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守護の記録  作者: ツギハギ
神居政府・妖精編 後半
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第99神 情報の合流

 城壁の中、端に固まる子どもの横で、手当てをされてなお立ちあがろうとする赤道を立夏が抑え込む。


「ばか、うごくなって!」

「でも…守護者の子だけに任せるわけには…!」

「鳩尾やられてるお前が動いたら傷が広がるだろ!」

「ほんとだよ病人は寝てろ!!」


 竜胆と立夏からのお怒りを受けて渋々とその場に座った赤道の周りにわらわらと子供達が集まってくる。


「お兄ちゃん痛い?大丈夫?」

「お怪我したら座ってないとダメってママが言ってたよ」


 先程まで泣いていたのにこの空間に少しずつ慣れてきたのか話出した子どもに立夏達は少し笑みを浮かべた。



 朝梨(あさり)はそんな和やかに話す全員を守るように前に立ち城壁の外を睨む。窓の隙間を狙うようにして飛んでくる斬撃を短刀で弾く。

「ほんっとに、しつこい!」


 カンッ


 弾いた斬撃を上空へと飛ばす。正面に向かって返してしまうと壁が壊れるため、軌道を毎回ずらしている。






 リンッ



 鈴の音は正面から聞こえてきた。





 side桃梛(ももな)


「────子どもが5人、吊るされてる」


 ──一方、最初に到着した迷いの森にいる、桃梛ももな、るん、海棠の3人は妖精の衝撃波を避けた先に系はないのに、吊るされた子ども達を発見していた。


 桃梛ももなの言葉に、るんは、丸く開いている穴の先を見て、子供の胸が上下しているのを確認する。


(まだ、生きてる)


