【短編】 No.5 希望を待つ妖精の記録
「今日も子どもたちと遊ぶの?」
「まあね!迷い込んできた子どもたちを導くのも妖精の仕事さ!」
ここは緑高にあるキノコお家。妖精たちの住む住処の一つだ。
鈴の音を鳴らして飛び回るホープに呆れる。
「じゃあ私も後で行こうかなー」
「アリアナも来るの?聖なる女の子が来るなら嬉しいな」
「人の名前バカにしてるの?」
「してないよ!僕は尊敬の意味を込めて言ってるんだ」
「どうだか」
アリアナの家にお昼になるといつも遊びに来るホープは、今日はどこで遊ぶか、子どもとここで遊んだとなぜか報告に来る。なんだかんだとアリアナと話すのも好きなおしゃべり好きの男の子なのである。
ふん、と顔を横に向けると自分の桃色の髪の毛が目に入る。桃色はよくある髪の色だ。
ティル・ナ・ノーグに出てくるお姫様のようなブロンドの髪が良かった。
そう思いながら髪の毛を触っているとホープが笑う。
「なんだ、君まだ気にしてるの?」
「…何よ、悪い?」
「全然悪くないよ。でも気にしすぎじゃない?充分桜とかコスモスみたいで綺麗なのに」
ホープがそんなことを言うなんて!!
明日は貝殻でも降るのかしら!
「そんな驚かなくて良いだろー!僕だって成長したってこと」
ふふん、と腕を組んで自慢げにしているホープをジロジロと見てしまう。
…そっか、成長、ねぇ。
「その成長したホープは子どもと遊ぶんだものね」
「子どもは希望だからね。自由に走り回る子どもたちが僕は大好きなんだ。人間の子どもは飛べないのに、走る力がある……あんなに眩しい塊は無いよ!」
「本当に大好きなのねえ」
「もちろん!大好きじゃなかったら遊ばないよ…あ、まずい!そろそろ行かないと怒られる!」
「誰に?」
「子どもたちに!この前遅れて行ったら怒られたんだよ!待ってたのにって!そんなこと言われたら早く行かなきゃって思うだろ」
アリアナのキノコのお家の扉を開いて羽を広げる。
昔はなかった羽。
今や、産夢から生まれるたびに必ずついてくるようになった妖精の羽は今日も粉を散らして輝かせている。
「キラキラしてるわね羽」
私のよりもずっと綺麗。
呟くとホープは振り向いて笑う。
「だって僕は希望のホープだからね」
「それじゃあ、また後でねアリアナ!」
「はいはい」
今日はかわいらしく、ホープが褒めてくれた桃色のお花でできたドレスでも着ていこうかな。と反射するガラスの前でドレスを手に取る。
「ふふっ」
私も支度しよ!
ねえ。
どうして。
「ホープ!!だめ、だめよ!!食べたらダメ!」
わからない。どうして食べてるの。
血だらけになった紫の髪の毛の大きな妖精。服装からして、多分ホープだ。
目は窪んでいて、声は耳を塞ぎたくなるような雑音。
どうして、なんでこんな姿なの。
近づきたくても怖くて近づけない。
くちゃくちゃと音を鳴らして子どもを食べるその姿はまさしく化け物だった。
近寄ってきた妖怪たちがホープの食べ散らかした残りの子どもを食べにくる。
ああ、嫌だ。
嫌だ。
やめてよ。
誰か。
誰か助けて!あの子を!あの子を助けて!!
赤が舞った。
戦闘課だ。政府が来てくれた。守護者もいる。
マガツヒに感染…?
木に隠れて様子を見ていると、他の妖精の仲間たちも心配だったのか見にくる。
異界に入ってしまったから外からじゃ何もわからない。
でも…。
でも、
守護者が来てくれたから。
ホープは、助かるんだろうな…と。それだけは確信を持って思えた。
祈るように手を合わせる。
お願い、あの子を傷つけないで。
あの子はただ、子どもが大好きなだけなの。
黒く澱んでいた空が晴れる。
ああ。
────地獄は、ようやく終わったのだ。




