第110神 運命は再び綻び 秩序は更なる歪みを生む
シラジラ。
赤雷方面にいる、妖怪。
手鏡を使って、予言をする妖怪で見た目は白く毛むくじゃらの生き物。
『…見た目は白い影みたいな塊なの、能力は黒い影の塊なんだけど』
「ちょうどこんな感じの?」
『そう。予言は外れたことがないの』
指を差した先にある黒い塊を突く。
『私たち神のお告げを聞いて、人に言い伝える』
「…てことは、この『運命の女神は生まれている』が予言になるんか?」
『うーん、どうだろ、まだ正しい予言じゃないのかも。人を洗脳して、人へ人へと伝染させて最後に、“本当に伝えるべき相手”に届くように、噂を広げていく妖怪だよ』
「…なんて傍迷惑な…」
「洗脳された人はどうなるん?」
『普通は影が抜けるの。こんなふうに塊になることも本当はない…もしかしたら』
「マガツヒの可能性が、ある!?」
であれば、どうにかできる道筋があるはずだ。希望が見えたことで声が弾んでしまう。同じ結論にまで至った乙女さんがニッコニコの笑みを浮かべる。
「ほんならやっぱ守護者の出番やな、頼りにしてんで〜ヒーロー」
「いやいや、でも本体がどこにいるか…」
腕を組んで悩んでいたが、ふと乙女さんの所属先を思い出す。
「…というか、なんで乙女さん呪術課なのに知らないんですか」
「あたし名前だけの所属やからな!縁しか見えん雑魚や雑魚!」
「え、超邪魔者じゃないですか」
「なんやと!!!」
「自分で同じようなこと言ってたくせに怒らないでください…」
俺たちのやりとりを、火雷は懐かしそうに、目を細めて笑う。
『シラジラはね、“預言を受け取る人”の前にしか現れないって言われてて』
「…ん?てことはやっぱまだ断片の可能性がある?」
『そうだね。シラジラの予言は、本当に伝えるべき相手に届いた時だけ、“完成する”から』
ふーむと乙女さんと俺は悩む。となると、やっぱりシラジラが目の前に現れた時に倒すしかない。でも、預言を受け取る人の前にしか現れない…。
「結構難易度高くね…?」
「予言する人の前にしか現れんのやったらだいぶ運ゲーな気いすんねんけど」
「いや、ほんとに」
『…預言を受け取る人と神様には影の洗脳が効かないはずだよ』
「……じゃあ、俺たち守護者、か」
チラリと乙女さんを見て乙女さんも驚く。
「………あたし!?」
「の可能性ですよねえ」
「興味ないんやけど!?」
「まあソレはソレですよ」
「うへー、幻治郎さんに連絡しよかなぁ」
「…なんで幻治郎さん??」
「今日ご飯食べよーって話しててんけどこれ長くなるやろー」
はぁ、とため息をつきながら幻治郎さんへとぽちぽちスマホで電話をかけ出す乙女さん。
『はいもしもし』
「幻治郎さぁん〜」
『あー…わかった乙女巻き込まれたな』
「せやねぇん!!」
泣きべそをかく乙女さんとその隙間から聞こえる幻治郎さんの声。
「西城学園はおしまいや…あたしはもうここで死ぬんや…」
『何を言ってるんだか…そこに蓮もいるんだろう』
「ぎゃっ、見えてる!?」
思わず周囲を見回す。
声を上げると幻治郎さんは当然のように返す。
『さて、どうだろうね。…ご飯はいくらでも待っててやるから早く解決しておいで』
「そんなん言われても運ゲーやもん!無理や!幻治郎さん助けてえ〜!」
『こら、俺が解決したら意味ないだろ。それに乙女は運がいいから大丈夫』
「いっつもそう言う〜!あたしには無理〜!」
『蓮たちがいるなら大丈夫、ちゃんと解決する』
「せえへん、無理。怖い、神様怖い』
