇があったらまた政府に来て欲しい」
「お前に会いたいって言う人がいるんだ」
「…俺に?」
漆黒さんが言葉を続ける。
「この世界の天使を育てていた方だ」
「……悪魔が居るのに、天使がいないわけ、ないよなぁ…」
「まぁ、そういうことだ。じゃあ、また」
「…はい、わかりました…」
「それじゃあ、また!」
乙女さんと幻治郎さん、アルバートさんが連れ立ってご飯に向かう。俺は鳥居へと入っていった。
俺は知らなかった。
──あの予言が、まだ“始まってすらいない”ことを。
正しくは、始まっているものといないものが、あることを。
明日は断片を三本投稿しますね。
断片祭りなので、7時、12時、17時です!
本編はその後22時に通常通り投稿します〜!




