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守護の記録  作者: ツギハギ
神居政府・妖精編 後半
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第98神 朝梨の決意 side柊朝梨

「きゃぁぁ!」

「うぁぁあん!」「こわいよぉ!」「ままぁー!ぱぱあー!」「やだよぉ!」


血の匂いに混じって微かに潮が香ってくる。

子どもたちの泣き声に、小雪と竜胆が宥める。


「大丈夫だぞぉ、赤いお兄さんとお姉さんが守ってくれるからなぁ」

「怪我の処置したら帰ろうねえ〜」


震える膝を冷えた手で抑えて、玉さんに声をかける。


「玉さん、さっきから鈴の音がすると飛んできてるね」

『…じゃのう。妖精同士で会話をしゆうってことかもしれんのぅ』

「鈴の音から斬撃が飛んでくるまで、少しだけ時間がある…」

『遠くから飛ばしよるのかもしれんのぅ』


赤道(せきどう)が、盾を拾いながらため息をつく。


「──さっきから、突然こんな感じで飛んでくるんだ…なんの音もしないのに、急に…」


赤道(せきどう)さんの言葉に、違和感を覚える。

鈴の音が聞こえていない…?


壊れた壁の上に立つ立夏が斬撃が来た方向を見る。

それを下にいる、赤道(せきどう)が戦況を聞く。


「立夏、斬撃はどっから来てる!?」

「森の中…としか言えないなぁ〜霧が濃すぎて見えないんだよねえ」


うーん、と手で遠くを見るような仕草をしながら霧の方に目を凝らす立夏さんとその下にいる朝梨(あさり)


『殺気に反応しちょるがやろか…?』


玉の言葉に朝梨(あさり)が答えるより早く聞こえてくる。



リン


鈴の音。


バッと外を見ると、北方向──つまり立夏に向かって斬撃が飛んでいるのが見える。立夏は背中を向けているのでそれに気づいていない。

朝梨(あさり)は声を上げて、立夏に伝える。


「立夏さん、後ろから来ます、上に避けて!」

「OK!」


なんの疑問も抱かず上に飛んでくれたおかげで立夏の身体が真っ二つなんてことにならず済む。

ストンと同じ壁の上に降りた立夏は朝梨(あさり)に笑いかける。


「ありがとう〜朝梨(あさり)ちゃん」

「…いえ、よかったです」


リン、リン、リン、リン、リン、リン、リン、リン。


続けざまになり続けた鈴の音に玉が叫ぶ。


朝梨(あさり)!』

「我──朝梨(あさり)の名の下に玉さんの権限を開放する!

