第89神 side 柊朝梨 柊朝梨が会いたかった人
一人で政府の中を走る。
真っ白な廊下はどこか清廉としていて不思議と昔の記憶を思い出させる。
「…確か、右、左、まっすぐ、突き当たり…」
昔の記憶を掘り起こしながら、目的地に向かう。
「あれ、柊さんところの娘さんですか…?」
知らない職員さんに声をかけられる。よくわかったなぁ私だって。
あまり顔をあげれない、なんだか気恥ずかしい気持ちになったから…。
「…えと、」
「ああ、そのピアスが、昔柊さんが付けてたものと同じだから。柊さんは今ちょうどそこにいますよ」
教えてくれた優しい職員さんは、すぐ近くにある扉を指さした。
「! あ、ありがとうございます!」
反射的にパッと顔を見ると、見覚えのある人だった。
「──あ」
微笑み、首を傾げる黒髪の、オレンジの目の人。
「……葬儀を、してくれた…」
頭を軽く下げられる。
お姉ちゃんの………葬儀で壺を抱えてくれていたお姉さん。
「…あの、名前は…」
「来園眠花です、初めまして…というよりは、お久しぶりですね、朝梨ちゃん」
「あの、時は…ありがとうございました…!」
お辞儀をすれば眠花さんは微笑み、お辞儀を返される。
「こちらこそ」
「……また、お話ししたいです。良いですか…?」
「…ふふ、良いですよ」
RIRINの交換をする。アイコンの睡蓮の花。意外だなぁと思いつつ眠花さんを見ればふわりと笑みを浮かべられた。
綺麗な人だなぁ…。
…でも、胸が痛くなるのはなんでだろう。
お姉ちゃんを思い出したからかな…。わかんないや。
「それじゃあ、またお会いしましょうね」
「…!はい!」
眠花さんの後ろ姿を見送る。眠花さんが右に曲がって、消えたところで自然と押さえていた胸の手を下ろす。
どこか、懐かしい記憶を思い出してしまった。忘れようと思っていた、葬儀の記憶。
最近になってから、思い出す日が増えた気がする。
少しだけ肩の力が入っていたのか、息を吐いた。
「…いけない、お母さんに、会いに行くんだった!」
扉を開けると誰かと紙を手にして話す母親の後ろ姿。その背中が振り向いた。
「──朝梨?」
ふわふわの髪に、毛先が白い、入学式の時に見た姿。
白衣を着てるから仕事中だとはわかっていたがどうしても会いたかった。
「お母さん!」
「ええー!朝梨ー!久しぶりやねえ!」
お母さんに抱きつくと、抱きしめ返してくれる。
「おいおい、同じ苗字だと思ったらやっぱ小雪さんの娘さんか」
「そうよ〜うちの子、可愛いやろ」
「俺がそれでかわいいって言ったら今じゃセクハラですよ」
この声は、竜胆さんだ。七不思議が終わった時に診察をしてくれた、お兄さん。
「あの節は、どうもありがとうございました!」
「いーえ、もう無理はしないようにしてくださいね、お嬢さん」
「あ、そっかぁ…朝梨も守護者になったんやもんねぇ…」
嫌そうに顔を顰める母に、申し訳ない気持ちになる。ごめんね、お母さん。
「……あー、親子水入らずでお話でもしたらどうです?俺の報告したかった内容は伝えたんで、じゃっ」
竜胆さんはそう言って、さっさと部屋を出て行った。
「…朝梨、元気にしてた?」
抱きしめていた手を離して頭を撫でた後肩、腕、手、と触診をされる。
職業柄なのだと思う。癖なのか、小さい頃からいつもそうやって触られてきた。
「うん!元気、入学式以来?」
「そうやね、良かったぁ、守護者になったって聞いたき、大丈夫やろかって心配しとったがよ」
「心配せんでも大丈夫やき」
「わかっとるけどねぇ」
やれやれとため息をつく母に、少し嬉しくなる。
「今ね、友達と来とるがよ」
「守護者の?もしかして、蓮くん?」
「えぇ!?なんでみんな知っとるん?」
ふふ〜と笑った母は、「あの子は特殊やきねぇ」と呟く。
何が、特殊なのかはここの人たちも、鷺沼さんたちも、誰も言わない。
ただ、神無蓮くんという存在が、大人たちにとって大きな存在であるということは流石の私でもわかった。
「…でも蓮くんいい人よ」
「知っとるよ、優しい子なんやろ?幻治郎さんが言うてた」
「…うん」
顔を伏せて少ししょんぼりしていると、母に頭を撫でられる。
「あのね、蓮くんは私のヒーローながよ」
「…そっかぁ」
ふふ、と抱きしめられる。
「お父さんとこ会いに行こっか」
「高校生なのにお母さんに会いたいって思うのはおかしいやろか」
「ええやんか!高校生でも大人になってもお母さんとお父さんからしたら娘よ!」
もう一度、ぎゅうっと抱きしめられたので抱きしめ返す。
大好き、お母さん大好き、私ね、強くなるが。
お姉ちゃんよりも、お父さんもお母さんも、守れるくらい強くなって
私のヒーローを守れるような人になりたいの。




