第96神 子どもの行方
歪んだ足に、笑いながら追いかけてくる妖精が何かを発しながら両手を掲げた。
【☆*→*$☆+○*♪☆○○♪・○】
光の玉が集まり、分散する。
「なに…」
緋色さんと小梅さんも何がくるのか、様子見をしているのか少し足が止まる。
すると、風伯の声が全体に響く。
『しゃがめ!爆発するぞ!』
地面に伏せた瞬間
──バンッ!!
歪んだ木が破裂音と共に穴を開けていく。
空間にも穴が空いていて、その先は真っ暗。
底が見えない。落ちたら、戻れないと直感でわかる。
カランと石が落ちるも、下に届く音が聞こえない。
「…ひぇ、奈落落ちってこと…?」
『妖精は術を扱う、特に自然現象…空間とかのな』
「空間干渉ができんのか…、そりゃ子どもが消えるわけだ」
「もう一発きます!」
今度は一つの塊として光の玉が飛んでくる。
咄嗟に右に俺と緋色さん、左に小梅さんが避ける。
光の玉が地面を抉り、また一つ、黒い穴が増える。
「さてどうしたもんか〜…」
ペロッと下唇を舐めながら、妖精から目を離さない緋色さん。
妖精が今度はまた何かを発した。
【#○♪・+♪○○・♪☆☆+€$】
植物が動き出し、蔓を伸ばしてくる。
「ちょっと俺近寄ってみるから、お前ら援護頼むぞ」
「えっ」
「ちょ!隊長!」
バッ!と走る隊長は蔓を掴み、引きちぎる。
「舐めんなァ!」
引きちぎられた妖精が叫ぶ。緋色さんはなおも走って玉や蔓を引きちぎっては進む。緋色さんに追いつくように走る。
息を吐く、まだだ……落ち着け、焦るな。状況を見ろ。
「なかなか、近づけねえな」
木の後ろに隠れながら座る緋色さんの顔は疲れていなさそうで…むしろどこか楽しそうに妖精を睨む。
「…あれにさえ当たらなきゃ俺たちは怪我しねえわけだ」
銃で狙いを定めて妖精を撃つ。死角から撃たれた妖精が悲鳴を上げる。曲がった足がさらに曲がり、360°に体の向きが捩れる。
「人と同じ大きさであの曲がり具合はだいぶきついな」
ダッとまた走る緋色さんを見据えながら、息を吐く。
「──…ふぅ……」
子どもが何処にいるのかもわからない。今見渡す限りだと居ないが、その代わりに散らばる小さな靴や、帽子に、気持ちが沈む。
「────我、蓮の名の下に」
腰に手を添えると、淡く、桃色に契印が輝いた。輝きとともに長さのある刀が現れ、眩い閃光と共に雷を鳴らす。
「雷鳴よ、暗雲の空を覆い、光の竜となれ」
腰の刀を抜くように、上へと引く。
「俺に力を貸してくれ、火雷!」
『任せて!』
隊長さんが避ける。
避けた先にあった蔓がこちらに飛んできたので、後ろから刀を取り出し、蔓を斬る。
「雷鳴一閃!」
バチバチ
雷の音ともに、蔓が真っ二つになり、空から雷が妖精に落ちる。
【☆*☆○*☆○☆!!】
甲高い悲鳴が一体を覆う。
緋色さんの足も一度止まって、口笛を吹いた。
「ひゅ〜流石守護者だ!」
妖精が両手を広げていくつか黒い球を空中に生成し、緋色さんと俺に向かって飛ばしてきた。
背中を突然誰かに踏まれる。
「うぉわ!」
前に屈めば、小梅さんが俺の背中を台にして飛んだ。
「ふんっ!」
手から飛び出た炎が妖精の周りを燃やす。
妖精は痛がるように体を動かし、絶叫した。
【☆***++××+×*+×☆*!!!】
じわりと、付近から隠されていた子供たちの姿が浮き上がってくる。
「!隠してたのか!」
静かになった妖精の足元のあたりに現れた子どもの服はところどころ赤い。
血に染まってる子どもの姿から見て、生きてない可能性の方が高いことに、胸が痛む。
ピクリとも動かないその小さな身体に強く目を瞑る。
見たくない、現実を直視するにはキツすぎる。
──間に合わなかったのか。
ふとその近くで、白い髪に映える、赤が空を舞った。
「おりゃぁ!」
緋色さんが、妖精に向かって一発顔に叩き込む。
メコと音がして、森の方に向かって遠くに吹き飛ばされる。
バキバキバキバキと木が折れていく音。
森が振動するように響く。
「…子どもの回収!」
「転送します!」
小梅さんがそう叫んで、転送用の陣を開く。
胸の音も聞こえない、ぴくりとも動いていない子供の姿に、理解してしまう。ああ、なんて…。
死んでしまった子どもたちをどこかに飛ばす小梅さん。
雨水の大災害の時を思い出してしまう。
守護者でも、守れないものがある、わかってる。
それでも、もっと早く来れたら…なんて考えてしまう。
目を伏せ苦しそうにしつつも、吹き飛んだ妖精の方を顔だけ向ける緋色さん。
転送される子どもを見送りながら、緋色さん声をかける。
「…転送できるなら、医療課の2人はいらなかったんじゃ…」
「必要だ。医療課は現場で生きてる人間がいたらそいつらの保護と怪我の対応をしてもらうために居てもらわないとならない。」
「そんで、君たちはそれだけの医療課二人を守れる実力がある。って上司から評価されてるわけだ」
「…そういう、ものなんですか」
「そういうものだ」
戦闘課や他の課が戦っている間、無防備になるからな、と緋色さんは言う。
視界の端に、それが映った。
黒く口を開けた空間の穴。
その奥で──何かが、動いた。
「……え」
よく見れば、それは人の形をしていた。
「……子ども、か…?」
だが、その身体は浮いている。
その光景にゾッとする。生きているのかも死んでいるのかもわからない子どもたちの姿に焦る。
思わず駆け寄るが、そこは奈落の底。
「うぉわっ」
「焦るな!ばか、危ないぞ!」
落ちかけた身体を緋色さんに引っ張られる。
「ご、ごめんなさい…」
謝りつつ前を向くと、糸に吊られたみたいに、不自然に浮いているその身体がぴくり、と動いた。
胸が上下して子どもの口から小さな息が吐かれている。表情は苦しそうだがそれ自体が生きているという証拠だった。
「まだ、生きてます…!」
しかしその光景は、もはや森ではなかった。
吊るされた子どもたちで満たされた、異様な空間だった。