ボロボロと泣きながら幻治郎さんに向かって泣き言を言う乙女さんに幻治郎さんは息を吐く。
パッと目の前に幻治郎さんが現れる。
「うわぁ!!」
俺が驚いて尻餅をつく横で、乙女さんは来ることがわかっていたのか、幻治郎さんが来たことに大した驚きもなく、嬉しそうに笑った。模様のない赤紫の羽織を肩にかけて、幻治郎さんはそこに居た。おそらく、休日だったのだろう、いつもよりラフな白いワイシャツに黒のスラックスを履いている。
「全く」
「幻治郎さぁん!!」
幻治郎さんに泣きながら抱きつく乙女さんに幻治郎さんは自分の和服が濡れるのも気にしてないのか、乙女さんの頭を撫でて、俺をみる。
「今回は即死案件じゃないよ」
「関係ないやんー!」
「関係あるんだよ、君も、蓮も」
「嫌や〜このままあたしも帰る〜!」
「ダメ、授業は受けて帰りなさい。蓮」
娘と父親のような会話をした幻治郎さんはこちらをみる。
「あ、はい!」
慌てて立ち上がり、幻治郎さんを見返すと、赤い目が俺を射抜く。
「影をよく見なさい」
「…影を?」
一つ頷いた幻治郎さんは、頭上にある黒い液体を触る。バチンッ、と音が響く。
まるで意思を持つみたいに、影が幻治郎さんの手を弾いた。
「うん、俺には反抗するね」
「…は、反抗!?」
『そんなの聞いたことないよ幻治郎』
「まあそうでしょうね。ちょっとこの妖怪とは相容れないだけですよ。
ほーら、乙女今回はお前も活躍するんだから頑張れ」
「いやや、がんばれん。神様ばっかおるもん」
グリグリと幻治郎さんのお腹に抱きついたまま嫌がる乙女さんに幻治郎さんは困ったなぁと口にする。顔は全く困ってない、真顔だ。
「…うん、よしわかった。乙女」
「うぅ…なんや」
「お前の言うことを一つだけ聞いてあげる」
「…!なに?なんでもええの?幻治郎さん長生きして死なんといてとかでもええの?」
「ソレはダメ、いつかは人は死ぬから」
「ケチ!…でもわかった、あたしが頑張ったら言うこと聞いてくれるんやな?」
「うん、聞いてあげる」
「よぉし、ほんなら、考えとく!がんばる!」
幻治郎さんから手を離して両手をグッと握りながら意気込む乙女さん。
うんうんと頷いた幻治郎さんは、俺の頭もポンっと撫でた。
「蓮、君と乙女が今回は多く関わってるはずだ。よく見て、よく考えなさい。君の違和感を信じるといい」
「…それは、あなたは答えを知ってるんですね」
思わず呟くと幻治郎さんは目を細めた。
「いいや。シラジラの特徴を俺は知ってるだけだ」
それは答えと同じじゃないのか?
そう思いつつも、深入りしない方向を選ぶことにする。
幻治郎さんは乙女さんを見て、微笑む。
「それじゃあ帰るからね俺」
「あぁ〜〜嫌やぁ帰らんとってぇ…」
「願い?」
「ちゃうぅぅうう…!…ちゃうけどぉおお…」
乙女さんの葛藤する声にフッと笑ったあと幻治郎さんは俺を見て乙女さんをみる。
「またあとでね乙女」
一瞬の静寂後、幻治郎さんが消える。
「じゃあ、シラジラを探しましょう!」
「…せやな。よし、蓮、お前があたしの盾や!」
「盾にするのは良いですけど頑張ってくださいよ!?」
「わかっとるわかっとる」
「足子鹿のように震えてますけど!?」
うっさいなぁ!と叫ぶ乙女さんを連れて歩く。
天井に埋め尽くされていく黒い影に気持ち悪さを感じる。
「…今ここは北校舎の2階なので、3階に上がりますか」
「他の校舎は?」
「朝梨と桃梛とるんがそれぞれ南、西、東に行ってくれてるんです」
「なるほどなぁ…ほんなら3階に行こか!」
こうして俺たちは三階に向かうことにした。