玉さん防御!」

『任せい!』


黒髪と水色のグラデーションから、長い黒髪に、水色と紫のグラデの髪へと変化した玉が片手を掲げる。


『我が名は玉依の神、海神。この世の全ての海よ。

我の手に。

母様がお前さんらを守っちゃる』


『海の壁』


城の周りを囲うように波が現れる。潮の香り、蠢く色とりどりの魚が波の上を走るように泳いでいく。次第にそれは壊れた城壁を覆いドームを作る。

まるで、水族館のように作られた海は一滴たりとも落ちてこない。外から聞こえる弾かれる音に斬撃が入ってこないことがわかる。


「よっし!」

『守るだけならわしの専売特許やきなぁ!』


力強く拳を握る朝梨(あさり)と自慢げな玉は、先ほど朝梨あさりを狙って崩れた壁から外を見る。

鈴の音が聞こえないことを確認してようやく息を吐いた。

海の匂いが充満した城の中────広間の端の方に固まる医療課の2人と子どもたちの方に視線を持っていき、全員が無事なことに安心する。

すると、お腹を抑える子や胸を抑える子が、小さな手で服を掴み竜胆達に抱きついて泣きながら何かを訴え始めた。


「痛いヨォ、痛いヨォ…っ」

「いたい、イタ、い…くっついちゃう、くっついちゃう…」


「──なんか様子がおかしくないっすか」


竜胆の言葉に小雪も頷く。


「…胸に、何かがある気がする…ねえ、朝梨(あさり)…この子のこと、視てもらえる?」


小雪が先程から痛い痛いと呻く子どもの身体を抱き上げて朝梨に向ける。

潮の匂いは依然と変わらず残ったままだが、朝梨(あさり)も小雪の言葉に頷き子どもたちの元へ向かうために足早に歩く。パキ、と貝殻の割れる音が響く。

おもちゃのロゴが描かれた、左胸に一つの違和感。


「っ、うそ…」




朝梨(あさり)と玉の目が見開く。

立夏や、赤道、そのほかの戦闘課の人たちは首を傾げた。

竜胆と小雪だけが、朝梨(あさり)と玉の反応に、苦々しい顔を見せて、小さく呟く。


「…あんまり考えたくは無かったが、やはり…」


点滅する白い光は子どもの鳴き声に合わせて強く光る。


その光には見覚えが何度もあった。


その形は、どう見ても────



『──マガツヒが埋まっちょる』


「、わ、たしが…刺さないとこれは、壊せない…ッ」


吐き出す声が喉に張り付くように震える。持っている刀から力が抜けそうになり、咄嗟に強く握る。


────マガツヒは、本来普通の人には見えない。代わりに神は見ることができる。

特殊な機械を用いて目の前にいる生き物が、マガツヒを保持しているかどうかを判断する。

一方で守護者は、神と繋がることができる。故に、神から生まれたマガツヒの光が見えるのだ。



だから気づかなかったのだろう。

マガツヒが、子供に埋まっていることに。


「生きてる人間はマガツヒに感染しないんじゃないの!?」

『こりゃぁ、妖精のイタズラじゃ。

妖精は本来、神とは違う形での神秘的、超自然的な存在。加えて秩序に従う神とは違って、妖精はもともとイタズラが好きやきねえ』

「…じゃあ、遊びで埋めたってこと?」

『自分が持ってたらすぐ壊される。やき、子どもに埋めたって感じかいね』


「…なんて卑劣な…!」


玉と朝梨(あさり)の会話に、流石に赤道と立夏も察しがついたのか、怒りに燃えて吐き出すような声をあげる。


「じゃあ、なんだ、子どもを俺たちは見殺しにしなきゃいけないってことか!!?」

「取り出せないの?それ!」


朝梨あさりの後ろで赤道と立夏が怒る。玉も苦々しい顔で、落ち着きがないように自身の刀を軽く触った。


『…わしら神はマガツヒを触ることはできん。触らずとることも出来なくはないけんど…』

「…今までの物語と同じセオリー通りなら、この子は…」


マガツヒを取り出されて壊した生き物たち──例えば七不思議は、最後に静かに消えた。

マガツヒが、この子を宿主としているのか、それとも代替としてるのかがわからない以上、下手にマガツヒを取り出して壊してしまうと子どもにどのような変化があるかわからない。

立夏が思わず呟く。


「…八方塞がり…」


ゆらりと玉が生み出した壁が次第に、解けるように消えていくのが見える。色とりどりの魚がいなくなる代わりに、最後に小さく泡の音が弾ける。

今度こそ、静かな広間に海の音とは別の、誰かの命を狩る音が一つ響く。


────リンッ


「鈴の音!」


音のある方を振り向くと朝梨あさりの後ろにいた赤道に向かって斬撃が飛んでいるのが見える。


「こんな時に!どっちだ!?」

「赤道さん、後ろ!」


朝梨(あさり)の言葉よりも早くに、斬撃が赤道の鳩尾を掠める。

赤道も盾で弾け飛ばすようにして子どもや朝梨あさりを庇ったが、その後ろにいた小雪もまた、少しだけ斬撃が掠る。


「ぐ、ぁぁあ…ッ」


「…っ、ぁ」


痛みから、赤い血が出る鳩尾を抑えるように蹲る赤道。

同時に赤道の後ろにいた小雪の切れた額から血が噴き出る。


「赤道‼︎」

「お母さん!」


立夏が赤道が駆け寄り、蹲った赤道の背中を摩る。


「手当を!」


竜胆が2人の手当てをしようと手を伸ばすが、小雪は竜胆に向かって片手で制して拒否する。


「大丈夫、1人でできる。赤道さんを先に!」

「…チッ、ちゃんと包帯巻いてくださいよ!」

「わかっちょる!」


足の重さからか動けなくなってしまい、朝梨あさりはその場に固まる。混乱していく現場をただ唖然と見ていた。視界に映る全ての動きがゆったりとしていて、視界が狭まっていくのを実感してしまう。


──お母さん、お母さん。 

ドッドッドッと心臓の音が鳴る。耳にこだまする脈の音に、肩で息をする身体に、指先が冷えて、頭が真っ白になる。

今、もう少しで母は死ぬところだった。


朝梨(あさり)朝梨(あさり)

「はっ、はっ、はっ、」


こわい、こわい、こわい。

目の前でお母さんが死ぬかもしれない事実に。

人が死ぬかもしれない現実に。


『目を背けたらいかん』


玉の鋭い言葉が聞こえてくる。ゆっくりと、肩を上から撫でるように、落ち着せるように触る、玉に人知れず息を吐く。


『お前さんが今、ここで背けたら』


子どもの泣き声、手当てをする医療の匂い。


怪我をした鉄の香り。


立夏や、他の戦闘課の人たちが妖精を警戒する、空気。


子どもが呼吸をするたびに上下する胸の上にある、光るマガツヒの白。




玉から香る、いつもの────海の匂い。


『誰がここを救うがじゃ』


黄色い、海とは真逆の色の目が、朝梨(あさり)を射抜く。

音の判断をつけれない、戦闘課の人たちに斬撃の位置を伝えることができるのは、今、朝梨(あさり)だけ。


マガツヒを、壊せるのも、朝梨だけだ。

斬撃が複数飛んできても、それを防ぐ力があるのも、自分しかいない。


誰が、ここを救い、この人たちを助けるのか。


────ふと、自分を救ってくれたヒーローを思い出す。


黒い髪の、強い意志を持つ────青の目。



息を吸って、ゆっくりと吐く。胸を押さえて、契印の書かれた太ももを少し撫でた。


そうだ、今ここで、この人たちを守ることができるのは…私だけだ。


私が救わずに、私がここを守れずに、何が守護者か!!


力があるのに恐怖で諦めるのは違う!



刀を握りしめる。その手に握られるものは自分の魂に合ったもの。自分が、なにをもってして守りたいと思ったのか、その意思を継ぐ物。

固まっていた身体の力をゆっくりと、ゆっくりと抜いていく。

できるよ、私なら。




「──そうだね、玉さん」


前を見据える。玉は、朝梨(あさり)の顔を見て一つ頷いた。

『それでこそ、わしの守護者やねぇ』

血が伝った頬を拭う。もう少し乾いてきている頬に、時間が経ってきたことに気づく。

「やろう、玉さん!」

『おうよ』

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