第92神 食堂へと向かう道のり
閉じて、螺旋階段も降りた後浄化された人形を懐に入れながら、浄化課を見上げる。
本当に綺麗な部署だ。白いだけじゃなく、空気も、清廉としている。
浄化課の扉の前でお別れをしようと振り返ると白藍さんが微笑む。
「この後はどうするの?」
「え、あ、帰ろうかなと思ってます」
そうだよね?とるんと桃梛を振り返ると二人も頷いた。しかし白藍さんは腕を組んで俺たちを見る。
「おや。今からちょうどご飯時なのに?せっかくだし俺が奢るよ」
「え!?いや…でもそんなわけには…」
桃梛と共に慌てていると、るんが、一言。
「朝梨ちゃんも待ってあげたいし、奢ってもらった方がいいのでは」
「いや、まぁ…そうだけど」
白藍さんが──というよりその帽子の目がキョトンとする。
「他にもお仲間が?」
「はい、ちょっと今別行動してて…」
ふむ、と呟いた白藍さんと帽子の目が連動している。
「じゃあ先に食堂にいこう。で、食堂で待ってよう」
歩き出した白藍さんの後ろを慌てて追いかける。
「あ、は、はい!」
ソフィアさんも『今日はなんでしょうか、おうどんがいいです私』と言ってる。
え、ソフィア様のも俺が奢るんですか?なんて軽口を叩く2人を見つつ、俺たちは帽子が気になってしかたなかった。
「…あの、その帽子は」
「ああ、これは俺の感情に合わせて動いてくれる生き物だよ」
「生き物…!?」
「俺の目は天眼でね」
わからないので首を傾げる俺たちに、ニヤッと笑った。
「なんでも見通す目を持ってるんだ」
「え!?すごい!」
「でも、見たくないものまで見れてしまうから普段からこうして目を隠してるんだよね。
まあ、隠してても見えるから、この帽子なわけだ」
「その帽子が目の代わりになってるってことですね?」
「いいね、蓮くんのその回転の速さ。そういうこと。サイバー課…という名の物作りや機械関係の課が作ってくれたんだよ」
「へぇ〜!」
『サイバー課には花雨のお父上もいるんですよ』
「あ、さっき呪術課でぶつかったの緑の人…?」
「すごい勝手に家庭の事情話すじゃないですか」
『あら、ダメなことなんですか?』
「…いやー…」
桃梛とるんが苦笑いを浮かべる。
神様って案外雑だなぁ。
食堂へ向かうために、クラゲエレベーターに四人と神様一人で乗る。
「ソフィアさんって、鷺沼さんの守護者ですよね?」
『ええ、そうですよ。どうかされましたか?』
「ほら、さっきなかなか起きてこない〜とか言ってたからもしかして、ここに住んでるのかなって」
俺の言葉に桃梛とるんが、おぉ、と何故か感動している。なんで感動してんだよ。
『おや、よく覚えてらっしゃる。そうですよー、ここが広大のお家です』
くるんと一回転して、両手を口元に持っていきくすくすと笑った。
『昔からあの子は責任感が強くてですねえ、ほら、何かと世話焼きでしょ?もうすぐにあっち行ったりこっち行ったりと勝手に動いて』
やれやれと首を横に振った、ソフィアさんは、まるで頑張り屋の弟を持った姉だ。
『だから、一度叱ったことがあるんですけど』
「…神様に叱られる鷺沼さん…」
想像できないな、と脳内で描くが黒いモヤがかかる。
『さすがに堪えたのかしょんぼりしてましたね』
「へえ、しょんぼりしてる鷺沼さんも想像できませんけど、世話焼きなのは変わらないんですね」
『そう、妹がいるんです。ちっちゃーいかわいい子で、政府の孫なんです』
「政府の孫とかいうパワーワードきたな」
『ふふ、かわいい子なんですよ〜まだ5歳で、私が抱っこするとそれはもう喜んで』
「お姉ちゃんというよりおばあちゃん…」
思わずるんが呟く。
それは俺も思ったけど口には出さなかったぞ俺は!