 未だ衝撃から抜け出せていない桃梛ももなに声を張り上げる。


「生きてるよ!」


 るんの声に固まっていた身体が動いたのか走りながら桃梛ももなは答える。


「!私が助ける!るんちゃん!」

「はいよおー!」


 子どもたちの救出に向かう桃梛ももなを横目に、両腕をクロスするように重ね、両手を握り、るんは笑う。

 ひしゃげた木に、澱んだ空、目の前には甲高い声を上げる、妖精の群。

 一体の妖精が分裂し20にも増えてしまった。


 その群れを見渡すと、一体だけ顔が歪んでいるのが目に入り、アレが本体だとわかる。

 自分の隠していた宝物を見られてキレているようだ。


「我、るんの名の下に告げる。」


 両手を広げ、掌にある契印がオレンジと黄緑で描かれた蛇が見える。


「水面を揺らし、黒い大蛇となる。」


 るんの足元に水たまりが生まれる。

広げた両手を上に掲げるようにあげれば草しか生えていないその足元から、黒く大きな蛇が空に向かって飛ぶように出てくる。


「大蛇に繁栄を。水に無限の可能性を!」


 両掌にある契印がオレンジと黄緑の光りを伴い、閉じた扇子が二つ現れる。現れた扇子を握りしめて両腕を顔の前で交差する。


「我が魂に宿り、水神────(さと)の力を招き入れん。

 (さと)、私に力を託して!」

『いいわよ』


 ふわりとるんの周りに丸くて小さな水の塊が何個も舞うように生まれてくる。

 その小さな塊の中には花の種が浮かんでいた。


「花鳥風水、水源無限!」


 交差した腕をゆっくりと開く。

両手の扇子が舞う水を裂くように、水の膜に覆われた花が一斉に咲いた。


「そぉら、いってらっしゃーい!」


 二つの扇子で風を仰ぐように身体を捻って、扇子を前に突き出した。

 咲いた花は妖精へと鋭く飛ぶ。

数十体もの身体を蜂の巣のように貫き、一体、また一体と泡へ変えていく。

最後の一体だけが呻くような悲鳴を上げた


【☆*→・♪€¥+°÷>☆○○!!!】


 なんらかの言葉を叫んでいる、まあ悲鳴と捉えていいだろう。


「死ぬには、まだ早いんじゃない?妖精さん」



 るんが攻撃をしているのを確認した桃梛ももなは、丸く開いた穴に向かう。

 るん達が戦っている先から4メートルしか離れていないその距離にある、丸く開いた穴に今、吊るされた子どもたちがいた。

 しかし、下は黒く先が見えない──奈落だ。


「……子ども達の足場もないのにどうやって吊るしてるんだろう…」


 穴のギリギリで止まり、下を見る。

 その辺にある小石を投げてみるが、なんの音もしないことから、この中に入ることは危険であることが判断できた。


「…手は…届かないよね、3メートルくらいあるし…」


 伸ばしても届かないことは明らかだった。どうにかしてでも、彼らを救わなければならない。


「…美夜(みや)さん、いける?」

『ええ、命令してくださいな、桃梛ももな


「我、桃梛ももなの名の下に告げる」


 背中に向かって右腕を回す。


「人に愛を、愛には美を、美しさは罪なり。」


 呻く子どもの声に桃梛ももなは少しだけ微笑む。


「待っててね、すぐに行くから」


「──人類は、愛される存在。美は、全てに通ずる」


 桃色の光が桃梛ももなの背中を照らす。

 その視線は、子どもたちに向けられたまま、詠唱を続けた。



「私に美しさをちょうだい。…美夜(みや)さん」


 刀を抜くように右腕を上へ引く。

 淡い桃色の光とともに、一振りの刀がその手に現れた。


『お任せください、桃梛ももな


 刀を構え、穴の縁から子どもたちへ向かって袈裟斬りに振り抜く。

 放たれた斬撃は、穴の縁から子どもが吊るされた間に向かって飛ばされる。

 飛んだ斬撃が形を変えていく。


「これは、美しいんじゃない?」

『ええ!綺麗です!美しい!』


 形を変えて、赤い薔薇が敷き詰められたような橋が、子どもたちに向かって架けられた。


美夜(みや)さん、ほんとにすごいねこの能力」

『──私は愛と美そのものですから』


「だからこうして薔薇の橋も作れるんだもんね…」

『ええ!』


 吊るされた子ども達の足元にはなんの足場もないため、飛んでいる美夜(みや)にも頼んで運ぶことにする。

 子どもの元まで向かうように薔薇の橋に乗った。

 足元の薔薇は踏んでも崩れない。……愛とは案外強いものなのかも…と思いつつ、吊るされているままの子ども達を見上げる。


「どうやってこんなところに隠せたんだろ」


 一番近くにいた子へ駆け寄り、そっと身体を抱き上げる。


「…よかった、あったかい…」

『まだ生きてますね!』


 外の妖精が荒れ狂う声が響き渡る。


「うわわわ、ちょいちょい」


 穴の前でるんが焦ったように扇子を振る。動きは慌てているのに出てくる技は鋭利なものばかりで、妖精を何度も貫く。


「妖精にマガツヒがないんだけどぉ!」


 叫ぶるんに、桃梛(ももな)は表にいた妖精を思いだす。


「…確かに、マガツヒが無かった…」

「じゃあ…どこに……」


 抱き上げた子供へ視線を落とす。呼吸をした胸の動き、眉が小さく動き、呻く声が漏れている。

 同時に、その胸にある。本来ならないはずの白い輝き。

 呼吸が止まる。ヒュッと自分の喉が鳴ったのがわかった。


「────うそ」


 マガツヒは、子どもの胸に埋められていた。






桃梛(ももな)!」


 聞き覚えのある声に桃梛(ももな)は振り向く。

 黒髪に、青の目。青い眼鏡をかけて子供を3人抱えた蓮が、穴の中にいる桃梛(ももな)を呼ぶ。

 その後ろで、緋色が分断する前にいた妖精とこちらの妖精をまとめて吹き飛ばした。


「…蓮くん!この子にマガツヒが…!」

「うん、俺たちもさっきそれ確認して、子供たち回収してきた!こりゃ医療課案件だわ!」


 赤い髪の女性──小梅が、蓮の後ろから叫ぶ。


「マガツヒに感染していない子達を転送してます!この子達はマガツヒに感染は?」

「してないです。この子とこの子とこの子は大丈夫ですが、後の子達は感染してます」


 蓮の言葉に小梅は頷き、感染していない子達を転送する。

 気絶している子どもを小梅に任せて、蓮が薔薇の橋を渡る。


「うぉ、すご…綺麗…いやこんな時に言うことじゃないけど」

「…この子達、みんな感染してる」


 桃梛(ももな)が目を向けた先には、よく見ると足や胸、首に白い光が主張をしていた。


「……俺たちが連れてきた子も合わせて、マガツヒに感染してる子は十人ほどかぁ……どうなってんだいったい」

「…どうしよう、私たちじゃこの子達を救えないよ、取り出すわけにはいけないし」

「そうなんだよなぁ、どうなるかわからんのが怖いところ…一旦この中から連れ出そう」

「…うん」


 弱音を珍しく吐く桃梛(ももな)に蓮は笑いかけて子どもを3人背負う。

 桃梛(ももな)も二人ほど抱き上げ、美夜(みや)に他の子達を抱き上げるように伝える。


海棠(かいどう)さん、3人ほど運ぶの手伝っていただけますか!」

「おっけー!任せな!」


 4人で穴から出て外を見ると、折れた木々と森特有の匂い、水でびしゃびしゃに濡れた草むら、蜂の巣になった妖精二体がそこにはいた。


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