第114神 夢は生まれ 幻は神となる
影森を見たシラジラはウゴウゴとした後黒い鳥を勢いよく吐き出した。
吐き出した鳥は次の瞬間、白く染まり、魚の形になる。
白い魚たちが一斉に俺たちに向かって飛んでくる。
「鳥が魚になったぁ!!?」
「いややー!気持ち悪いー!」
白い魚たちは一つの塊となり、白の球となる。
穴がぽっかりと空き、身体がずるずると引っ張られていく。
「吸い込まれるぅ!」
「…っ、何これぇ!」
「魚が吸い込むってなんだよぉぉ!」
何故か微動だにしてないアルバートさん。
その横で俺たちは桃梛の作った屋根にしがみつく。
「本来のシラジラは鳥が人に混ざる…というよりは入り込んでいたよね?ということはその逆で吸い込んでるんじゃないのかい?」
アルバートさんが名推理を得た!と言って、こんな状況で場違いにも笑っている。
「そんな安直なぁ!」
「マガツヒに感染する奴らなんてみんな、安直に決まってるじゃないか」
影森がチッと舌打ちをして、俺たちに視線を向けた後、首元に手を当てた。
【我、影森の名の下に告げる】
まさか、助けてくれるのか…!?
というか、さっき守護神の気配がしないって火雷は言ってたのに、なんで詠唱ができるんだ!?
影森が吸い込まれそうになっている俺たちに近づく。
知らない声が、聞こえてきた。
「──影森」
パッと影森が、声の方を見る。
俺たちもまた吸い込まれそうになりながら声の方に視線を向けた。
…なんだ、人…?
階段の下、黒い陰で姿が見えにくい。身長が高いことはわかるが…。
「…お前、なんでここに…」
影森の言葉に笑った気配と共に影森を大きな黒いマント…まるで、吸血鬼のマントのようなもので、隠した。
「まだ、早いんですよ、答えに辿り着くには」
シラジラに向かって何かを投げた。
"ぎぃぁぁぁあぃぃぃぃいいいい"
人の声でもない、音とも言えない、そんなコエをあげてシラジラが絶叫した。
同時に吸い込むのが止まり、俺の身体は地面に落ちる。
「飛ばされてたら攻撃できないから助かる〜!」
「マガツヒは!?」
るんが笑いながら扇子を構えて、俺はシラジラを見た。
動ける体になって真っ先に確認したのはマガツヒの在処。
マガツヒの光がシラジラの毛で覆われた中にあることに気づく。
「──これは…」
刺さっていたのはただのバラ。
桃梛が作った屋根から一つとったものだと気づく。
パキン、と音がなり、マガツヒが割れる。
──シラジラ様、予言をしてくださいな。
──………。
──手鏡で見てくれるんでしょう?
──?
──ふふ、シラジラ様!
女性や男性がシラジラの周りに来る。慕われていたらしい、シラジラは毛に覆われていてなお人間達を見ていた。
ただ、愛おしい気持ちを抱えて。
真っ黒だったシラジラが、じわじわと白くなっていく。
男が影森を連れて、影に溶け込もうとし始めていることに気づき、呼び止める。
「…まて!お前何者なんだ…!」
「宗連れてどこ行くねん、あんた!」
俺と乙女さんの言葉を無視して、ふわりと男は影森を連れて消えてしまった。
俺たちの目の前で今もなおいるシラジラの身体が完全に白くなる。
"運命、運命の女神、生まれた。運命は歪み変わる、秩序は、戻らない"
そのシラジラに視線を向けた乙女さんが、ぶつぶつとまだつぶやくシラジラの前まで歩く。
「ちゃう」
乙女さんはシラジラを見下ろす。
赤い目が、静かに光る。
「運命は変わらへん」
乙女さんは自分のスカートを握り、少しだけ声が震える。
「……あんた見とると、縁がぐちゃぐちゃや」
シラジラが頭を上げる。乙女さんと視線が合っているのだろうか、シラジラに向かって告げた。
「ぐっちゃぐちゃの縁ほど醜いもんはない。あんたの予言通りにはいかへんから!」
「予言がなんかわからんけどなぁ!お前の予言が当たったかて、あたしらは起きた未来を変えられるんやからな!!」
「人間舐めとんとちゃうぞ!」
シラジラが、乙女さんの言葉に…なのか。それとも、マガツヒから解放されたからか、今までで1番高い声をあげて言葉を繰り返した。
"きえ、きえきえきえ、きえ"
バグったような言葉しか話さなくなったシラジラは、乙女さんをもう一度見る。
"──────あなた、が!"
その言葉を最後に、今度こそ静かに霧のように、消えていった。
「あたしがなんやねん!」
「あたしの平穏な時間を返せ!今日のご飯食いっぱぐれるやろが!」
「そこ!?」
思わず反応してしまった俺の言葉に乙女さんは悔しそうな声をあげた。
「当たり前やろー!あたしが1番気にしてんのはそこしかないわ!」
乙女さんの横で呆れる俺。
アルバートさんが、俺の後ろでため息をついて腰に両手を当てる。
「えー、殴ってもなんの反応もなかったから、不完全燃焼感があるんだぞ〜」
「私もなんか色々考えたのになんか全部忘れちゃったぁ」
アルバートさんと朝梨が何やら言っている。
「…私が作ったこの概念のバラでマガツヒ壊せるんだなぁ」
「こんだけの量作れるなら壊し放題だよマガツヒ」
「しかも他人を介せば壊せるなら守護者は量産するだけで良いのでは…?」
「あの黒マントが神様なのかもしれないよ」
「神様と人は壊せるもんね一応」
場にそぐわない桃梛とるんの2人の呑気な会話にも肩を落とす。
わいわいと話すみんなの声を聞きながら、しゃがむ。
気になっていた。シラジラは、予言をくれた直後にマガツヒに感染したが、本当に予言は当たるのか。
「…あの予言は当たるのかな」
ポツリと呟いた俺の言葉は、静かに足の間に落ちる。
みんなは後ろでわいわいと話している。
予言にしてはやけに抽象的で、わかりにくいものが多かった。はっきりしていないからこそ何通りもの解釈ができてしまう。
色に関することが多いのも、何か意味があるのか?
隣から火雷の声が聞こえてくる。
『当たるよ』
「…火雷?」
『シラジラの予言は絶対。もしも当たらないんだとしたら』
『その時は未来が変わった時なんだろうね』
静かな声で火雷はそう言った。そうか。
「……じゃあ」
「変えればいいんだな」
俺はみんながわいわいしているのを見る。これは俺にとっても平和な光景だ。
これを守るために俺はここにいるんだ。
俺たちは、運命を変えられるかもしれない。
そんな希望を、この時確かに握っていた。