『まあ年齢的にはそうですねもはや先祖ですよ』
「神様的にもいいんだ!?そのノリ!」
「意外と、政府の中で育った子どもは多いんだよ、竜胆とかもその口だね」
「竜胆さんも!!?」
「俺は今28なんだけど、来たのは22の時ね。だからまだここでは新人」
「こんなに貫禄あるのに…」
本当に、めちゃくちゃベテラン感あるけどな…。
「長い人だと30年の人もいるからまだまだペーペーだよ」
「30年!そこまで続くってことはなかなかですよね」
「まあ続けやすい会社だよ。どう?来ない?浄化課」
『あら、ダメですよ〜守護課はまだまだ人材不足…って幻治郎と広大が嘆いてたんですから』
「条件が厳しすぎるんですよ、守護課は」
確かに…前世と守護神ありきの課だから、入れる人はかなり限られてくるだろうなぁ…。
『そういえば守護課の中では幻治郎と漆黒の二代トップを女の子が争ってましたねぇ』
懐かしい…なんて言いながらソフィアさんを連れ立って政府の廊下を歩く。
「まあ、幻治郎さん…45歳の顔じゃないもんな…」
「その辺の俳優さんみたいな顔してるよね」
「そもそも神居の顔面偏差率高いんだよ」
俺、桃梛、るんが幻治郎さんの顔を思い出しているとソフィアさんの、綺麗な顔が近づき足が止まる。
『そうなんですか?』
もうすでに綺麗な顔してるもんなぁ…彫刻的な、美?
逆さまになって浮いているソフィアさんを見て俺たちは苦笑いを浮かべてしまう。
美人は何をやっても美人だが、神様たちは特に変なことをしているなぁ…。
「神様のビジュアルが全部いいからなあ…」
「神居の人たちもみんなビジュアルいいよね」
桃梛とるんがソフィアさんの顔を見ながら言う。
お前らもだぞ…とは言えなかったが、周り曰く俺もお母さん似らしいのでもしかしたら本当に神居のビジュアルが良いだけなのかもしれない。
「ていうか女の子が争ってたってことは結構…」
桃梛が、幻治郎さんを思い出す。
うん、まぁ…。あの見た目、あの性格ならモテそう…。
『幻治郎、実は変わってないんですよね見た目…ほとんど。しわあるんですか?ってくらい綺麗な顔してるじゃないですか…何してるんですか普段って聞いたら、嫁…玉藻がなんかやってるって言ってました』
「奥さん仕立ての顔ってことですか!!」
想像できない、奥さんに何かしら塗られてる幻治郎さん…!!
「顔の整い具合と、あの大人の色気…?貫禄…?凄いよね…隣で微笑まれるといつも、ワァ……ってなる…あと、鷺沼さんも!」
「もしかして守護者になる人って顔採用…?」
「その理屈でいくとお前らもだし俺もになるよ…?」
桃梛が顔を両手に当てながら笑い、るんが顎に手を当ててもしや?と呟いている。
「いやお前らは美人だろ」
「え、そうなの?」
「顔整ってると思う」
照れたようにはにかむ二人と、ほっこりした顔のソフィアさんと白藍さん。
「言っときますけど桃梛は彼氏いますからね!」
「俺は蓮くんってストレートに褒めるんだなぁと思っただけだよ」
なんか俺まで恥ずかしくなってきた…うぅ。
守護者仲間としてよく話すようになって、みんなから嫉妬の視線を浴びてんだからね??
自覚ないところがまた納得しかないんだけど…。
そうこう話しているうちに一階へとたどり着く。廊下から漂う美味しいご飯の香り。お肉や、何やらスープのような匂いまでしてきた。
「さて、ここが食堂」
白藍さんが片手をあげて食堂と書かれたプレートに向かって示した。
呪術課や浄化課のような特殊な入り方をしなくても、普通のスライド扉の奥にはたくさんの机とガヤガヤとした人の声が外からも聞こえる。
「さあ、入ろうか」
神居政府の食堂。それだけですでにドキドキとワクワクが止まらない気持ちのまま一歩踏み出したのだった。




